ビーチでの家族

家族のためのハンドブック

DSD Guidelines Handbook For Parents

ようこそ!家族のためのハンドブックへ!

こちらは、アメリカで発行されている「DSD Guidelines Handbook for Parents」の日本語翻訳版のページです。 
 
この「DSD Guidelines Handbook for Parents」は、ローソン・ウィルキンス小児内分泌科学会(LWPES)や、アメリカ小児医学会(AAP)ヨーロッパ小児内分泌学協会(ESPA)、当事者団体であるISNA、日本小児内分泌学会性分化委員会などのメンバー・専門家ら約40人以上が集まった2006年の国際会議において合意・採択された、性分化疾患に関わる医療の新しいガイドラインに合わせて、Consortium on the Management of DSDが作成したものです。

このハンドブックは、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)を持つ子どもの親御さんたち、成人になったDSDを持つ皆さん、そのケアに当たる臨床医、そして支援者の方々の多大なる協力によって作成されました。DSDを持つお子さんの親御さんにしか分からないような、日々のさまざまな思い、どうすればいいのだろうという気持ち・疑問が、日常レベルから記述されているのが特徴です。

DSDを持つお子さんの親御さんのみなさんには、役に立つ情報や具体的なアドバイスがたくさん書かれているのですが、日本では長らく翻訳が出されていませんでした。私たちネクスDSDジャパンは、このハンドブックの翻訳権をいただき、日本語版を皆さんにご覧いただけるようにしました。

性分化疾患:家族のためのハンドブック

ここでご紹介しているハンドブックはアメリカで作成されたものです。欧米と日本とでは文化差や、子どもの発達・成熟には大きな違いがあります。また、性分化疾患は、同じ診断のつく体の状態でも個々に状態像は異なり、全てに当てはまる100%の方法というものはありません。ですので、ここに書いてあることが必ずしも正解ということにはなりません。欧米でも指摘されていますが、最も大切なのはお子さん個々の理解力の発達やご家族の状況です。話すか話さないかということも含めて、その答えはそれぞれのご家庭によって異なります。お子さんの体の状態・発達や、精神的な成長について、担当のお医者さんや児童精神科医、臨床心理士などとよく話し合った上で、ご家族それぞれの方針を立てて行っていただければと思います。

ビーチでの家族
第1章
お父さん・お母さんへ

 お父さんお母さん。ちょうど皆さんが、自分のお子さんが何らかのDSD:体の性の様々な発達(性分化疾患)を持っていると分かったときであれば、混乱し重い気持ちになってらっしゃるかもしれません。こういう状況では、他の親御さんと同じように、こういう疑問が心の中に浮かんでいるのではないでしょうか?

 

 

  • なぜ?なぜうちの子が?

  • 私が何か悪かったのだろうか?

  • この子を愛せなかったらどうしよう。

  • お医者さんは全部話してくれてるんだろうか?後でもっと何か言われるんじゃないだろうか?

  • こういうことを一挙に解決する方法はあるんだろうか?

 こういった疑問は、こういう状況にある親御さんに共通のものです。私たちは、このハンドブックが、こういった疑問に皆さんが自分なりに対応し、心強く、より確かに、混乱ばかりにならないようになっていくのに役に立てればと願っています。そして、皆さんの愛情あるサポートで、お子さんが健やかに、幸せに、愛し愛されるよう成長していけると皆さんが思えるようになればと思っています。

 

 このハンドブックには、それぞれのお子さんの状態についての医学的情報はほとんど載っていません。DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)に数えられる状態は大変に多く、その全てをここでカバーすることはできないからです。でもその代わりに、この本では、体の性とお子さんの成長についての基本的な情報をお伝えできればと思っています。また皆さんの心のサポートと、自分の気持ちにどう対応していけばいいか、毎日の生活のヒントになれればと思っています。お子さんが社会の中で力強くやっていけるようになっていくにはどうしていけばいいか、そのヒント、そしてお子さんの成長に合わせて、息子さんや娘さん本人(あるいは周りの人たち)にどういう風に話しをしていけばいいか、そのアドバイスを提供できればと思っています。このハンドブックの一番の目的は、皆さんが、お子さんとの人生という旅を送っていく上での助けになることなのです。

 
お父さんと娘
このハンドブックは…

​ このハンドブックは最初から最後まで読み通せるようにもなっていますが、必要なところだけを選んで、飛ばして読むこともできるようになっています。とりあえず、『第1章:お父さん・お母さんへ』は全部読んでみてください。ここではDSDを持つ子どもが抱える主な課題についてまとめてあります。

 

 『第2章:子どもの成長と、子どもにどのように話をしていくか?』は、お子さんの成長に沿って、皆さんと歩んでいくことを目的にしています。そして、お子さんのDSDについて、お子さんにどのように話をしていくのか、お子さんの年代に応じてまとめました。

