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家族の肖像4
第3章
周りの人にはどう話すか?

 もし皆さんがお子さんのDSD:体の性の様々な発達(性分化疾患)のことを誰にも話したくないとお思いであれば、おそらく皆さんは重圧と孤独をお感じだと思います。けれども、その重圧や孤独について話すことで皆さんは孤独ではないと感じられるでしょう。それに、たとえば保育園や幼稚園にお子さんを預ける時や、新しいお医者さんのところに行く時など、すべての情報ではなくても、どうしてもお子さんのDSDについて話さねばならないという時もあるでしょう。この章では、お子さんのDSDのことをそういう人に話ができる方法をお伝えしたいと思います。ただ、ここでお伝えするのは、暗記して大声で読み上げる「せりふ」ではありません。どう話せばいいのか皆さんがお困りの時のちょっとしたヒントになればと思っています。

 

  皆さんと全く同じように、お子さんご自身も自分のDSDについてはプライバシーを守りたいとお思いにもなるでしょう。成長段階に合わせて、周りの人がどれくらいお子さんのことを知っておくのか、できるだけお子さん自身に決めてもらうことが大切になるでしょう。たとえば、学校の先生や親しい友達の親御さんに、皆さんから話しておいてもらいたいかどうか、お子さんと話し合っておくのです。大切なのは、自分のからだやこれまでの自分のことを誰がどれほど知っているか、知らせるのか、お子さん自身が決め、分かるようにしておくことです。他の人に話すことになるときには、お子さんの希望に耳を傾け、その希望を尊重する必要があるでしょう。

 私たちが、大人になったDSDを持つみなさんや親御さんたちから学んだことはこうです。皆さんが誰かにお子さんのDSDについて話をされるときは、正直さこそが一番大事なことだと。大切に正直に話をしているのだと相手に伝わることで、皆さんがこのことに後ろめたさを感じていないのだ(実際後ろめたく思う必要なんてないのですから)ということも相手に(そして皆さんやお子さん自身にも)伝わることになります。そうすれば、その相手の方も皆さんを支え、信頼関係を結ぶことができるようになるのです。お子さんのDSDについてお話された後は、「なにか分からないことや心配なことはありますか?お答えできるようであれば、お答えしますので」と最後に言っておくのがいいでしょう。次の日にもう一度その人に、「昨日お話ししたことで分からないこととかがあれば、何でも聞いてくださいね」とフォローしておくのもいいと思います。覚えておいていただきたいのは、後ろめたさや偏見は、恐れと無知から来るものだということです。相手の方の混乱を解消していくことで、恐れや無知を無くしていけるのです。

ここでご紹介しているハンドブックはアメリカで作成されたものです。欧米と日本とでは文化差や、子どもの発達・成熟には大きな違いがあります。また、性分化疾患は、同じ診断のつく体の状態でも個々に状態像は異なり、全てに当てはまる100%の方法というものはありません。ですので、ここに書いてあることが必ずしも正解ということにはなりません。欧米でも指摘されていますが、最も大切なのはお子さん個々の理解力の発達やご家族の状況です。話すか話さないかということも含めて、その答えはそれぞれのご家庭によって異なります。お子さんの体の状態・発達や、精神的な成長について、担当のお医者さんや児童精神科医、臨床心理士などとよく話し合った上で、ご家族それぞれの方針を立てて行っていただければと思います。

ハイキングの家族
友人や家族に何を話すか?

 お子さんが診断された時から、皆さんは、近しい家族や親しくて信頼できるご友人にはお子さんのDSDについて正直でいなければなりません。DSDのことを話すのはとても難しいことです。特にちょうど初めてお子さんのDSDのことを皆さんが知ったときには。性器の違いについて話をするというのは、一般の人達には性交渉の話だという風に思われがちですし、性のことについて話をするのはあまり気持ちのいいものとは思われません。親しくて信頼できる友人や家族にお子さんのDSDのことを初めて説明する時は戸惑いと恐れを感じられるかもしれませんが、DSDを持つ他の子どもの親御さんの皆さんは話をするたびに少しずつ楽になっていったとおっしゃいます。皆さんが一番信頼できる人にお話されるのがいいでしょう。

 

