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彼女の体の状態は「間違っている」のではない。

ジュリエッタさん

ほとんどの人の細胞は「普通」、XX染色体(女性)かXY染色体(男性)だ。しかし実際には様々なバリエーションがあるという事実はあまり知られていない。オランダでも、通常とは異なる体の性の発達をした人が約80,000人はいるのだ。(オランダ国家機関調査)

 

御覧の皆様へ

 

 オランダは人権先進国として有名で、女性の社会進出・移民・老人・障害を持つ人々・LGBT等の性的マイノリティの人々などに対する国家的政策が次々と打ち出され、世界ではじめて同性婚を実現した国でもあります。
 

 そのオランダの人権政策を実現しているのが、国家機関である社会文化計画局(SCP)です。
 

 DSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患)については、その体の状態を持つ人々の現実の社会的状況は、限られた一部の人々の状況や、憶測や誤解に基づく知識に限られていましたが、2015年、SCPが世界ではじめて国家機関による、DSDsを持つ人々の全体的な社会的状況の調査を行いました。(日本語訳をネクスDSDジャパンで作成しました。こちらをクリックして下さい)。

これまで正確に知られていなかった「DSDsを持つ人々の社会的状況」についてのSCPの報告書が出版された日、オランダのクオリティペーパーである「Trouw(Truth)」で、SCPの調査員リズドングさんと、調査に協力したひとりであるDSDを持つ女性のジュリエッタさんがインタヴューに応じた記事が掲載されました。

 

  ここではその記事の日本語訳をご紹介します。

 私たちは「性のグラデーション」でも「男女の境界の無さ」でもありません。むしろそのようなご意見は、私たちの女性・男性としての尊厳を深く傷つけるものです。

​ アンドロゲン不応症をはじめとするDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「女性にもいろいろな体がある、男性にもいろいろな体がある」ということです。

 

 どうか、お間違いのないようにお願い致します。

 

詳しくは「DSDsとは何ですか?」のページをご覧ください。

 

DSDsとは何か?

 「ああっ!女の子だ!」「男の子ですよ!」。たいていの場合は明らかなことだろう。しかしいつもそうとは限らない。オランダ社会文化計画局(SCP)による報告書によれば、オランダでは推定約80,000人の人々が、通常とは違った体の性の発達状態を持っているのだ。それは先天的なもので、DSDs(Differences of sex development:体の性の様々な発達(インターセックス/性分化疾患)と呼ばれる、体の性の発達のバリエーションなのである。

 

 このような体の状態には多くの種類があり、一般でも、ほとんどの医師たちでも知られていない。XX染色体と卵巣を持っているが(完全な)膣や子宮無しで生まれる女性(female)もいる。X染色体が一つ多い男性もいて、その中には男性不妊の人もいる。

 

 出生時にすぐに判明するDSDsもあれば、思春期に判明するもの、男性あるいは女性が子どもを持ちたいと思うが、このような体の状態のため不妊が判明するという場合もある。このような体の特徴を持つ人は外からは分からないか、自分でも分かっていないということもあるのだ。

医師も実態を全て知っているわけではない。
SCPは知っている。

 今日出版された報告書「インターセックスの状態/性分化疾患と共に生きる」の著者である、SCP調査員ジャンティーン・ヴァン・リズドンクは、LGBTのような他の多様なグループと類似してると思う人もいるかもしれないと話す。だが実際現実のところ、このような体の状態を持つ人のほとんど全員が、自分のことを男性もしくは女性とはっきり認識しているのだ。

 

 なぜ彼ら彼女らのような体の状態が「Hermaphroditism(ハーマフロディズム:半陰陽・両性具有・男でも女でもない性)と呼ばれなくなったのか?

 「そのような表現は、まるで誰かが両性具有・男でも女でもない、半分男半分女といったような印象を与えるからです」。

 

 DSDs(インターセックスの状態/性分化疾患)を持つ人たちは、実はまさにそのような表現に傷ついているのだ。「実際は『インターセクシャル』という言葉も社会的偏見・烙印のように捉えられている状況もあります。まるでセクシャリティのことのように思われるから。DSDsというのはあくまで、女性(female)・男性(male)の染色体や性腺、身体構造の様々なバリエーションを指す言葉でしかないんです」。

アムステルダム運河の自転車
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ジュリエッタの体の状態は「間違っている」のではない。
ただ「違う」だけなのだ。

