第6章:心理社会的ウェルビーイング



成人当事者


 ここでは成人の体験専門者の心理社会的身体的ウェルビーイングのいくつかに目を向けていくが,これには,(診断の)プロセスや,子どもが授かれないという望まなかった状況をどのように体験専門者が体験しているのか,そして体の状態や(幼児期の)治療が,(性器にまつわる)自己イメージや,人間関係上のウェルビーイング,性的な生活にどのような影響を及ぼすかということなどがあるだろう。


A.妊孕性と生殖可能性


 ここでの妊孕性とは,DSDの文脈では,体の器官上の妊孕の可能性と子どもを授かる可能性とみなすことができる。DSDを持つ女の子や女性にとっては,CAHやスワイヤー症候群といった,主に子宮の存在が,生物学的な親になる選択肢の要になる。CAHでは卵母細胞も存在するため,自然な妊娠が可能で,スワイヤー症候群の場合は卵子提供が選択肢となる(Liao & Simmonds, 2013)。


 機能する子宮がない女性では,パートナーの精子を,提供された卵子と受精させ,代理母に委託するということも可能である(Beale & Creighton, 2016)。


 DSDを持つ男性では,ホルモン療法後に自然な妊娠が起きたと記述された例外的なケース以外では,大多数のケースで精子形成の欠如もしくは顕著な減退がある(Guercio & Rey, 2014)。未成熟の精子あるいは精巣組織の凍結は成功の確率がほとんどなく,したがって物議を醸すものとなっており,研究段階でしかないもので,被験者には十分な情報が与えられている(Cools et al., 2014)。


 自分自身の身体器官を用いた将来の妊孕性のチャンスは,多能性幹細胞のリプログラミングや子宮移植といった,主に(まだ現在の段階では)革新的な技術に求められる類のものなのである。


 調査参加者の中には,生物学的な不妊を自身の体の状態の問題の一番の障害とは見なさない人もいたが,大多数の参加者にとっては,生物学的な不妊状態は,情緒的なウェルビーイングや,男性/女性としての社会的期待を満たすことに多大な影響を与え,特に親子の間や,成人当事者とパートナーとの間の関係に特有の緊張感をもたらすことになっていた。


「『小さなお家,庭,木,それに赤ちゃんの写真』。私たちはいつもそういうものに囲まれてます。そして私たちはそういうものが簡単に手に入らない。私たちは選択の度に二度考えなくちゃいけないんです。誰かに出会えた時,それに恋愛関係に入りたいと思った時。ええ。簡単じゃないです。『一緒にいてもらえるのだろうか?』って思いますから。私とということだと,子どもは?ってことになりますから…。うん,養子縁組はできます。でも手続きも複雑ですし,そう,だから人生の大切な段階一つ一つで,問うていかなきゃいけない。『もしこうなら?もしこうなら?』って。何も気にせずに,段階を踏んでいくというわけには全然いかないんです」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:36歳)。


「母は本当に子ども好きで,それは,母が本当お母さんって感じの人で,子どもを持って育てるのが本当に好きで,仕事以外ではそれが人生って人で,もう本当に子どものこと中心で回ってましたから。そういう人生を送ってきた。だから私はそういう幸せを否定するのはつらいんです」(CAISを持つ女性:34歳)。


「だから罪悪感を感じてます。まだ彼に申し訳なく感じてます。何年経ってもです。現実に彼から,子どもを持つという,その可能性を無くすことになりますから」(ロキタンスキー症候群を持つ妻:24歳)。


 女性の調査参加者は概して,子どもを持っていたり妊娠の見込みがある他の女性たちとの関係において,男性(パートナーなど)よりもつらい時間を送ってもいた。そしてこのために,社会的に孤立するリスクも高くなっていた。外部の人々の「難しい」質問もこの状況を促していた。たとえば「いつ始めるの?」という質問は,DSDを持つ人々が特定の年代でよく訊かれる質問で,もちろん妊孕性のある他の人々に対しても問題のあるフレーズではあるが,どれだけ素朴な質問であっても,これは苦痛で緊張的なものとなりうる。というのは,DSDにおいては,このような質問は,自分の体の状態についてどれほど話をするべきなのかどうかを考えなくてはならなくなる状況だからである。