 お子さんのDSDの説明をする時、家族や友人の中にはショックを受けて「分からない。お子さんは男の子?女の子?」というように言ってくる方もいらっしゃるでしょう。こういう質問については、「赤ちゃんは時々、平均的な男性・女性とは少し違う体の状態で生まれてくることがあるんです。こういうことは5,000人生まれる中で1人くらい起きる違いで、社会ではいろいろな誤解や偏見もあるけど、現実はそういう子どもも男の子・女の子には変わりがないんです。娘のスーの場合だと、スーは女の子だってちゃんとした検査で判明したんです。スーのような体の状態の子どもは実は女の子なんだって」とお話されるのが良いと思います。それを聞いたご家族が「スーが女の子じゃないって分かったらどうなる?自分は男だと自分で決めたら?」と聞いてくるかもしれません。これには、DSDを持っていなくてもどんな子どもでも性の変更をすることは少ないけどありうる。でもそれはトランスジェンダーの人々の話で、DSDではそういうことはかなり稀なことだということを説明されるのがいいでしょう。万が一女の子だということがお子さんには嫌だということになったら、自分たちは子どもが感じる性別への変更をすることを手伝ってやりたいと思っていると付け加えてもいいかもしれません。自分たちはスーを彼女そのままに愛している、みんなにもそうして欲しいと言うのもいいでしょう。「この娘が私たちの人生で特別なのはDSDのことじゃない。この子はおばあちゃんに似た目をしているし、笑った顔がとっても素敵で、兄弟姉妹にも愛情を降り注いでいる。そんなところが私たちにとって特別なんだ」と。

 皆さんもこのように、お子さんは平均とは違うかもしれないけど、自分の娘・息子は他の子どもと同じように特別で可愛いのだということを説明されているかもしれません。もしお子さんが他の健康問題を抱えているなら(DSDを持つ子どもの中には、CAHの女の子などそういうお子さんがいらっしゃいます)、そのことも説明してください。そして、自分たちがこの子を愛情を持って心を開いて育てていくのを手伝って欲しいとご家族やご友人にお話ししてください。「この子のDSDのことで落ち込んだり心配になったりするかもしれない。他の人がこの子を受け入れてくれないんじゃないかってこともね。でも、大好きな人があなたを愛してくれて受け入れてくれたら、それが力になっていたはずだと思う。あなたの子どもと同じようにね」。ご家族やご友人には、このようにお話されてもいいでしょう。

 

 ご家族やご友人にお子さんのDSDについて正直に話すことで、お子さんのDSDのことを恐ろしい家族の秘密や悲劇的なミステリーにしてしまわず、「当たり前のこと」にしていけるのです。もし息子・娘さんが自分のDSDについての情報を理解できる十分な年齢になったら、生まれてからのDSDについてご両親の皆さんから話を聞いていく時期になります。皆さんが気持ちを開いて話しをするということをしていけば、息子さん・娘さんは誰か彼が愛する人に、自分がDSDを持っていることを話すことができるのだと、もう自分でもわかっていることでしょう。

シェリル・チェイスさん

赤ちゃんの性別判定に時間がかかる場合には…

 ご家族など関係する人には、赤ちゃんに起きていることをしっかりお話されることをお勧めします。そのつもりがなくても、ごまかしたり隠しておいたりすることで後ろめたさや秘密ができてしまい、そのために皆さんは孤独や怒り、そして大きな悲しみをひとりで抱えこむことになってしまいます。ご家族や友人にお子さんの体の性の発達について話すのはとても難しいことにもなるでしょう。けれども、しっかりと向き合って話をすることで、皆さんが後ろめたくなることはないと思えるようになりますし(だって実際皆さんに後ろめたいことなんてないのですから)、周りの人も皆さんを支え、信頼関係を作ることができるようになるのです。この大切な時に皆さんが孤立してしまっては、ひとりで重圧を抱え、ひとり孤独になってしまうかもしれません。話をするということで、ご家族やご友人の方と更に深くつながっていけるのです。

 お子さんのDSDについて話すときは、最初は大きな感情の波を感じられるかもしれません。皆さんに協力してくれる立場の医療スタッフは、このような大きな感情の波について話をし、ご家族やご友人にどのようにお子さんのことを伝えるか、その方法を考えだす機会や場を皆さんに提供する義務があります。もしこのような時間や場が提供されないようなら、ぜひ医療スタッフに依頼するようにしてください。

 親というものは自分の子どものことを誇りに思うもので、子どものことを意図して後ろめたく思ったり戸惑っていたりするように行動しないものです。けれども、自分自身の子どもについてしっかりと本当のことを話せないとなると、時を重ねるごとに後ろめたさの気持ちは大きなものになっていくこともあるでしょう。更に重要なのは、皆さんがしっかりと本当のことを話さなければ、DSDを持つ子ども自身も、自分のことを後ろめたく感じるようになってしまうことです。ただ実際、本当のことを話すというのには時間とサポートが必要なことだろうと思います。

 

