第1章:フランドルにおけるインターセックス/性分化疾患

Updated: Jun 16, 2018

最終更新: 7時間前



定義


 性分化疾患/インターセックスの体の状態とは,様々な原因による,先天的な医学的生物学的な体の状態の一群である。インターセックスの体の状態/性分化疾患には40種類以上の体の状態があり,すべてがすべて目に見える違いがあったり医学的症状があるわけではないが,共通しているのは,それらが,性染色体,性腺,身体の構造におけるバリエーションであるということだ。生物学的な体の性の構造や特徴のこういったバリエーションは,典型的な男性の体,典型的な女性の体の定義には相容れないものである(van Lisdonk, 2014)。


  1. 性染色体は,XXやXYといった染色体の対,もしくは組み合わせ(XXYやXY/XX)を指す。

  2. 性腺には,卵巣や精巣,あるいは卵巣組織と精巣組織の組み合わせ,あるいは十全に発達していない状態/卵巣組織あるいは精巣組織に分化した状態がある。

  3. 身体の構造とは,内外性器の構造(クリトリス/ペニス,子宮や前立腺など)を意味する。


分類について


 インターセックスの体の状態/性分化疾患は,染色体パターンや,このバリエーションの原因となったメカニズムをもとに分類されることがある(Hughes, Houk, Ahmed, Lee, & Group, 2006)。



(ⅰ)XY染色体DSD:染色体の状態には,クラインフェルター症候群(Xが1つ多い47,XXY),ターナー症候群(Xが1つの45,X0)といった性染色体の数のバリエーション,もしくは,1つの体の様細胞がいくつかの性染色体の組合せになっている(たとえば卵精巣性DSDあるいは混合性性腺異形成などの45,X/46,XY)という場合がある。



(ⅱ)46,XY DSD:この性分化疾患/インターセックスの体の状態は,精巣の不完全な,もしくは非典型的な発達,あるいはアンドロゲンの産生もしくは働きの減退に由来するものである。46,XY DSDは出生時,外性器が非典型的な見た目(たとえば予期されたよりも大きなクリトリス)である際などに認められることがある。あるいは尿道下裂(尿道口開口部が非定型的な位置にある状態)といった,もっと微かな状態バリエーションもある。外性器の形状が女性型で,(鼠蹊部のヘルニアに対する介入後や,思春期の二次性徴あるいは初潮の発来の欠如などを契機に)診断が児童期でも後期になるものも多い。このような体の状態には,完全型アンドロゲン不応症(CAIS)の場合が多い。



(ⅲ)46,XX DSD:46,XX DSD/インターセックスの体の状態の大多数は,副腎皮質からの過剰なアンドロゲンを起因とするもので,副腎皮質過形成(CAH:以前は副腎性器症候群と呼ばれていた)と呼ばれている。これは,出生時女児の赤ん坊の外性器が男児のもののように見えるような影響を与えるものである。CAHは生命の危険のある病態で,ベルギーでは全員の乳児にかかとプリック検査(訳者注:新生児マススクリーニング検査のひとつ)が行われ特定するようにされている。他の 46,XX DSDには,メイヤー・ロキタンスキー・クスター・ハウザー症候群(MRKH)がある。これは典型的な女性ではあるが,膣の大部分と子宮が発達していない体の状態である。診断は一般的に,初潮の欠如によって,思春期前後に判明する。



図1)体の性の発達

胎生期最初の6週目には,どの胎児も,原性腺と(内外)性器の組織が特定できる状態になる。



 典型的な体の状態では,原始胎芽はXYの個体の場合6週後より,染色体上の(SRY遺伝子などの)遺伝子の作用で,ホルモンを産生する精巣を分化させていく。



 前精巣分化の遺伝子シグナルがない場合,前卵巣分化の遺伝子シグナルの効果が重要となる。これによって,XXの個体の原性腺がおおよそ10週目から卵巣に発達していくのである。



 ホルモン(テストステロンと抗ミューラリアンホルモン)が有るか無いか,そしてそのホルモンが身体にどれほど作用するかによって,内外性器のさらなる発達が決まっていく。たとえばそれは,陰唇・陰嚢の形成や,クリトリス・ペニスの構造に関与し,多かれ少なかれ,いわゆる定型的な男性の体や女性の体へと分化していくのである。