「それって,知り合いじゃない人からでも訊かれる質問で…。そういう場面ではどうするか決めなくちゃいけないんです。『今その人に話すか,それとも誤魔化すか?』って。そういう人に返す場合は,『でも私たちは子どもができなくて』とだけ言いますし,他の人には『子どもをほしいと思わなくて』ということもあります。それで,ええ,でも,本当はみんなにちゃんと言わなくちゃいけないのかもしれない。でもそんなこと言わないし,みんなに対してそういうこと言わないものですから。それで時々何か少しズルをしてるように感じるんです。『本当はそういうことじゃない』って。たぶん,私は子どもが好きじゃないと思われてるでしょうね…。でも本当は私は子どもがほしいんです。でも『子どもは欲しくなくて』って言ってますから。そしたら周りの人は自動的に,『ああ,そうなんだ。だったら子どもは作らなくてもいい』って思います。でも本当は全然そういうことじゃないんです。そういう話になっていって,知らず知らずにその話が固まっていったり何かしたりして。分かんないですが,だから,うん,今も話そうとしていますけど,でも,うん,あまり知らない人に『私は子どもを作れないんです』って話すというのは,やっぱりいつも簡単ってわけじゃなくて。たぶん私の性格ではそうなんです。そういうの他の人よりつらい時間になって。『バカね-,他の人には勝手に思うように思わせておけばいい』って言われるだけですが。でもそういうことが積み重なると,いつも明るくなれるなんてなくて…。バカみたいかもしれません。でも,そうなんです」(CAISを持つ女性:34歳)。


 調査に参加した男性グループは限られており,妊孕性の減退や,ある種の男性らしさの感覚が損なわれることに,どの程度つらい時期を過ごしたかは明らかにはならなかった。


 何人かの体験専門者は,養子縁組など,親になる代案モデルの具体的な段階を経験してきている。(しかし手続き中,必要以上に自分の体の状態について話をしなくてはいけないのではないかと彼女たちは感じていた)。他の体験専門者では,まず以下のように話した人もいた。


「代理母のしっかりした法律を求めています。赤ちゃんが誕生した後のシンプルな法律の執行も。代理母も養子縁組どちらもです。妊娠している女性と同じような権利として。手続きが終わるまでの法的保護も,却下に対する法的保護も。手続きのアポイントで欠勤する権利もです。医療的なフォローアップや養子縁組した後のフォローアップのためだったら,雇用主が拒否できないような」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:35歳)。


 生物学的な妊孕性のチャンスを増やすことは,医学というもので考慮される重要な要素のひとつであり,成人当事者も概して,妊孕性についてはもっと情報がほしいと示唆していた。患者(あるいはその家族)はどのような段階を踏めるのか? 何歳から始めるのか? どのような治療法あるいはどのような選択肢が現在ラインアップされているのか? もし患者家族が妊孕性の治療や親になる方法について相談したいと望む場合,誰が最善の方法を示すことができるのか?



B.恋愛関係とセクシャリティ


 成人当事者の半分より少しの人が,調査時点で安定した長期間の恋愛関係を保っていた。そういう長期にわたる恋愛関係を持たなかった人もいたが,これは,恋愛関係の必要がない(仕事や広範的な社会的関係で忙しいからなど)ということや,また一方,体の状態に関連する身体的障壁(例えば,膣の狭さによって性行為が困難だったり,体の状態を打ち明けにくかったり,治療がまだ初期段階だったり)によって,恋愛関係を築くモチベーションに影響があるというためであった。いくつかのケースでは,恋愛関係が破綻したという人もいた。そしてそれは体験専門者自身から身を引くというケースが多かった。理由としては,たとえば生物学的なつながりのある子どもを授かれないことに起因する自尊心の低さというものもあれば,体の状態とは関係ないもの(たとえば,気が合わなかったなど)もあった。パートナーがいる体験専門者にとっては,パートナーの存在は,自己イメージや心理的ウェルビーイング,自尊心に大きな影響があることを示すものであった。一方,最初から肯定的な自己イメージを持った人ならば,もっと簡単に恋愛関係に入り関係を長く築くということもありえるかもしれない。我々が単純な因果関係を言及することはできないが,調査時点で安定した関係を持っていた調査参加者は,安定した関係を持たない調査参加者ではカバーされなかったような,(更に深い)社会的つながりや親密さといった,多くの良い話を述べたと思われた。


 調査参加者は全員異性愛だったが,インターセックスの体の状態/性分化疾患と性的指向(誰に性的愛情的に惹かれるか)とは直接の関係はない。


 インターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ人々は通常,一般人口の大多数と同じく異性愛なのだ(Berenbaum & Meyer-Bahlburg, 2015)。ただし,胎生期の発達での高レベルのテストステロンの暴露は,より多く女性に対して魅力を感じる効果を果たすことはある(Meyer-Bahlburg, Dolezal, Baker, & New, 2008)。