 ですので、こういう風に話すところから始めるのはいかがでしょうか?「赤ちゃんは、みんなが思ってるよりも実は結構よく起きる状態を持って生まれてきたらしいんです。お医者さんはいろいろな検査をしてくれて、実際には男の子か女の子かちゃんと特定するようにしてくれていて。お医者さんは○○日以内にもっとたくさん分かるからって言ってくれてるので、それから子どもの性別と、私たちがつけた名前を伝えられればって思ってます。しばらく待ってみようと思っています。見守って、支えてもらえませんか?すぐに赤ちゃんを直接紹介できればって思ってますので」。

 

 ご友人やご家族には、赤ちゃんが健康かどうか、なにか健康に関わる問題があるかどうかを知っておいてもらうというのもいいでしょう。もし健康に関わる問題がある場合は、お医者さんから説明を受けたことを伝えるようにしてください。そして最後に、赤ちゃんの顔の写真を撮って、送ってあげてください。

 

 恐らくですが皆さんも、他の親御さんが体験されてきたこと、つまりご友人やご家族からたくさんの疑問やたくさんのアドバイスをぶつけられるということがあるかもしれません。皆さんのご両親(おじいちゃんおばあちゃん)が混乱されたり気に病まれたりされる場合は、医療チームの人に説明をお願いすることもできるでしょう。DSDを持つ他の子どもの親御さんやピアカウンセラー(訳者注:同じ状況にある人の中で、カウンセリングの技術を学んだ人のこと)と話をしたりするのもいいでしょう。最初の一歩は簡単なことではないと思います。けれども、この一歩を踏み出したのは皆さんが最初ではありません。もし皆さんが周りからの支援に手を伸ばせば、ひとりだけで背負わずにすむのです。

 赤ちゃんが男の子か女の子か、性別判定検査が必要な外性器の状態で生まれた場合については、こちらのページや「赤ちゃんが少し違う外性器の状態で生まれた場合には…」のパンフレットも御覧ください。

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赤ちゃんが少し違う外性器の状態で

生まれた場合には…

ー 最初の日々のために ー

 ヨーロッパの内分泌学会DSDs専門医療従事者と,イギリスのDSDsサポートグループが協働で作成した,赤ちゃんが性別判定検査が必要な外性器の状態で生まれた場合のガイドブックです。

 ネクスDSDジャパンで日本語版を作成しました。このような状況に置かれたご家族のみなさんだけでなく,医療従事者のみなさんも,ぜひお役立て下さい。

 パンフレットをダウンロード 
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ハッピーガール
先生や保育士さんにどのように話すか?そのヒント

 お子さんの人生の様々な場面で、皆さんはお子さんのDSDについて、日常お子さんに接する人に話をしなければいけない時があるかもしれません。お子さんの幼稚園や保育園、学校の先生とDSDについて話をすることで、お子さんの感情や身体的な安全を保つことになるでしょう。どれほどの情報を話すのか、お子さんになにか特別のニーズがあるかどうか、皆さんとお子さんがどれほどの情報を知ってもらっても安心でいられるかどうか、それはお子さんの年齢によって違ってきます。覚えておいていただきたいのは、お子さんが成長するに連れて、どれくらいの人ならば知られてもいいのか、できるだけ子どもに決めてもらうようにしていくことが大事だということです。お子さんが自分の体やこれまでの人生についての話を、周りに対してお子さんがコントロールできる状態であることが重要です。ですので、誰かに話すことになる時には、お子さんの望みをよく聞き、尊重することが必要でしょう。

 

 もしお子さんの性器が平均と違うように見えたり、手術の跡があるという場合、お子さんが幼稚園や保育園、小学校では、保育士さんや先生方には基本的な情報はいくつか伝えておくことがとても大切です。お子さんのおむつや服を変える時に、保育士さんや先生方が見るものを事前に理解しておいてもらうのです。皆さんも、保育士さんや先生方が心の準備なしで怖がったり動揺したりする環境に子どもをおいておきたいとは思われないはずです。 下のふたつの文章は、保育士さんや先生と話を始めるときの例です。ひとつめの文章については、子どものトイレを手伝ってもらう時に子どもの性器を見るかもしれない保育士さんや先生に、もう少し情報を伝えることにする親御さんもいらっしゃいます。(訳者注:幼稚園や保育園では先生や保育士さんがおむつを変える時があります。また、日本ではお風呂はないかもしれませんが、着替えやトイレ、プールの時にどうするか?という問題はあると思います。)

 

 