 

 『第3章:周りの人にはどう話すか?』は、必要に応じて、周りの人にお子さんのDSDについてどのように話すのか、その実際的なアドバイスになっています。たとえば、日常子どもに接する人や先生にどのように話すのかということをまとめています。

 

 『第4章:よくある質問』では、DSDを持つ子どもを育てていく上で、親御さんによくある疑問に答えています。

 

 『第5章:資料集』は、病院に行く時などに皆さんが事前にできること、子育て日記をつけるときなどに役に立つ資料をまとめました。

 

 『用語集(言葉の説明)』は、普段なじみのない専門用語とそれぞれの意味をリストにしています。

 

 読み始める前にひとつだけ。

 

 このハンドブックはお子さんのDSDのことを中心にしていますが、それはあくまでお子さんの全体像の中のひとつとして考えるようにしてください。お子さんのDSDは、皆さんやお子さんの前に立ちはだかる超高層ビルのように感じられることもあるでしょう。けれどもDSDは、お子さんの人生のただひとつの側面でしかありませんし、お子さんと歩む皆さんの人生のひとつの側面でしかありません。お子さんと皆さんとの関係は、このハンドブックで書けるものよりも、実際にはずっと豊かで大きいものなのです。どうか、そのことを忘れないでください。

あなたはひとりじゃありません!

 なによりもまず、あなたは絶対にひとりじゃないということを理解してください。DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)を持った赤ちゃんは約5,000人に1人生まれてきます。つまり、毎週、アメリカでは十数人、世界では何百人もの親御さんが、子どもに性分化疾患があるということを知らされているのです。(訳者注:日本では週に約4人、年間約200人の計算になります)。最近まで、このような身体の状態については、みなさんがお子さんの持つ状態のことを聞いたことがなかったように、今まであまり語られることはありませんでした。でも、そういう状況は変わってきています。昔と比べて、皆さんのようなご家族はたくさんの情報とサポートを得られるようになっています。正確な情報をたくさん得て、その情報を、お子さんの成長に伴って伝えていき、ほかのお子さん、親御さんにも手を伸ばしていく。そうすれば、ひとり闇の中での孤独を感じずにすむでしょう。

友達と歩く
自宅の家族
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とはなにか?

 このハンドブックでは、「体の性」という言葉を、男性もしくは女性であることに関係する私たちの身体の部分について使っています。皆さんの「体の性」には、「X・Y染色体(性染色体)」(このことは後ほど詳しくお話します)、そして、卵巣もしくは精巣、膣、クリトリス、ペニス、陰嚢などの生殖器があります。性ホルモンは皆さんの体の性のもうひとつの側面です。性ホルモンは、皆さんの身体の中で血液を通して流れる化学物質でできたメッセンジャーです。性ホルモンは皆さんの身体を成長させ、性的な成熟をもたらします。たとえば皆さんが生まれる前、性ホルモンは性器の成長を進め、思春期には子どもから大人の男性・女性の身体に変化していく役割をしています。

 受胎してから死ぬまでの間、私たちの体は性の成長のたくさんのステップをたどっていきます。たとえば思春期、皆さんは、子どもの体から、性的に成熟した男性・女性の体になっていったでしょう。思春期や閉経期は、性の成長の中でも見た目にもかなりはっきりしたひとつのステップです。でも本当は、普段それほどはっきりとは分からなくても、体の性の成長にはもっとたくさんの段階があるのです。体の性の成長は、まさに受胎の段階から始まり、子宮の中にいる時も、まだ幼い子ども時代にも、思春期にも、大人になっても、歳をとっても起きていることなのです。

 

 「体の性の発達(性分化)」とは、男の子と女の子、それに男性と女性が、それぞれ異なった性的成長の方向をとっていくことを言います。たとえば子宮の中で、受胎の数週間後、胎児は「原性腺(げんせいせん)」を形作っていきます。数週間後にはこの原性腺が、一般的には精巣か卵巣のどちらかになっていきます。原性腺が卵巣か精巣になるよう分化していくのは、生まれてくるよりずっと前のこの一度きりなのです。

 

 外性器(ペニスやクリトリス、陰嚢や陰唇など)もまた、人の人生の様々な段階で分化していきます。DSDを持つ子どもは、平均とは異なったように見える性器を持っていることがあります。ですが、DSDを持つ子どもの全員が平均とは違ったように見える性器を持っているわけではありませんし、平均とは違ったように見える性器を持った人全員がDSDを持っているわけではありません。(ここでの「平均」とは、男性・女性それぞれの、性器の大きさ形などのだいたいの分布図のてっぺんのことを言っているにすぎません)。図5.1.「誕生前の外性器の発達」に性器の成長の図を載せています。そこでもっと詳しく性器の成長についてお話しています。