 結論としては,インターセックスの体の状態/性分化疾患は直接的にはセクシャリティには関係しないが,体の状態(治療のためでもあれば治療の欠如のための場合もある)が,セクシャリティに対するその人の認識や体験に結果として影響するということだ(van Lisdonk, 2014)。たとえば(全員ではないが),クリトリスや膣の治療を行った女性は,性的な関係に不安を感じたり,性器の感覚の減退や性行為中の痛み故に性行為があまり喜ばしいものとは体験されないという場合がある。他の体験専門者では,性欲が少ないことが十分な男性/女性としての自己イメージに影響し,悩むという人もいた。参加者の中には,性行為の困難に恥辱を報告する人もいて,専門の支援職につながるということはほとんどなかった(パートナーに強く勧められてからということはあった)。共感的で患者中心の関わりについては,専門知識を持つ外科医や医療提供者との相談の中心テーマにしてほしいと望む体験専門者もいた。しかし一方,体の性のつくりやセクシャリティについての自分自身の思いも認識していた。


「『膣がないとセックスできない』『普通のセックスはできない』という考えがありますよね。だから,クリトリスは普通だし体の外側は普通なのだから,セックスの喜びは可能だし,膣がないことを選んでもそれは可能で,性的な快感は大丈夫なんだとお医者さんが伝えるのは大切なんです」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:35歳)。



C.体の状態を打ち明けることについて


親や家族のメンバーに対して


 PAISやCAHなど,出生時に判明した体の状態を持つ人々は,相対的に家では自分の体の状態についてオープンで,きょうだいがいても,家族内で違う扱いを受けているようにも感じていないと語った。極めて限られた人々ではあるが,体の状態(たとえば尿道下裂)の身体的特徴がどのようなものなのか,手術はどのように行われるのかを説明するために,医師が提供した絵入りのパンフレットを親御さんが使ったという人もいた。不妊についても,「最初はシンプルに,それからだんだん詳しく…」(PAISを持つ男性:19歳)といった方法で説明を受けていた。彼自身も後に,自分のパートナーや友達に伝えるときにも同じコミュニケーション方略を使っていた。


 CAISやMRKHなど,思春期前後に診断された人々は相対的に,家族の中で体の状態についてオープンに話すことについて,より大きな困難を報告した。医師からまだ思春期の子どものためにと黙っているようにアドバイスされた親御さんもいれば,親御さん自身が,何が起きているのか正確に理解できていなかったという場合もあった。しかし,親御さんもどう反応すればいいのか,どうすれば最善の支えとなれるのか,親御さん自身も極めて孤立した状況であるため分からなかったのだと,体験専門者たちは分かっていた。また,体験専門者は,自分自身を守るために,いつも話すということはしたがらなかった。


「家族のためにということで,ずっと自分で抱えるようにしていました。母はまた違って…。母は大きな罪悪感を感じたまま亡くなりました…。姉や妹に対しては,自分が犠牲者みたいに思われたくなかったから…。父にもです。父は何も言いませんでしたから」(CAISを持つ女性:25歳)。


 (偶然にも)親御さん,あるいは親戚(叔母さんなど)と体の状態について話ができた人々は,最後にはどこかで家族の絆が強まったと示唆された。


他者との関係


 仕事の同僚やより広いグループの友達など,他者に対して自分の体の状態を打ち明けているという状況は一般的に限られていた。まずこの問題は,プライバシーと秘密の間のバランス問題(秘密と見なす必要はないが,これはプライベートな問題でもある)に関わってくる。しかし体験専門者たち自身にとっては,どの程度もっとオープンにするのか,もっと可視化するのかということが,自らのウェルビーイングや自尊心の点で,自分に害となるのか益があるのかはっきりしないのである。体験専門者たちは,見世物小屋に追いやられるようなことや犠牲者役割を負わされること,哀れみをかけられることを望んでいないのである。


「周りの人が私のことを知ったら,もう私の女性としての想いは地の底まで落ちていくでしょう。あなたでもそうだと思う。でもそうしなきゃいけない瞬間が来たら,多分こう思う。『みんな私のこと異質だと見るんだろうな』って。鏡を見る時感じるんです。もし私がそういう場に立たされたらって。すごく傷つきやすいって感じをして言わなくちゃいけない。『私は本当はY染色体と精巣を持っていて,手術を受けて』って。今でもずっと,そんなこと考えただけでゾッとします」(CAISを持つ女性:25歳)。


「私のこと知ってる人といると,いつも目線をそらされてるみたいに感じて…。今はあまり言わないようにしています。だって,哀れみを受けるようにも思うから。最初は良いかもしれない。でも今は逆に私の助けにはなってません」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:35歳)。


 更に,メディアや社会(教科書も含む)で,この話の単純化しすぎたイメージ化やステレオタイプ化(「インターセックス」という用語で語られることも)がされることは,自分の体の状態をオープンにすることをうながすことには全くならないと考えられており,これは他の複数の調査でも示されている (Jones, 2016)。ベルギーのトップモデル,ハンネ・ギャビー・オディールの「カミングアウト」の記事について,同じAISを持つ女性は次のように語っている。