親から保育士さんや先生に 「息子のお風呂の手伝いをしていただくとき、ジェロームの性器は他の男の子と少し違うということに気づかれるかもしれません。もしなにか疑問に思われたら、疑問に思うのが当たり前だと思いますので、気になさらずに私たちに聞いてください。質問いただければお答えしたいと思いますし、必要なら資料もお渡しします。何か今聞いておきたいことはありますか?」

 

 

 何か質問があるかどうか、次の日にもう一度たずねて見られることをお勧めします。こうすることで保育士さんには、皆さんとこのことを話しても大丈夫なんだということを分かってもらえます。

 

 子どもが大きくなり、自分でお風呂に入れるようになるに連れ、子どもの特別なニーズについて先生が知っておかねばならないことを伝えるだけにしておきたいと思われる親御さんもいらっしゃいます。子どもが個人用のお風呂にしたいと思う場合は、こういう風に言っておきたいと思われるかもしれません。

 

 

親から小学校の先生に: 「ジェロームにはちょっと事情があって、個人用のお風呂を使わせていただきたいんです。先生のほうでご調整いただいて、可能かどうかお返事いただけませんか?」

 

 

 皆さんが、お子さんのDSDについてはあまり詳しく伝えたくないと思われて、上記のようにお話される場合、ほとんどの先生方はそれ以上は聞いてはこないでしょう。もし誰か先生が、お子さんの事情はどんなものなのかもっと知らせてもらえないかと聞いてこられる場合、もし皆さんがあまり話したくないと思われるなら、息子さんには、個人用のお風呂を必要とするような他のこどもとの生まれつきの体の違いがあるのだということをお伝えになるだけで良いと思います。お医者さんの意見書が必要になることもあるかもしれません。その場合は、学校の先生に話したのと同じことを書いた意見書をお医者さんに作ってもらうようにしてください。

 

 学校の先生方が本当に知っておく必要がある情報は、(もしあるのなら)娘さんが学校にいる時に必要とする特別な配慮がどのようなものかということだけです。親御さんの中には、子どものDSDについての具体的な情報を伝えることにした方もいますし、子どもへの特別なニーズを依頼されただけの方もいます。皆さんやお子さんにとって良いと思われることを決めていってください。ただし、大事なのは、娘さんが成長するに連れ、自分の先生が事前に知っていることを、本人に伝えるようにすることです。それは、親御さん以外の誰かから、重要な情報が伝えられてしまうような状況にしないためです。

 

 高校は、親御さんの多くが、学校の先生や養護教諭にDSDについて何を伝えるのか、子ども自身に決めるようにされる時期です。息子さんや娘さんが自分のDSDについて具体的な情報を誰かに伝えることに大きく抵抗があるなら、本人のその望みを尊重されることがベストです。高校は、多くの子どもが体育の時間の前のロッカールームで、同年代の友人を前に着替えをするかどうかという問題に直面する時です。多くの子どもが居心地の悪い思いをしているということを大人も認識し始めていますので、ロッカールームの使用は今は少なくなりつつありますが、今でも使っている学校もあります。もしお子さんの学校がロッカールームを使っているのであれば、個人用に変更してもらう方が、お子さんは安心かもしれません。この場合は、体育の先生に、着替えには個室を使わせてもらうニーズがあることを伝えてください。もし必要なら、お医者さんからの、個室を必要とする旨の簡単な意見書のコピーを用意しておくといいかもしれません。

 多くの親御さんは、子どもの保育士さんと話をするように努めていくと、話すこと自体が楽になっていったとおっしゃいます。お子さんが通う保育園や学校との交渉については、これまで同じ経験をしてきたDSDを持つ歳上の子どもの親御さんに相談してみてください。学校のスクールカウンセラーや養護教諭に相談されるのもいいでしょう。

 ただし、近年ではLGBTQなど性的マイノリティの皆さんについての情報が学校や保育園・幼稚園でも広がりつつあります。それはとても素晴らしいことなのですが、大変残念ながらDSDsを持つ子どもたち・人々とLGBTQ等性的マイノリティの人々とが混同されがちになっています。もし学校や保育園の先生にお子さんのDSDについて伝えられる場合は、DSDsは、LGBTQ等性的マイノリティの皆さんとはまた異なることなのだと伝えておくことも重要です。

先生や保育士
医療スタッフとの話し合いには…(1)

 お子さんの担当医などの医療スタッフのところに行く準備をされる時には、医療スタッフに確認しておきたいことを事前にリストアップしておくのがいいでしょう。確実に話しておきたいこと、質問したいことをリストアップするのです。医学的に細かいこと(お薬がどんなふうに効いているかなど)とともに、全体的なこと(お子さんの長期的な目標を簡単にでも再確認してもらうようにするなど)も覚えておいてください。たとえば、担当のお医者さんを訪ねる時には、こういうことをリストに入れておくのもありでしょう。   