発生率 (フランドルでは年間80人の児童に当たる)


 文献での見積もりによれば,200-2,000人に1人がインターセックスの体の状態/性分化疾患を持っており,そばかすや赤毛と同じほどの頻度とされている(Dutch Network Intersek / DSD [NNID], 2013; Sax, 2002)。だが,一般的な発生率を決定するのは実は困難なのである(van Lisdonk, 2014も参照)。ある種の体の状態が,南ヨーロッパや北アフリカ,アジア出身の民族集団では,血縁関係の濃さゆえに高くなるということもある(Josso, Audi, & Shaw, 2011)。しかし,コンセンサス・ステイトメントで定められた操作的な定義・分類についての議論もあり,さらに特定の体の状態で言えば,さらに頻度の高い,軽度の尿道下裂(男児・男性300人に1人)や古典的ターナー症候群(女児・女性2,500人に1人),クラインフェルター症候群(男児・男性660人に1人)といった体の状態も性分化疾患/インターセックスの体の状態に加えられることがある(Arboleda, Sandberg, & Vilain, 2014)。ターナー症候群やクラインフェルター症候群といった障害には,さらに他の医学的困難(心臓や腎臓,聴覚,認知機能など)も多くあり,ひとつの体の状態を持つ人が全体の状況を代表するわけではない。



 コンセンサス・ステイトメントの定義で考えるならば,ベルギーでは1年で少なくとも60-80人の子どもが性分化疾患/インターセックスの体の状態を持って生まれていることになる(ベルギーの居住者1,100万人,1年の出生数124,000人で計算)。ベルギーには,子どもの民主教育と糖尿病のためのベルギー協会にBel Lux Resister(BESPEED)のような機関はあるが,公的な人数は不明である。政府による登録はそれほど厳しいものではなく,必ずしも登録せねばならないものでもないからである(Callens, Longman, & Motmans, 2016)。


1.ここでの「曖昧な外性器」というラベリングは,臨床医による最も最適な性別判定を行うには,すぐには性別が明らかにはならない新生児の場合のみを指す。



簡潔には何が問題なのか?


 臨床的なイメージだけは広まっているが,この体の状態については,親御さんや子ども,成人は,妊孕性の減退への対応や,(性器に関わる)肯定的な自己イメージ,愛情関係やセクシュアリティでの満足,体の状態について打ち明けること,ケアや治療の決定への参加など,さまざま同時並行的な医療心理的・社会的困難に直面していることはあまり知られていない。



 特にケアや治療の決定に対する疑義ばかりが,国際的な政治的・科学的調査の主題となっている状況である(Callens, Longman, & Motmans, 2016a)。では,身体的,感情的,心理社会的なwell-beingという観点から,体の発達のバリエーションを持つ人の最善の利益を考えた,医学的フォローアップや介入がいかなるものなのか? このようなケアの決定に際する,子どもや若い当事者,親御さんの選択やインフォームド・チョイスに,どの程度の透明性が確保されているのか? そして政策機関はこの問題に対してどのように反応できるのか,するべきなのか?



 インターセックスの体の状態/性分化疾患がどのように(医学的)視野に入ってきたのか,こういう体の状態を持つ人々がどのように扱われてきたのかといった広い歴史的な流れについては,この調査の対象とはしていないが(図3が短くまとめたものである),重要な点は,ここ数十年来のケアスタンダード,すなわち,早急な医学的処置(その多くは外科的なもの)や,体の状態や治療方についての開示の限定性が,体験専門者やアカデミズムや支援者から大きく批判され,1990年代の最後にこれが重大な問題となったということだ。長期間での調査のギャップだけでなく,科学上の不正,そして個人の利害が入り乱れ,エヴィデンスに基づくケア方針の確立が遅れており,治療の必要性や,その効果,安全性が,十分な批判的な検討をされていないのである。



1990年代最後の問題提起に対する反応として,2005年,専門家のグループが(医療従事者が主だが,多くのロビイストとの協議もあり),他の生物学的(遺伝子やホルモンの関わる)体の発達状態と同じように扱う,つまり,長期間の多職種によるケアや,どのようなケアを行うかに関する情報の透明性と開示,話し合い,そして方針決定への参加を,最善のヘルスケアの方針の中心とすることを推奨するようになった(Hughes et al, 2006)。


