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出産前に赤ちゃんのDSDが判明した場合

What to Expect When You Are Expecting?

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A君のお母さん

出産前の超音波検査で赤ちゃんのDSDが疑われたお母さん
 

 

「とにかく生きてほしい!それだけになったんです。息子がやっと戻ってきて私の胸に託された時、私はこの子を愛せるのだろうか?という心配は全て消え去っていることに気が付きました」

現代のDSDsの医療の進歩には目覚ましい物もありますが、それゆえに、お子さんの出産前に、お子さんのDSDの可能性が分かったり判明したりする場合もあります。さまざまな判明の仕方がありますが、今回ご紹介するのは、イギリスのDSDサポートグループ「dsdファミリーズ」に掲載された、出生前の超音波検査で、赤ちゃんの外性器の形状から、なんらかのDSDを持っている可能性が指摘されたお母さんの体験談と、同じような状況にあるご家族の皆さんへの大切なアドバイスです。

 

基本的なこととして、どのようなご家族の方でも、生まれてくる赤ちゃんの幸せを望まない人はいません。ですが、赤ちゃんに何らかの障害や体の特徴をがあると、特にお母さんにとってはとても心痛むことになるのは十分に理解できることです。一般的に、赤ちゃんが障害を持って生まれたお母さんの心理は、赤ちゃんを死産した心の痛みにも匹敵すると言われています。これは、まずは、「障害を認めていない」という単純な話ではなく、我が子の幸せを思う上での、これからどうなっていくのだろうという不安・恐れ故でしょう。ぶつけどころのない怒りが湧いてくることもありますし、自分が悪いんだという罪悪感にさいなまれることもあります

 

ここでご紹介するA君のお母さんは、そういう場面を乗り越えた上で、みなさんへのアドバイスを書いていらっしゃいます。続く文章では、サポートグループ「dsdファミリーズ」からの詳しい解説も載っていますので、是非そちらも読んでください。

 

私たちネクスDSDジャパンも、DSDを持つお子さんのご家族の方が、大丈夫だと思えるよう、DSDを持って大人になった方の体験談や、ご家族のみなさんの体験談をこれからももっと翻訳、掲載していければと思っています!

赤ちゃんが生まれる前に、然るべき人と会うようにしましょう。

 

 出産前の検査などで赤ちゃんの外性器の形が、想像していたものとは違う形状で、DSDの検査が必要になるだろうという場合、できるだけ早くDSD専門の小児内分泌科医を紹介してもらうようにするのが重要です。

 

 イギリスなどのDSD医療チームは、大きな病院(訳者注:日本では大きめの旧国立病院、大学病院などの第三次医療機関)であれば見つかると思います。見つかれば、先にコンタクトをとるようにしましょう。そうすれば病院のDSD医療チームも準備ができるでしょう。心理的な支援も、事前に、もしくは出産直後から得られるようにしましょう。心理的な支援は、みなさんが赤ちゃんのこれからの発達を理解したり、みなさんの友達や家族にどう話すかなどなどの事を考えていくのに役立ちます。

 

 ともかく、出産前に然るべき専門家に会っておくことで、出産後の諸々を(少しだけでも)冷静に受け止めていくことができるでしょう。

 

 

でも正直、そんな気分にはなれないかもしれませんね…。

 

 でも、赤ちゃんが生まれる前にいろいろなことを知っておくことで、心の準備ができるものです。これからの計画を考える時間もできますし、いろいろな機会を事前に得ることもできます。胸の内を話すこともできるし、近しい家族、それ以外の人にどう話すのか決めていくこともできる。生まれてからしばらくの間、どういう治療をしていくかなどの決断について、かなりプレッシャーを低くすることもできます。

 

 

「一番の正解」を考えるのはやめましょう。

 

 「一番の正解」を求めるのは、むしろ有害です。どのような答えも、自分の思った通りになる確率は50%くらいなんだと思っておくようにしましょう。

 

 

もしインターネットで検索する場合は、自分自身の勉強のためだけにしましょう。

 

 お医者さんたちは赤ちゃんの体の状態がどのようなものか見極めるために、検査など十分な時間をかけます。インターネットの情報だけで診断を憶測するのはやめましょう。私は個人的には、お医者さんとの診察で使われる、(時にとても)分かりにくい専門用語の意味を理解するのにインターネットを役立てました。良いこと悪いこと、どちらも心の準備ができるようにしておきました。

先のことを考えておきましょう。

 

