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第2章:概念定義と調査研究方法




 インターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ人々と家族の皆さんとともに,彼ら彼女らのためになる研究調査をデザインし実施するために,また調査の在り方と政策方針立案とのギャップを埋めるためには,専門の医療従事者や,各体の状態に応じた患者仲間とのコンタクトを持つ代表者,そして(国際)国内の利害団体との密な協働が必要であった。これら関係者のみなさんとの話から情報を新たに得ることで,質的なインタヴューのスケジュールを立てるのに役立ったし,様々な体の状態やバックグラウンドを持つ人々や家族のみなさんに,様々な体験を語っていただくこともできた。調査参加者は,フランドルの患者団体の代表者や,ベルギーで最も大きな病院であるGhent大学病院のDSD患者データベースから募集をかけた。募集には,(患者団体には)調査者が,(Ghent大学病院からの潜在的な参加者に対しては)協力していただいた医師から,どのような調査か更に詳しく書いたリーフレットや手紙を用いた。募集に使ったリーフレットや手紙では,性分化疾患とインターセックス両方の用語を用いた。調査デザインについては,Ghent大学病院の倫理委員会の許可も得た(number 2016/0476)。

 本調査の計画としては,10人の成人の体験専門者と,インターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ子どもの親御さん10人の,計20人のインタヴューを予定していた。オランダでの調査では(van Heesch, 2015, van Lisdonk, 2014),この集団の不可視性の大きさ故,参加してくれそうな人にあたるのは簡単ではなかったことが示されている。実際に大多数のインターセックスの体の状態/性分化疾患は外から分かるものではなく,自分の体の状態に気付いてない人もいるのだ(NNID, 2013)。また一方,この対象集団の不可視性は,情緒的身体的well-beingのためには,自分の体の状態を(正確には)知らせない方がいいという,過去数十年の医学方針によっても強められている。このような方針下では,他の人には自分の体のことを話さないように言われていた(Money, 1994)。しかしこういう体験は,他の要因とも絡み合って,むしろwell-beingを下げ,社会的孤立や(他の患者同士の)支援へのつながりにくさを促す結果となっていたことが,体験専門者からも(NNID, 2013, van Heesch, 2009),子どもの親御さんからも指摘されている(Magritte, 2012; Rolston, Gardner, Vilain, & Sandberg, 2015)。


 更に,フランドルには,対象集団全体の支援や可視化を促すことができる,包括的な利害団体や患者会連合は存在しない。各体の状態に応じた患者会は存在するが,その中でも,体験専門者や家族と,医療従事者や調査研究者どちらに対しても可視的なところは限られている。そういった集まりを探すために,オンラインソーシャルメディアでセルフヘルプグループの一覧を探したり,医療従事者に問い合わせを行った。4人の成人の体験専門者が,フランドル語/オランダ語を話せるセルフヘルプ患者会を通して,参加の呼びかけに応えてくれた (MRKH.be, 泌尿器障害の子どもの会,DSDオランダ, ターナーコンタクト,クラインフェルター協会,クッシング協会,アジソン・AGS, Radiorg.be )。UZ Gentの医師の紹介からは,16人の成人と親御さんが参加してくれた。本調査に関わる倫理的側面から,UZの無回答者の医療記録を調べたり,回答者の医療プロフィールを照合することはできなかった。本調査への参加を望まなかった人々は,この調査のフレームに自分が該当するとは考えなかった可能性がある(たとえば,自分自身を性分化疾患/インターセックスの体の状態を持つ人とは考えていないなど)。また,well-beingがネガティヴ,もしくはポジティヴであるため,このような調査の必要性・有用性は感じなかったため,調査への参加は不可能/望むものではなかったという可能性もある。


 

参加集団のタイプ

成人参加者

 成人の体験専門者としては,2名の男性と8名の女性が参加した。平均年齢は35歳(19-47歳)で,さまざまなインターセックスの体の状態/性分化疾患の背景がある(性染色体DSD:n=1, 46,XY DSD:n = 4, 46,XX DSD,:n = 5)。 彼ら彼女らは,出生時に判定された性別に常に同一性を持っている。


親御さん

 親御さんの集団としては,性分化疾患/インターセックスの体の状態を持つ4名の男児と6名の女児の,4名の親御さんと6名の母親が参加した。子どもの平均年齢は,既に36歳になっている人を除き,10歳(3-16歳)であった。ここでもさまざまなインターセックスの体の状態/性分化疾患の背景があった(性染色体DSD,:n = 2, 46,XY DSD: n = 4, 46,XX DSD: n = 4)。養子縁組した児童1人以外は,参加した親御さんの生物学的なつながりのある子どもであった。(親御さんの報告として)9人の児童が出生時に判定された性別と自身を認識している。養子縁組の1人の児童については,元の出生した国では女性の判定だったが,ベルギーでの更に進んだ厳密な診断検査によって,男児として育てることとなった児童である。自治体に登録した性別について,児童の出生時及びその後も,問題となった親御さんはいなかった。

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海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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