 

 体の性の発達の最初の段階は、受胎直後に起きていると言えます。卵子も精子もそれぞれ染色体(その中には更に遺伝子が含まれています)を含んでいます。遺伝子とは、人の身体の設計図のようなものです。ほかの染色体と同じように、一般的にはお母さんの卵子からX染色体ひとつを、お父さんの精子からはX染色体またはY染色体のどちらかを子どもはもらいます。ですので最初の体の性の発達は、まさに受胎のときに起きていると言えるのです。

 

 人の体の性は、人生の中で本当に多くの段階を経て成長していきますので、男の子にも女の子にも、ひとつの平均にはならないような成長の仕方をしていくポイントがたくさんあることになります。体の性の成長の仕方が一般的な発達とは少し異なる場合、その状態がしばしば「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)」と呼ばれているのです。ですのでDSDsとは、女の子・男の子の体の性の成長の様々なバリエーションにつけられた名前と言えるでしょう。

 

 実際にはDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「先天性副腎皮質過形成(CAH)」や「アンドロゲン不応症(AIS)」、「尿道下裂」、「ロキタンスキー症候群」、「クラインフェルター症候群」、「ターナー症候群』など,それぞれに異なる体の状態をひとまとめにした包括用語に過ぎません。医療の現場でも,それぞれの体の状態に応じたケアが行われていて、DSDsという包括用語が使われることはほとんどありません。

 ですが、体の状態や医療ケアの方法はそれぞれに違っていても、子育ての上での悩みや困りごと、娘さん・息子さんの成長の見守りには、とても共通したところがあります。

 このハンドブックは、そういった共通点で役に立つヒントやアドバイスを書いています。

DSDの原因は何でしょう?

 お子さんを担当するお医者さんは、お子さんのDSD:体の性の様々な発達(性分化疾患)がなぜ起きたか、説明することができると思いますので、必ずお医者さんに質問してみてください。ここでは一般的なお話をしましょう。DSDは、お子さんがXXやXY染色体の組み合わせ以外の組み合わせを持っていることから起きることがあります。ある男の子はXXYの組み合わせを持ち、ある女の子や男の子は一人の身体の中に、様々な組み合わせの染色体を持った細胞を持っていることがあります(モザイク型染色体と呼ばれています)。

 

 あるいは通常の遺伝子(遺伝子の一部)がない場合にDSDが起きる場合もありますし、遺伝子の組み合わせが一般的なものでない場合、その男の子・女の子の体が一般的な男の子・女の子とは少し違った成長をすることもあります。こういったことは、家系を通して受け継がれる遺伝子から起きることもありますし、偶然起こった遺伝子の変化によって起きることもあります。また、なぜDSDが起きたのか分からないという場合もあります。

 

 お子さんのDSDの原因が分からないという状況にある親御さんもいらっしゃることでしょう。ご不安でいらっしゃるかもしれません。でも、それは起きたことです。親御さんも含めて私たちは原因を知りたいと切実に願うものです。それは診断が本当に正しいのか確かめたいという思いからの場合もありますし、罪悪感を感じていたり、自分の何が悪かったのかと自分を責めるように思っている(その必要はありません!)という場合もあります。

 

 もしかしたら皆さんは、医療専門家や家族、友人などの善意から、むしろ、お子さんがDSDを持っていることに罪悪感を感じることになってしまったという経験があるかもしれません。この気持ちは、とても大きく、気が重く、混乱にもつながることもあるでしょう。そういう時は、こういう気持ちを大きな声で話し、罪悪感を感じる時は誰かに相談し、そして、お子さんのDSDで自分を責める必要はないということを思い出すようにして下さい。こういうことを話すようにしていけば、重い気持ちを晴らし、もっとしっかりとお子さんのことを見つめ考えられるようになります。 

 

 お子さんは成長につれて、自分のことをどういう風に感じていくべきか、皆さん親御さんから学んでいくようになります。皆さんがあるがままの自分自身を責めない、それをお子さんに(そして自分自身に)示すあり方を見出すことができるなら、お子さんには何よりも助けになることでしょう。あなたのお子さんは、皆さんに自分のことを、そのままに受け止められ、愛されたいと望んでいるのですから。

積み木で遊ぶ子供
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受け止めていくのには時間がかかるものです。

 お子さんがDSDを持っていることについて、何も心配していないし、気にならないし、悲しみも怒りもないという方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。もしそうであれば、それはすごいことです。ですが、そういうことはなかなかないものです。