 出産後、分娩室を出た後の個室を取っておくようにしましょう。本来は病院が用意すべきところですが、一応確認しておいてください。また、DSDについて知らない病院スタッフが部屋に出入りしていいかどうか、先にリクエストしておいてください。担当のお医者さんや助産師さん、看護師さんなどはみなさんの状況を知っていると思いますが、清掃スタッフなど状況を知らない人もいますからね。そういう人が最初に訊いてくるのって、たいていは「男の子ですか?女の子ですか?」でしょうから。心の準備もできていない時に出し抜けに訊かれたら、答えるのがつらいこともあります。

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超音波検査について

 

 出産後の回復のため、産婦人科で数日入院するのが通常ですが、その間にまず最初の血液検査の結果が返ってくるでしょう。またこの間、赤ちゃんのおなかの中を調べるために超音波検査が行われる場合もあります。ですが私も後で学んだのですが、この状況での超音波検査はそれほど信頼できるわけではないようです。できれば誰かにそれを言ってもらえてればと思いました。

 

 

なんでも訊くようにしましょう。

 

 理解する必要のあることはどんなことでも質問するようにしてください。ノートを作って、ちゃんと書き留めておくようにしましょう。この際、バカな質問なんて全くないのですから。

あの時私が苦しんだひとつは…

 
 もし子どもが骨形成不全症や顔のあざを持って生まれたのなら、それが何か、どういう影響があるのか、他の人にはちゃんと説明ができただろうにということでした。多分、どういう治療法があるかどうやっていくかも、簡潔に説明できただろうと思います。寄付を募る活動も率先してやっただろうし、地域での勉強会も開いたかもしれません。

 

 そういうことをやることで、私自身が助かるところがあっただろうと思います。私ってそういう性分ですから。でも、これは、息子の骨でも顔でもない、性器の問題なんです。

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寄付活動や勉強会をすると、息子のプライバシーを大切にする、彼のプライバシーは彼のものだという根本的な彼の権利を損なうことになる。大きくなって、誰に話しをするのか決めるのは、誰でもない彼自身なんです。私にできることは、息子がいろいろな困難な状況を乗り越えていけるレジリエンス(訳者注:逆境を乗り越えていく力のこと)と力を与えていくことだと思ってます。私は、私が息子になり代わって息子自身のことを外に話すということはしたくないと思っています。

 

 

バースプランを立てるときは、この際ですから、皆さんが必要と思うことを率直に伝えましょう。


 今回は私は3人目の子どもでしたが、1人目の時はバースプランを書きました。その時は「どこでもいいですので、すぐにスキンシップを取りたいです。それにできれば最初のオムツ替えもさせて下さい」と書きました。


 私としては、今回の出産でも他の子どもたち同様、生まれてくる瞬間を祝福したいと思いました。そして、「下半身」の見かけに囚われたくないと思いました。オムツ替えは、そういう大切な時間をつらいものにしてしまうかもしれない、とにかくまず誕生を祝福したいと思い、助産師さんにはそのことを話し、彼女は喜んでオムツ替えを引き受けてくれました。


 ですが、実際にはそういうことは起こりませんでした。出産時私の赤ちゃんは(DSDとは関係なく)真っ青でぐったりして生まれてきて、すぐに蘇生台に運ばれたんです。その瞬間赤ちゃんの下半身の見た目なんて全く関係なくなりました。とにかく生きてほしい!それだけになったんです。息子がやっと戻ってきて私の胸に託された時、私は「この赤ちゃん(it baby)」*を愛せるのだろうか?という心配は全て消え去っていることに気が付きました。

 


Aは今7ヶ月。すくすく育っています。Aの出生前の診断は、高度の尿道下裂と二分陰嚢でした。出生後の検査で、診断は卵精巣型DSDに変更されました。

 

Aの母より

 


*病院で私は、赤ちゃんのことを「it baby」と呼ぶように勧められました。こういう呼び方はあまりうれしいものではなく適切でもないように思いました。その時の正直な想いです。

DSDファミリーズから追記

 

 とてもためになって正直な想いを綴ってくれたA君のお母さんに感謝します。ここからは、同じような状況にあるお母さん・お父さんに、更にいくつかのヒントと考えを書いておきます。

最初のスタート

 

 もしみなさんが出産前に情報を得ておきたいと思われるなら、是非、赤ちゃんが少し違う外性器の形状で生まれた場合には… ―最初の日々のためにーをご覧ください。これからしばらくの間やっていくこととその順番について、見通しがつけられるように作ってあります。こちらからどうぞ。