  • 今月学校の吹奏楽部でかなり子どもががんばっていたことを少し話しておく。(これは、医療スタッフや皆さんご自身もですが、お子さんはDSDのことだけじゃない、いろいろな側面全体でできているひとりの人間なのだということをちゃんと思い出してもらうためです)。

  • お子さんへの投薬量は年齢や体重に合ったものと思うかどうか、お医者さんに聞く。

  • 皆さん親御さんの長期的目標には、子どもが自分のからだに満足できること、健康であること、愛し愛されるようになることというのもあるのだと、お医者さんに再確認する。

 お子さんの治療については、日記やノート、ファイルボックスに記録を残しておくと、自分自身の中でまとめていくのにも役立つでしょう。何かの症状があったり治ったりした時に、話したい聞きたいと思っていたことを残しておくのにも役に立ちますし、病院に行った時のことを残したり、医療記録のコピーを張っておくこともできます。(これについては第5章もご覧ください)。

 

 お子さんの担当医への質問にはどのようなものがあるか、次のリストを役に立ててください。このリストは元々、最近DSDを持っていると診断された赤ちゃんのご両親が書かれたものです。同じようなケースでなくても、おそらくたくさんのヒントが含まれていると思います。それと大事な事ですが、お子さんを支えてくれる人に話をしたときは、そのことをノートに記録するようにしてください。そうすれば後で、どういうことが分かったか、誰にどこまで話したかなどを確認できるようになります。お子さんが成長して、そのノートをお子さんに渡せば、それまでの医療の記録を見てもらうことができますし、息子さんや娘さんにとって大切で役に立つ事柄も見つけやすくなるでしょう。病院で質問したり記録しておいた方がいいことについては、「病院に行く前の準備」のセクションをご覧ください。

  • 「この子の正確な診断名を知りたいんです。できれば書いていただいて、もっと勉強できる本や情報源があれば教えてほしいんです。もしまだ分からなければ、どういう診断名だと今お考えか、教えていただけますか?」。正確な診断には何週間か、あるいは何ヶ月かかる場合もあるということは覚えておいてください。ですが、このような間でもどういう診断が考えられるか文書に書いてもらうことはできるでしょう。もし担当のお医者さんがまだ本当に診断が分からなかったり、そのことを皆さんと共有できるのであればそれでいいのです。診断がはっきりしないというのは医療の現場では普通にあることですし、避けられるものではありません。人の構造は本当に複雑なもので、DSDには考えられているだけでもたくさんの種類があります。それらの多くは一見似ているものもあって、その中でお子さんがどういうものを持っているか判定するのが難しいという場合もありえます。けれども、もしお医者さんが状況をコントロールするために、皆さんにはあいまいなままにしておこうとされているのなら、それはよくありません。お子さんの疾患の事実から「保護される」必要はないということを、はっきりとお医者さんに伝えてください。子どもを守るのはまず自分たちなのだから、できるだけ自分たちが知っておく必要があるのだと、お医者さんに分かってもらわねばなりません。

 

  • 「この子の医療記録と検査の結果のコピーを全部いただきたいのですが、お願いできますか?」。これらのコピーを持っておくことで、他の人に説明しやすくなりますし、お子さんが成長すればお子さん自身が自分の記録を見ることもできるようになります。これらの記録は長期的観点からはとても有効なものです。皆さんはお子さんの医療履歴を全てコピーできる権利を持っていますので、もしお医者さんが拒否されても、何が起きているのか自分たちが正確に分からないと、子どもに対して一番いいケアができないということをお医者さんに思い出してもらうようにしてください。お子さんが生まれた病院の医療履歴や検査結果のコピーをもらっておくことも忘れないでください。必要な情報が含まれているはずです。

 

  • お子さんを見に来る医療スタッフがたくさんいるようであれば、「子どもをちゃんと見る必要のある担当の人は誰ですか?できれば出入りする人は少なくしてもらいたいんです」と聞いてください。特にお子さんが大学病院にいるときは、医学生や看護学生、研修医(レジデント)などへの教材のような扱いにさせないためです。もしお子さんの性器が、お子さんがイヤがる形で何度もくり返したくさんの人から見られるということがあったり、何が起きていたのか理解できるほどお子さんの物心がついてから、あれはとてもイヤだったと思われることもあるかもしれません。大人になったDSDを持つ人の多くが、何度もくり返し一度にたくさんの人からジロジロ性器を見られたことで、長年にわたって心を損なわれたとおっしゃっています。ですので皆さんからは、真に医学的な理由で本当に必要な検査をする医療スタッフを限定してもらうようにしなくてはいけません。もしお子さんの担当医が研修医(レジデント)であれば、お子さんの検査には、スーパーヴァイザー(訳者注:まだ経験の浅いお医者さんなどへの監督役のことです。)として指導医の先生がつくことは許可してください。お子さんの性器や全身写真を医療チームが写真に取るようなことは拒否するようにしてください。DSDを持つお子さんの親御さんで、専門のお医者さんでもある方は、子どもの治療には実際のところ写真はほとんど必要がないとおっしゃっています。