「そういうインタビューや,それに合わせたマスコミの反応から発せられるメッセージには,本当に怖く感じてます。自分では望みもしないステレオタイプなイメージが固定化されてしまう。と言うよりも,昔からずっとあるステレオタイプがもっと酷いステレオタイプになってしまう。彼女のインタビューでは,インターセックスや精巣の話をしてるけど,それってつまり両性具有の話みたいに使われてますよね。ひどい話だと思います。みなさんで,もっと人々に警鐘して知らせることはできないんですか?結局ああいうメッセージから人々が取捨選択して受け取るのは,少なくとも,他の女の子たちや自分の体の状態を受け止めた女の子たちと同じように,あなたも普通の女の子なんだってことじゃない。彼女がやってることは,私たちの他の人との違いをもっと大きくしてしまっているんです」 (CAISを持つ女性:25歳)


 更に明確に,彼女は「インターセックス」という用語は彼女には差別的であり,このような体の状態の理解の助けにはならないとも付け加えた。


「こういう体の状態が『インターセックス』っていう名前で出てきたら,[…]より良い理解の助けになんか全然ならないです。分かってもらうことにも私たちの不満を理解してもらうことにもならない。AISという概念だけでいいんです。インターセックスという用語だと,あなたは2つの性の間にいるってことになる。そういうイメージがまた広まってしまう」(CAISを持つ女性:25歳)。


 メディアで取り上げられる治療の問題も,何人かの体験専門者によって誤った説明がされることがあり,この障害の本質を捉えたものではないことがある。


「何年前か分からないですが,VTM(訳者注:ベルギーの民法テレビ局)から質問依頼があって。私は参加しませんでした。だって何がしたいの?って思いましたから。手術についてとか,男性と女性の境界についての質問でした。『ちがう,そんなことじゃない』って思って。[…]『もしそんな話ばかり取り上げられるなら,私はまた抑え込まれるだけだ』って思いました。恥ずかしく思ってるとかじゃなくて,私が思ったのは,それってまた『見世物小屋(フリークショー)』になるってことです。ああいうのは『見世物小屋』なんです。[本調査について]この調査に参加したのは,そう,うん,とてもいろいろな理由からです。こういう調査なら多分何かの助けになることができると思って…。私は問題はありませんが,『これはまだちょっと私的な話なんじゃないか』って思うんです。でも本当私にとってもとても私的なことなんです。もし訊かれたら,もう嘘はつかないと思ってますが」(CAHを持つ女性:40歳)。


 プライベートな問題だと考えられてはいても,体の状態を他の人に話すことには無防備の恐れと恥辱の感情があると話す人もいた。ネガティヴな反応を恐れての故だ。その結果,彼ら彼女らは社会参加や雇用の機会を避けるようなこともある。


「特別部隊とか,もっと挑戦的な専門性を身に着けたいと思ってたんですが,そうしませんでした。医学検査で落とされると分かってましたから。でも本当のことを言うと,こちらから知らせることが嫌だったんです」(CAHを持つ女性:33歳)。


 「思春期の時ひとりの女の子として思っていたのは,生理がないっていうことや,それを他の人に話すということは,本当につらいことだってことで。[…]・・・ガールズトークでその話になっている間に,そんな話ししませんから」(CAISを持つ女性:34歳)。


 拒絶されるのではないかという恐れは,自分のキャラクターにも影響してくる(もっと内向的になる),あるいは勉強や仕事にも確実に関わってくると指摘する人もいた。


「逃げ口上にしたんです。自分に悪いところがなければどうだっただろうなんてわかるものでもないですが。社交性はなくなりました」(クラインフェルター症候群を持つ男性:47歳)。


 体の状態の一側面(不妊など)について,上司や同僚に話をした人々は限られており,相手の反応も肯定的で共感的なものとは限らなかった。


「なので少しは理解してもらえるかなと思ってたんです。でも全然ダメでした」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:35歳)。


たとえば職場で子どもについて訊かれることが続いたなどである。これら限られた例はあるが,自分の体の状態を(更に)オープンにすることで,仕事や社会的フィールドへの参加やそこでのウェルビーイングという範疇において起きる,拒絶や差別,障害については,本調査では特定の知見は得られなかった。



D.差別の体験


「”あなたはそういうふうに生まれたの”って,そういうのはオープンに言われてました。OK,そうなんだ,うん,OKって感じで。あなたは他の人とは少し違うところはあるけどって。でもできないことはなかった。普通に学校に行って。学校での問題もなかったです。お薬飲