 

 また、DSDについて学び始めるのに、こちらのウェブ資料もご覧ください。(カナダのトロント小児病院が作ったDSDsと体の性の発達についての解説です。ネクスDSDジャパンでは日本語版を作成中です)。

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 こういう資料の情報は、最初は難しく、見るのがつらくなるものかもしれません。ですが、さまざまな体の性の発達がどのように起きるか理解し、外性器の発達過程や子どもの成長と二次性徴について学ぶには、分かりやすいスタートポイントになるはずです。

 

 インターネットでむやみに検索するのは私たちはおすすめしません。推薦されているリソースを見るだけにしてください。残念ながらインターネットには時代遅れの情報も多数あり、センセーショナルにしたい人の無知や偏見も多く書かれています。私たちとしては、体の各状態に応じた新しい情報マテリアルを作っていきたいと思っています。

 

 

プライバシーについて

 

 みなさんにはプライベートな部屋・スペースが用意されるのが常識とは思いますが、産科病棟というのは一般的にせわしげなところで、個室も確約されるとは限りません。私たちのグループの中にも、カーテンでしか区切られていない大部屋を割り当てられたご家族もいらっしゃいました。これでは心も落ち着かないでしょう。どうか遠慮なく、「私たち家族にとってとても重要な事なんです」と、個室を求めるようにしましょう。

 

 小さめ目の産科病院では、少しプライベートすぎる部屋を用意されるということもあるかもしれません。それは病院側が、どうすれば皆さんを支えられるか分からないから、ということもあり得ます。そういう場合も、落ち着いて、「こういう状況はなかなか無いと思いますし、専門の先生を待っている状況だというのも分かってます。ただ、少ししばらく、食事やお風呂、トイレや痛み止めのお手伝いをいただけませんか?」と伝えましょう。

 

 

難しい質問にはどう対応するか?

 

 病院にいる間、みなさんの心の準備がない時に、もし誰かが、みなさんの赤ちゃんが男の子か女の子か訊いてきたら、「ああ!訊いてくれてありがとうございます。ただ、今は、プライベートでいたくて。。ごめんなさい」と、友好的かつはっきりと伝えましょう。(家で練習しておいてもいいかもしれません)。そして、どうか恐れないで。

 

 お子さんに起きていることが皆に知られて、注目の的になってしまう心配をされる方もいらっしゃるでしょう。本当のところ、そういうことはほとんどありません。それに一般的には、みんな、出産というのがとても大変なことだということも分かっています。話す気力もないという状況や、ゆっくり休む必要があるという状況も、皆んな理解してくれるはずです。

 

 

超音波検査について

 

 みなさんの赤ちゃんのお腹の中の発達状態を調べるため、たとえば、骨盤に子宮や性腺(卵巣や精巣)があるかどうか調べるために、超音波検査が行われることがあります。ですが現実としては、どれだけ熟練した検査技師でも、誤った結果が出ることもあります。

 

 みなさんの赤ちゃんが実際にはどのような発達をして生まれてきたか本当に分かるには、しばらくの間辛抱して、「より大きな俯瞰図」を待つ必要があります。つまり、すべての検査が終わって、赤ちゃんの発達状態を示す全ての情報が集まり、専門のDSD医療チームでの話し合いを、辛抱して待つようにしてください。

 

 

バースプランについて

 

 もしバースプランを書かれる場合は、赤ちゃんが生まれた時、地域の病院に何をして欲しいか(専門のDSD医療チームの情報提供と予約、どんな検査が行われるか教えてもらうなど)、お母さんと赤ちゃんとが、いつどのようにDSD医療チームのいる病院に転院するかなど、はっきり伝えるようにしましょう。特別な機会なのですから、許可が出ると思います。

 

 

お父さんへ!

性分化疾患を持つ子どもの親御さんたち

 お母さんと赤ちゃんにはたくさんのサポートが向けられますが、そういう状況はお父さんにとっては少しつらいものになるかもしれませんね。こういう不慣れな状況(DSDもそうですが、赤ちゃんが生まれるという状況自体も)で、いかに奥様と赤ちゃんを支えていけばいいでしょうか? 今起きていること、それぞれの想いをふたりで話し合う時間をとりましょう。おふたりの波長は合っていますか??

