「子どもについて」
ここでご紹介する詩は、ハリール・ジブラーンによる「子どもについて」という詩です。ハリール・ジブラーンは1883年に生まれ、1931年に亡くなった詩人です。この詩は、彼の1923年出版の詩集「預言者」に収録されているものです。お子さんについて、少し物思いにふける時、一息つける時に読んでいただければと思います。
訳者注:この詩は神谷美恵子による翻訳本が出ています。神谷美恵子さんは1979年に亡くなられた日本で著名な精神科医で、ハンセン病の患者の人たちと共に生き、「治す」ことよりも「生きる」ことについて、「生きがい」について哲学的な考えを深めて行きました。ここの翻訳は、神谷美恵子さんの翻訳に少しだけ手を加えたものをご紹介しています。この詩がハンドブックで紹介されている意味については、親御さんだけではなく、性分化疾患を持つ人や親御さんを支援したい、性分化疾患を持つ人について考えたいと思われる方も、よくお考えいただければと思います。
赤ん坊を抱いたひとりの女が言った。
どうぞ子どもたちの話をしてください。
それで彼は言った。
あなたがたの子どもたちは
あなたがたのものではない。
彼らは生命そのもの
あこがれの息子や娘である。
彼らはあなた方を通して生まれてくるけれども
あなたがたから生じたものではない。
彼らはあなたがたと共にあるけれども
あなたがたの所有物ではない。
あなたがたは彼らに愛情を与えうるが、
あなたがたの考えを与えることはできない。
なぜなら彼らは自分自身の考えを持っているから。
あなたがたは彼らのからだを宿すことはできるが、
彼らの魂を宿すことはできない。
なぜなら彼らの魂は明日の家に住んでおり、
あなたがたはその家を夢にさえ訪れられないから。
あなたがたは彼らのようになろうと努めうるが、
彼らに自分のようにならせようとしてはならない。
なぜなら生命(いのち)はうしろへ退くことはなく
いつまでも昨日のところに
うろうろ ぐずぐず してはいないのだ。
あなたがたは弓のようなもの、
その弓からあなたがたの子どもたちは
生きた矢のように射られて 前へ放たれる。
射る者は永遠の道上に的をみさだめて
力一杯あなたがたの身をしなわせ
その矢が速く遠くとび行くように力をつくす。
射る者の手の中で身をしなわせられるのをよろこびなさい。
射る者は飛び行く矢を愛するのと同じように
じっとしている弓をも愛するのだから。
ハリール・ジブラーン 「子どもについて」