  • 「同じような状況の他の親御さんに私の名前と電話番号を伝えてもらえませんか?それで、電話がほしいと言ってたと伝えてほしいんです。全く同じ状態の方でなくてもいいです。同じようなDSDを持った人で、大人の人や年上の子どもさんのご両親と話をしてみたいんです。そうすれば、これから大丈夫だ、やっていけるって思えると思うんです」。私たちがこれまで学んできたのは、ピアサポートこそがご両親にとって最も重要なものになるということです。DSDを持つお子さんと何年も人生を共にしてきた他のご両親と会うことで、自分はひとりではないということが分かり、様々な体験に伴う感情の浮き沈みを和らげることになるのです。それに、医療システムや大学病院のシステムの中で、どうすればうまくやっていけるか知ることもできるでしょう。医療チームのコーディネーター(訳者注:統括者のこと)(通常は看護師さんやソーシャルワーカーさん)から、他の親御さんに出会えるよう、お住いの地域の親のグループやお子さんの性分化疾患のサポートグループを教えてもらってください。これらのグループには、たいていの場合お子さんの性分化疾患が分かった最初の段階を、ご両親がどうやっていけばいいか、詳しい人が誰かいるはずです。(訳者注:日本では、看護師さんや病院内の臨床心理士などがそれに当たります。)

 

  • 「DSD専門や出生障害を扱った経験のあるカウンセラーさんや精神科医、それに看護師さんを紹介してもらえませんか?すごく混乱していて、(怖さや混乱、罪悪感、喜び、どうすればいいのかという思いなどが入り混じった)この気持ちを一緒に整理してくれる人にいてほしいんです。そうすれば、DSDを持って子どもが成長していく時に起きるかもしれないことを勉強できますし」。お医者さん(内分泌学医や泌尿器科医、外科医など)はカウンセリングを勧めようとしてくれるかもしれませんが、お医者さん自身はカウンセリングを行う時間もなく、専門のトレーニングも受けていない人がほとんどです。カウンセリングを専門に行なっているスタッフによる、皆さんとお子さんのサポートを希望してください。カウンセリングを受けるというのは、別に皆さんが心の病を持っているということだったり、変な人だということではありません。あくまで、皆さんはなかなか通常にはない状態にあり、皆さんのご家族を支える社会的資源をどうやって得て、利用できるようにするかを知るためです。

ドクターを再生するリトルボーイ
医師と患者
医療スタッフとの話し合いには…(2)
  • 「子どもには、なにか緊急の医学的問題はありますか?もしそうなら、どんなものなのか、どういう治療選択肢がありますか? 今何もしないとどういう危険がありますか?」 DSDを持って生まれた赤ちゃんのほとんどは健康上の問題はありません。その場合は緊急の医学的問題はほとんどないでしょう。(緊急の医学的措置が必要なケースには、尿道が体の外まで届いていない新生児や、副腎皮質過形成における塩類喪失などがあります)。もし赤ちゃんが、DSDを持っているだけで、特に緊急の治療が必要ではない場合は、医療スタッフには、大事な新しいメンバーを家族に迎えることをやっていかなきゃいけないので、できるだけ早めに家に連れて帰りたいということを伝えておきましょう。お医者さんが必要だと言う治療が本当に必要なものなのか確認を取るようにしてください。お医者さんは、本当はすぐに必要がないものでも、善意から治療を提案されるということもあります。お医者さんや看護師さんに、できるだけ早く退院して家に戻れるよう、在宅で利用可能な社会的資源があるかどうか訊ねてみてください。もしお子さんに何らかの経過観察が必要なら、特別な訓練を受けた訪問看護師の支援を受けながら、在宅で可能な場合もあります。

 

