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私たちは「どっちつかず」ではありません。NHK「ヒューマニエンス」番組担当者に抗議文を送りました。



 2021年4月29日にNHKにて放送された「ヒューマニエンスSP 『“性とウイルス” 人間を生んだ力とは?』」において,DSDsを持つ人々に対して「どっちつかず」という発言や,出生時に性別判定検査が必要だった人々の性器の図が使われるということがありました。



 私たちDSDsを持つ人々は、そうでない人たちと同様、ただの女性・男性に過ぎません。私たちもまた当たり前の人間です。決して標本ではありません。外性器の形を公然と展示され、男女の中間に無理やり位置づけられ、「どっちつかず」と言われたくありません。


 私たち日本性分化疾患患者家族会連絡会は,NHK「ヒューマニエンス」番組担当者に抗議文を送りました。



抗議文

私たちは「どっちつかず」ではありません。


 私たちは「日本性分化疾患患者家族会連絡会 ネクスD S Dジャパン」と申します。


  「日本性分化疾患患者家族会連絡会 ネクスD S Dジャパン」は、2013年より、いまだ日本では誤解や偏見の多いDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)について、海外の各種DSDs患者家族会・サポートグループ、人権支援団体の皆さんのご協力をいただき、DSDsの正確でサポーティブな情報を提供する活動を行っております。


 日本で唯一、当事者の立場からみたDSDsの情報を発信している支援団体として、現在では、DSDs「臨床」専門医療・ケア関係者、臨床心理職、海外で人権活動に関わっている人、生命倫理研究者などのご協力もいただきながら、患者家族会連絡会としても活動させていただいております。近年では、本会のホームページを見て、各種DSDs患者家族会を創設される当事者家族の方も増えているところです。


 性分化疾患という用語、ご存知のことと思います。性分化疾患(DSDs)とは、外性器や内性器、染色体の構成など、いわゆる「体の性のつくり」が、生まれたときから一部、一般的な発達とは異なる体の状態を指します。


 今回抗議文をお送りいたしましたのは、御協会が制作し、2021年4月29日に放送された「ヒューマニエンスSP 『“性とウイルス” 人間を生んだ力とは?』」における、「性スペクトラム」という考えと、それに対する番組中のコメントについて、私たちDSDsを持つ子どもたち・人々、そして家族の皆さんの想いをお伝えしたかったためです。


 私たちは今回の「性スペクトラム」という番組内容に対しては、強い憤りと深い悲しみ、そして当事者の子どもたち・人々、そして家族の人生と生活に与える悪影響について非常に強い懸念を持っております。


 DSDsの判明や告知以降の当事者のトラウマ反応と自殺念慮率は、性的暴力を受けた女性のそれよりも高いということが分かっております。そしてベルギーの公的機関の報告書や私たち自身の体験から、その大きな要因の1つは、まさに「スペクトラムの中間」とされること、「男でも女でもない」「100%の女性・男性ではない」という社会的偏見によるものなのです。


 染色体や外性器の形状といった人間の「パーツ」だけを見れば、まるで「男性・女性以外の人々」であるかのような印象を持つ人もいらっしゃるでしょう。実際に番組の内容も、「男女だけではない」といった内容での構成になっていたかと思います。現実に世間でも「両性具有」や「男でも女でもない」「男女中間」「男女両方の特徴をもつ」「性別二元制社会をなくしたいと思っている人たち」などという誤解・偏見があります。ですが実は、性器ばかり注目するのではない、DSDs(性分化疾患)を持つ現実の「全人的な」人々の大多数は、自分が男性もしくは⼥性であることにほとんど全く疑いを持ったこともなく、「自分が男であるか女であるか」のような問題設定さえ意識したことがありません。むしろ他⼈が自分を完全な男性・完全な⼥性として⾒てくれるかどうか不安に思っていて、切実に自分をただの男性・⼥性と⾒てほしいと思っているのです。


 そして、なによりも私たちは、自分の体の状態が、世間の人々から「男でも女でもない」「男女以外」であるかのように見られてしまうということこそを恐れて生きているのです。


 現実に、学校でのLGBTQ等性的マイノリティの皆さんについての授業で、DSDsを持つ人々がまるでグラデーションの中間領域の存在であるかのような説明をされて、不登校になった当事者の女の子のケースや、男女以外に「その他」が設けられているの性別欄を見て、自殺未遂に至った当事者女性などの相談も受けている状況なのです。


 また放送では「どっちつかず」といった表現も見られ、ここまでの侮蔑的な表現は初めてで、言葉を失っている状態です(たとえばハーフ/ダブルの方を「どっちつかず」と呼ぶでしょうか?そのような表現は人権侵害にほかなりません)。


 DSDsについて何もご存じない方の発言故に、発言された方自身を非難するつもりはありません。そもそも「性スペクトラム」という考えの上では、このような発想が出てきてもおかしくないように思います。それよりも問題は、このような表現について、NHKのスタッフの皆さんが何も思わずそのまま放送されたということにあると思っております。


 さらに放送では、外性器の形状の図画が示されましたが、大多数の一般的な外性器の女性・男性にとっては平均的な図でしかありませんが、少数派の私たちにとっては、自分自身の外性器の形状を公然と晒されたような体験になります。


 なぜ「どっちつかず」のような発言が見過ごされ、外性器の形状が公然と「展示」され、「性スペクトラム」のような現実の私たちの生活や人生を脅かす考えが起きてくるのか。それは、本来は全人的であるはずの人間を体の一部のパーツ(しかも性器の形状)に還元し、「標本」のように見立てる意識のあり方にあると私たちは考えております。そしてそのような視線で私たちの存在を「見られること」、それ自体が私たちの心を深く傷つけるものになるのです。


  「性スペクトラム」の問題点については、私たちのニューズレターで少し詳しく説明をさせていただいております。




 既に放送はされており、多くの方がご覧になったことでしょう。現在でも御協会のホームページや、配信サイトにおいては、該当番組の情報や映像を見ることが可能になっていると思います。私たちとしては、これ以上誤解と偏見が広がることで、私たちの人生や生活を脅かされたくありません。即刻該当サイト。映像を削除をいただき、御協会として「DSDsを持つ実際の当事者・家族の人々の尊厳を傷つける不適切な表現があった」として謝罪文を掲載いただきたく願います。


 染色体や外性器という「パーツ」ではない、現実のDSDsをもつ、「生身」の人々について詳しくは、人権先進国ベルギーの公的機関の調査報告書を翻訳しております。ご参照いただければと思います。




 また、私たちで作成した「DSDs報道ガイドライン」も添付させていただきます。



 どうかNHKの皆様には、報道・放送倫理に則り、人間を標本のように扱うような報道や放送はしないことを御協会内部で周知いただき、DSDsに対する誤った認識や差別が助長されないよう、慎重な対応を求めます。


 またこれからのDSDsに関する報道・番組制作に際しては「専門家」「有識者」だけではなく、DSDs当事者・経験者の声を取り上げていただきたくお願い申し上げます。当事者不在で外性器の形状だけが語られ、実態に即さないイメージが拡大していくことは、さらなる誤解と偏見を引き起こします。


 私たちDSDsを持つ人々は、そうでない人たちと同様、ただの女性・男性に過ぎません。私たちもまた当たり前の人間です。決して標本ではありません。外性器の形を公然と展示され、男女の中間に無理やり位置づけられ、「どっちつかず」と言われたくありません。


 どうか私たちも当たり前の人間としての尊厳と人権が守られるよう、皆様には深い配慮を頂きますよう、お願い申し上げます。










(資料)




海外の国家機関による正式な調査報告書から抜粋







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