図2)シカゴカンファレンスミーティング

 このシカゴでの専門家の会議の結果,臨床ガイドラインのコンセンサス・ステイトメントにつながり,Disorders of sex development(訳者注:日本では「障害」や「異常」という用語は侮蔑的として「性分化疾患」と定義された)との用語を基盤とする新たな医学的専門用語と分類もまた支持されるようになった。この新たな用語は,「(偽性)半陰陽(hermaphrodite)」や「睾丸性女性化症」,さらに「インターセックス」といった紛らわしい用語を置き換えるためのものである。



Disorders of Sex Development:DSD(性分化疾患)という用語については,まだ比較的頻度は少ないものの,Differences / Various of Sex Development(体の性の様々な発達)という用語がここ10年ほどの中で現れ,医療用語として徐々に受け入れられつつあり(Pasterski et al, 2010; Global update, 2016),ベルギーの医療従事者にも好まれている(Callens, Longman, & Motmans, 2016)。しかし,Disordersを接頭とするのを含む頭字語は,生物学的に自然に起きる現象を病理化・医学化するものだとして,国際インターセックス団体(OII)ヨーロッパや国際レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランス・インターセックス協会(ILGA,2015)といった,(人権)活動家や利害団体から,多くの非難を受けている。生物学的な体の性のバリエーションそれ自体は,いくつかの例外を除いて,医学的緊急性や命の危険性がないからだ。



DSD(Disorders)という専門用語に反対している人は,インターセックスという用語の(再)利用を希望している。(問題のある)二元的な男性/女性という考え方や,特にそれに基づく治療決定を,体の性の特徴の基礎への差別として非難しているのだ(Davis, 2015 , Dutch Network Intersek / DSD [NNID], 2013; Organization Intersex International-Europe & International Lesbian, 2015)。ヨーロッパ委員会や国連は,この点で利害団体に加わっている(Council of Europe Commissioner for Human Rights, 2015, European Union Fundamental Rights Agency (FRA), 2015, United Nations Human Rights Council and Juan E. Méndez, 2013)。対象集団としてのインターセックスの人の明確で曖昧さのない意見を,LGBT頭字語の元に,完全な法的保護を確保し,この集団の可視化を進めているのだ。支援者と,LGBTIに反対する人との議論は,この分野での専門用語や(性的)アイデンティティの問題が,いかに互いにつながっているか,あるいはつながっていないかを浮き彫りとするところだろう。



 性的多様性とその可視化の第一線に立つ人権活動家の(小さな)グループが,(大きな)法的・政策的変化を起こしているという事実は目を見張るものがある (Cools et al., 2016)。ではしかし,このような話の中で,現実の様々な関係者の声は,どの程度・どのように聞かれているものなのか? また,「ノーマライズ治療」をめぐる利害団体による国際政治的な議論や懸念,そしてカウンセリングや患者仲間とのコンタクト,医学的分類の問題,さらには専門用語やアイデンティティの問題についても,フランドルに住む実際の親御さんや成人当事者たちの声が,結局の所どこまで反映されたものなのか?



 フランドル共同参画省,Liesbeth Homans大臣の委託を受け,我々は,成人当事者と家族のケアと社会生活的状況そしてニーズがどのようなものなのかをまとめ,その結果から,妥当で実践的な政策提言を描くこととする。




図3)歴史と背景


オランダの文部科学省に当たる教育文化科学省の解放政策局の要請により、政策研究機関である社会文化計画局が作成した、世界ではじめての国家機関による、DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患)を持つ人々の実態調査書を日本語に翻訳しました!

 

探索的調査としながらも、DSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。

 

近年日本でも、教育現場や地方・国レベルで、性的マイノリティの人々の一つとしてDSDsが取り上げられるようになっていますが、DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 

性教育などでDSDsについて触れたり、地方・国レベルでDSDを持つ人々と家族についての政策を進言したいとお考えの皆様には、とても参考になる資料です。是非ご参照下さい。

オランダ社会文化計画局報告書

 「インターセックスの状態/性分化疾患と共に生きる」

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