  • 「この子の性別判定は(男の子か女の子)どちらですか? 将来はどうなるんでしょうか? 理由も教えていただければありがたいです」。お医者さんは、赤ちゃんが男の子か女の子か特定するために、様々なDSDsに関して既に分かっていることを調べられるはずです。もちろんDSDを持たない子どもであっても、トランスジェンダーのみなさんがいらっしゃるように、ある子どもが将来どういう性自認を持つかを完全に予見することはできません。ですがDSDの場合は、専門病院での然るべき検査の上での女の子か男の子かの性別判定であれば、お子さんが将来性別違和を抱えるということは滅多にありませんし、トランスジェンダーのみなさんとDSDsは全く異なるものです。(もちろんDSDsを持つ人々でトランスジェンダーの方もいらっしゃいますが、それはたまたま重なったというだけです)。ただし、性別判定には手術が必要なわけではないということは覚えておいてください。この種の手術をすぐにしないということは「お子さんを第3の性別で育てる」ということではありません。全く違います。どの子どもでも性別判定をするということと全く同じように、男の子か女の子か、皆さんのお子さんも性別を判定をするのは当たり前のことです。皆さんのお子さんも同じように、男の子か女の子かの性別判定はしてあげてください。もしお子さんの行動や振る舞いが、判明した性別と「少し違って」いることがあっても、皆さんに何か悪いところがあったということではありませんし、お子さんが何かの病気だということでもありませんし、必ずしも性別判定が間違っていたということでもありません。それはただ単に、お子さんが統計的平均とは少し異なるというだけで、皆さんが息子さんや娘さんを、ひとりの人格を持った人間として愛し、支えることが一番大切なのです。

 

  • もしお医者さんがお子さんの性器の見た目を変えるような性器手術を勧めてこられた場合は、「子どもの性器を手術で変える必要があるという理由はどんなものなんですか?手術をすることで長期的にこの子を支えられるというエヴィデンスはあるんですか?」と訊ねてください。外科のお医者さんは、お子さんが身体的に健康になるかどうかではなく、他の人からお子さんがどのように見られるかということを心配して外科手術を勧めてこられることがあります。お子さんの命を守るために手術が必要な場合はぜひ行わなければなりません。ですが、外科のお医者さんがお子さんの外見を変えたいだけなのなら、少し待って考えていただきたいのです。「どちらか見分けにくい性器」を持って成長した方は、大抵の人が問題なく生活しているとおっしゃっています。皆さん親御さんも、お子さんがDSDを持っているということで傷つくことになるんじゃないかとご心配されていらっしゃると思います。けれどもエヴィデンスでは、皆さんがオープンでちゃんと向きあって話をし、お子さんの存在を受け止め、支えていくならば、傷つくことがあっても力強く生きていかれることを示しています。外科のお医者さんというのは人の生体組織を切るのが仕事で、それは当然なのですが、その手術結果は元に戻すことが不可能で必ずしも良いものではないかもしれません。むしろ不要な外科手術は、お子さんの健康を損ない、性的感覚を無くし、傷跡を残し、外見的にもあまりいい結果を生まないこともあるかもしれません。緊急の必要がない性器の外科手術をせずに、性器の発達自体は他の女の子や男の子と少し違っていても、そのままで育てられた親御さんもいらっしゃいます。

 

  • 次のようなことをお願いしたい親御さんもいらっしゃるでしょう。「性器の外見を変える手術を受けるかどうか、子ども自身が決められるまで待つことはできますか?」と。緊急に必要のない治療を子どもが選択できるまで待つことは、アメリカ小児医学会(AAP)による、インフォームドコンセントと自分の治療のあり方の決定に子ども自身も参加させるという理念が支持するところです。アメリカ小児医学会はまた、皆さんとお子さんは提供される治療について全て知る権利を持っているとも言っています。アメリカ小児医学会の理念をインターネットから印刷して、担当のお医者さんのところに持っていくことをお勧めします。(第7章をご覧ください)。もしお医者さんが「お子さんが性行為できるようになるには、このオペが必要なんです」とおっしゃる場合は、なぜ手術はその年齢まで待てないのか聞いてみてください。シェリー・ゴフマン・モーリス(DSDを持つ法律家です)が言うように、大学生にもなればお子さんにもコンピューターが必要になるからといって、いますぐ買い与える必要があるということにはならないのと同じです。お子さんに決めてもらうようにするのは、お子さんに、自分のからだに責任を持つのは自分なのだということを教えることになるでしょう。

 