 

短期的、中期的、長期的な疑問をそれぞれリスト化しましょう。互いの望みや心配事をふたりでどう学んでいくか、いかに協力しあっていくか、それも考えてみましょう。

 赤ちゃんが生まれた後は、赤ちゃんのお風呂担当になったり、げっぷのお世話をしたりするのもいいかもしれません。奥様や赤ちゃん、他の家族メンバーだけでなく、お父さん自身も、ちゃんと食べて、自分自身をいたわってあげてください。

 

 お父さんの中には、赤ちゃんの内性器・外性器について話すことに抵抗を感じて、その場に居づらく感じる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、どうか、お父さんである皆さんは、赤ちゃんのとても重要な守り人なのだということを思い出してください。話し合い全てに参加して、学んでいくようにしてください。

 

 お仕事を休めないお父さんもいらっしゃるでしょう。さまざまに湧いてくる疑問に対応することに、ストレスを感じることもあるかもしれません。自分自身がこの状況にどう対応していくか、前向きに考えるようにしてください。お仕事に戻る前に、自分が相談できる友人はいらっしゃいますか?友人と話すことは、疑問や不確かさに対する感情、心配事に対応していく助けになります。友人に赤ちゃんのことを話す心の準備ができないお父さんもいらっしゃるでしょう。その場合は、DSD専門の心理師や、内分泌専門の看護師などに相談されるといいでしょう。

 

 どんな時でもですが、DSDというのは、みなさんのかわいい赤ちゃんの一部に過ぎないのだということを忘れないで下さい。心配だらけになるのも、最初の日々だけです。

 

 お父さんのお子さんに対する愛情とサポートがあれば、みなさんの赤ちゃんも、幸せで自信を持ったお子さんに育っていきます!

出産時に判明するDSDsについて

DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患)には、約60種類以上の様々な状態があり、状態ごとに、命の危険性や妊孕性、これから将来のことなど、気をつけねばいけない点がさまざまに異なってきます。

 

またDSDsの判明時期もさまざまで、大きく分けると、①出産前の検査、②出生時、③思春期前後、④不妊検査時などの時期があります。


現在では、DSDsについての医学の進歩から、赤ちゃんが生まれる前、まだお母さんのお腹の中にいる時に判明するという場合も増えてきています。

性分化疾患を持つ男性・女性の皆さん

上の写真は、出生時にDSDsが判明した男性・女性の皆さんです。外性器の形状の違いから、性別判定にしかるべき検査が必要とされる体の状態にも、卵精巣性DSDやPAIS、MGD、CAH、尿道下裂などさまざまなものがあり、中には命に関わる疾患もあるため、厳密な検査が必要になります。

 

ここでご紹介したA君の卵精巣性DSDにもまた、性腺が片側卵巣・片側精巣の状態や、卵巣に精巣成分重なっているなど、いくつかの体の状態があります。卵巣・精巣が同時にあると聞くと、あまりご存じない方は、すぐに「男でも女でもない」というステレオタイプな思考が働きそうですが、人間の体の性は、外性器の状態、ホルモン量、子宮・膣の有無、XY染色体、そして遺伝子など、さまざまな要素が総合されてできあがっているもので、性腺の違いだけで決まるものではありません。(どうも現代の私たちは、男性・女性の本質は、精巣や卵巣という内臓器官の一部に過ぎないものや、染色体という記号に過ぎないものにあると考えがちで、そこではたやすく、全体としての「人間」がきれいさっぱり忘れられがちです)。たとえば、完全型アンドロゲン不応症の人は、XY型染色体で精巣を持っていますが、彼女たちは完全に女性ですし、性腺が卵巣や精巣に発達する前のままになった索状性腺を持っている人には、ターナー症候群の女性やスワイヤー症候群の女性もいます。つまり、卵精巣を持っている赤ちゃんでも性別判定は可能なのです。もちろん、性別変更の可能性がある場合もありますが、大部分の場合は、判定された性別に問題がないまま育っていく子どもがほとんどです。

 

ですが、親御さんにしてみれば、このような状況があるということ自体、初めて聞かれるということが多く、体の性についての疾患にかかわらず、赤ちゃんに何らかの障害がある時は、大きなショックと悲嘆、罪悪感を持たれる場合がほとんどです。医療での手厚いサポート体制が必ず必要になります。また、患者・家族のみなさんのサポートグループも。大人になって、他の皆んなと変わらず、社会で活躍している当事者のみなさんの姿を見ることで、これからの将来に自信が持てるようにもなります。

 

大丈夫ですよ!一緒にがんばっていきましょう!あなたはひとりじゃありません!

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