 ジュリエッタ・クーリン(45)は、14歳の時、まだ初潮が起こらず、胸も大きくなる兆しもなかった。母は思った。どこかおかしいんじゃないかと。病院の長い行列の一番前で、母親は娘を医者に見せた。非常に困惑した様子の医師は、最初の診断を下した。ジュリエッタの子宮と卵巣はどちらもガンになっていると。15歳の時、彼女は最初の手術を受ける。

 しかし実はジュリエッタの体には子宮はもちろん、卵巣もなかったのだ。19歳の時にケアを担当した医師は、彼女たちにまだ正直な最初の医師だった。「あなたはXY染色体を持っています」。大抵の場合は男性への発達につながる染色体の組み合わせだ。しかしジュリエッタは女性(female)であり、見た目も女性だ。妻でもある。彼女自身も常にそう感じてきた。彼女や彼女と同じ境遇にある女性の友人たちは、不妊であるという事実とともに生きている。「まだ心は痛みます。だってこれは私が決めたことじゃない。自然が勝手に決めたことなんですから」。

 彼女のDSDsの体の状態は、アンドロゲン不応症(AIS)と呼ばれている。

 彼女のような体の状態は今でも医学的に長いプロセスとなる。身体的にも大きな重荷となるのだ。その上、まとわりつくタブーも非常に重いものになる。医師たちは何年も彼女の本当の体の状態について、ウソを付くか沈黙を続けた。両親にさえも。

 ジュリエッタはアムステルダムのカフェで語る。「19歳の時に私が受けた説明は、”自然がそうしたんだ、あなたはもともと男の子だったんだ”というものでした」。この伝え方は、彼女が「間違った」方向に行ったということを意味していた。心理学者は彼女に言った。「他の人は理解しないだろうから言わない方がいい」「あたなのような女の子は他にはいない」。ジュリエッタはこの説明を「秘密を強制された」と受け止めている。彼女の社会的生活に大きな影響を与えるような秘密だ。「自分で孤島にいるかのようでした。ボーイフレンドはいたけど、深い関係になると怖くなるんです。関係は終わらせました。自分の周りに壁を作りました。誰かを信頼してそれを壊すのはとても難しかった」。DSDオランダ協会との出会いは、まさに彼女にとっての「救い」となった。

 ジュリエッタはここ数年自分の体の状態をおおやけに公表している。この記事では自分の姿も見せた。これはDSDオランダでのボランティア活動の一環だ。DSDオランダはXY染色体を持つ女性(female)などの人権を守る模索をしている。情報提供もその一環だ。XXやXYだけですべてが決まるわけじゃないということを伝えたいとジュリエッタは思っている。DSDsの場合、染色体が性別のあり方を決めるわけじゃないのだと。


 

無知・無理解こそが人を傷つける。

 雲間からの光明はまだ細いかもしれない。しかし「カミングアウト」以来、ジュリエッタが表に現れることは増え、周りからの反応もたいていの場合は上々だ。

 

 「悪い反応はそんなにないってことは何度も気づかせてもらえました。最初に思ってたような、心が傷つくような反応もありませんでした。元々の知人だったら、自分がどういう人かってもう最初から分かってくれてるから」。

 無知・無理解こそが人を傷つけるようなコメントにつながるのだと、ジュリエッタは、かつてこう記していた。

 

 「ある医師が、グループの女性にこう質問した。『それで、今私と話をしているあなたは、男なんですか?女なんですか?』と。それは酷い侮辱だった。医師でさえ理解していないのだ。だったら近所の人には一体なんて説明したら良いのだろう?」

 しかしジュリエッタはそんな恐れを振り払い、前に進みたいと思った。医師たちとのコンタクトも良好なものになっていき、彼らの知識も増えてきた。

 彼女たちを取り巻く状況は徐々に改善されてきている。DSDsについての大きな偏見は少しずつ少しずつ打ち砕かれつつある。

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アンドロゲン不応症(AIS)女性とは?

 アンドロゲン不応症(AIS)とは、女性のDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつです。AISでは、染色体はXYで性腺も精巣なのですが、男性に多いアンドロゲンホルモンに体の細胞が反応しない状態のために、母親の胎内の段階から、まったくの女性に生まれてきました。ですが、子宮や膣の一部がなく、生物学的な子どもを持つことができません。一般的に女性のこの体の状態が判明するのは思春期前後で、ご本人もご家族も大きなショックを受けられることがほとんどです。

 ですが,「男でも女でもない」という社会的偏見を改善し,同じ体の状態を持つ女性たちの出会い,そして周囲の支えがあれば,乗り越えていけるものなのです。

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オランダのアンドロゲン不応症の女性たちのドキュメンタリー

アンドロゲン不応症(AIS)など
XY女性の物語
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