  • こういうことを聞いてみたいと思われる親御さんもいらっしゃるでしょう。「このような手術は、先生は今まで何回経験されましたか?結果として良かったこと悪かったこと、それぞれ何回ほどでした?肉体的なことだけでなく、精神的なことでも」。外科医の先生が「いつもうまくいってますよ」なんて言ったら、心配になられませんか? 誠実で現実的な人であれば、外科手術はいつも全てがうまくいくとは限らないと思われるでしょう。もし手術を行われるなら、お子さんのような状態を持つ人にとって、それが良いものであったと証明されるような治療を選んでください。どのような結果となるのかちゃんとエヴィデンスがないものであれば、実験的な手術のリスクを犯すかどうかはお子さん自身に決めてもらうまで待つことを検討してください。もう一度くり返します。お子さんが決められるようになるまで待てば、どれくらい良い結果となるかエヴィデンスも十分にそろっているでしょうから、実験台になるリスクは防げます。手術が最終的にどのような効果、影響があるのか聞かれるときには、その手術がお子さんの人生や生活を向上させるものになるかどうか必ず確認してください。皆さんとお子さんの人生・生活がより良いものになることが一番大切なことなのですから。

 

  • もしお医者さんが、緊急に必要のないホルモン療法を勧めてこられる場合は、「このホルモン療法は今必要なんですか?自分にとってそれがいい方法なのかどうか子どもが自分で決められるまで待つことはできますか?今すぐやった方がいいのか、後の方がいいのか、それぞれのリスクや実証された利点はどんなものですか?」と一度聞いてください。多くのホルモン療法は、元に戻すことができない効果を持っています。ですので、もし可能なら、お子さんが自分自身のからだや治療のあり方をどのようにしたいのか、自分で主体的に決められるまで待ってみることも考慮に入れてください。ホルモン療法の重要な情報については、「思春期」のセクションもご覧ください。

 

  • お医者さんからの勧めがあるかどうかに関わらず、「この子と似たような状態の人で、先生が勧められる治療を受けてきた人と、別の方法を取った人をご紹介いただくことはできませんか?」と聞いてください。これは、医学的なサンプルを見せろと言っているのではありません。DSDを持って大人になった人々と会うことで、お子さんが長期的には皆さんに何を望むのか、皆さんが考えるヒントとなるようにするためです。大人になった人であれば、DSDのことはどんな人と話をすればいいかご存知でしょうし、これからどうしていけばいいのか大切な話も聞けることでしょう。

 

  • もし皆さんが感情に圧倒されていたりストレスに苦しまれているようなら、「専門のメンタルヘルスサポートを紹介してもらえませんか?精神的に参っていて、誰かに支えてもらいたいんです」と尋ねましょう。ご自身行きつけのお医者さん(家族のかかりつけ医や婦人科医など)に紹介をお願いするのもいいでしょう。その人たちには必ずご自身の気持ちを話してください。本当に精神状態がギリギリなのに、外からでは問題ないと思われることもあるからです。

 

  • 最後に、もし皆さんがお気持ち的にも強くなって、お子さんのDSDについても十分に知識を身につけるようになったら、お医者さんに「先生の患者の親御さんで、誰か同じ状況の人と話をしたいと言う人がいらっしゃるなら、私の名前を伝えてもらえませんか? 全く同じ身体の状態の子どもの親御さんじゃなくてもいいんです。同じような状況にある親御さんの支援ができればと思うんです」とお願いしてみてください。皆さんが見つけた中で、他のご家族に役に立つかもしれないところがあれば、お医者さんに知っておいてもらうのもいいでしょう。

第3章のまとめ
  • お子さんのDSDの話をすることは時にとても難しいことです。

  • ですが、信頼できる人に話すようにしていけばいくほど、楽になっていくでしょう。

  • 関係する人に話をした翌日に、なにか質問や関心があるかどうか、もう一度話をすれば相手には皆さんとこのことを話してもいいのだと思ってもらえるでしょう。

  • 周りの人は初めて聞いた話に困惑と恐れだけで否定的な反応をすることがあります。あるいはLGBTQなど性的マイノリティの皆さんの話と混同されることもあるでしょう。DSDsとはどのようなものなのか正確な情報教えることで、困惑や恐れは減っていき、そうすれば否定的な反応や混同も減っていくでしょう。(DSDsの正しい知識・情報については、こちらのパンフレットもご活用ください。性教育に携わる先生用のものですが、DSDsの正しい情報を載せています)。

  • お子さんが成長するにつれて、お子さんのDSDについて先生や友達などに、皆さんやお子さんが何をどこまで話すのか、息子さんや娘さん自身に決めてもらうようにするのがいいでしょう。

 

  • 病院に通うときには、質問や言いたいこと、記録などを用意しておきましょう。そうすれば、たくさんのものを持ち帰れます。同じ質問を何度してもいいのです。お子さんの担当医師などにはたくさん質問をして、ノートや記録に残しておきましょう。

エクステンデッド・ファミリー
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