 お子さんがDSDを持っているということを受け止めていくだけでも、とても難しいことでしょう。実際、最初は、お医者さんの言ったことを信じないという親御さんだってたくさんいらっしゃいます。受け止めていくのには時間がかかるものです。魔法のように一瞬でなされるものではありません。でも、悲しみと怒りを癒すことからはじめていけば、事実を受け止めねばならないのだと思っていかれることでしょう。お子さんの状態も、そして自分自身の気持ちも。

 

 多くの親御さんのように、最初は皆さんも、自分の子どもは病気なのだと不安に思われるかもしれません。もし病気なら、お医者さんは子どもを全力で助けてくれるでしょう。でも、その次に(ひそかに)思われるのは、子どもには普通に育ってもらいたいということかもしれません。これについては、私たちは、たくさんの経験からお伝えしたいと思います。皆さんがお子さんを受け止めることで、お子さんは自分を普通だと感じるようになるのだ、と。それにはまず、皆さんが自分自身の状況を受け止められるようにしていかねばなりません。それには時間がかかるでしょう。皆さんは、お子さんが性分化疾患を持って生まれてほしいと、別に願ったわけではないのですから。

 

 DSDを持つ子どもの親御さんの多くは、DSDのことを知ったとき、喪失感を感じられたとお話しされます。自分が望んでいた子ども(つまり、DSDではない子どもです)を失ってしまったように感じられるからです。この気持ちは、ダウン症候群や口唇口蓋裂などなんらかの障害を持って生まれた子どもを持つ親御さんが感じられる気持ちでもあります。赤ちゃんが生まれた直後にDSDが診断された場合は特に、「望みの」子どもを失ったという深い悲しみを感じられていらっしゃるかもしれません。

 

 この深い悲しみの中にはどのようなものがあるでしょう。「悲哀の5段階」という話を聞いたことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。「悲哀の5段階」とは、事実の否認、怒り、これ以上ひどいことが起きないようにと願い、何かにすがる取り引き、抑うつ、そして状況の受容です。自分は今この段階にいると思われたかもしれません。でも悲哀は人それぞれです。皆さんのような状況で親御さんが感じられる気持ちは、他には、ショック、不信感、心配、恐れ、もっと知りたいという思い、困惑、混乱、そして寄る辺なさというものもあるでしょう。親御さんの中には、この状況に、食欲をなくしたり、眠れなかったり、頭痛やお腹の不調、疲れやすいなどといった身体的な反応を起こされる方もいらっしゃいます。こういう間は夫婦で何度も深く話し合うことがとても重要なのですが、ふたりで話をするのが難しくなるという方もいらっしゃいます。

 

 もともと性について話しあうというのはとても難しいことだと思います。子どもの体の性の成長について話すときは特に。でも、多くの親御さんは、自分の体験や子どものDSDについて話すことでとても癒されたとお話されています。 皆さんは、お子さんのDSDについて、話しにくかったり、困惑されていらっしゃるかもしれません。そういう感情が引き起こす気持ちもあります。親御さんの中には、自分の子どもに否定的な感情(言いにくさや困惑)を感じることに、一番の罪悪感を持ったとお話される方がいらっしゃいました。皆さんも、こういう親御さんのように、否定的な感情を打ち消すことができないことを恐れていらっしゃるかもしれません。でも、皆さんが今体験されていることをことばにしようとすることはとても大切です。つらい状況を、ひとりで過ごさずにすむのですから。

言いにくさを乗り越えていくために、それについて話しましょう。

 言いにくさや困惑という感情に向かい合い、気持ちを表していくには、今の時点では時間をかけることが大切です。大抵そういうものです。ご自身が感じていらっしゃること、そしてなぜそう感じているのか、考えるようにしてみてください。お子さんのDSDについて、言いにくさや困惑を感じるからといって、悪い親だということにはなりません。

 

 でも、ずっと言いにくさや困惑を感じているだけでは何も始まりません。DSDを持つ多くの人々やその親御さんからよくお聞きしたのは、言いにくさと困惑の状態のままでいると、子どもも皆さんも、大きなストレスと苦痛にさらされたままになるということです。ではどうすればいいのでしょう。こういう気持ちを今すぐ永遠に、魔法のように消し去ろうとは思わないでください。その代わりに、このハンドブックを読んで、今起こっていることを理解して、自分を責める必要がないこと、自分がひとりではないことを知っていただきたいと思います。そして、信頼できる人(お医者さんや家族、友達、サポートグループ)とコミュニケーションをとるようにしてください。そうすれば、皆さんご自身やお子さんが、誠実な支援を受けていく力強い状況を作ることができるでしょう。愛情と誠実さを育み、信頼できる人と話し合うことができれば、今この人生で直面している状況に、皆さんとお子さんが立ち向かっていく助けになっていくはずです。

 少しずつこの状況を受け止めていく過程で、自分の子どもだけでなく、同じような状況にいる人を助けていくと、自分自身が本当に心強く感じる瞬間にお気づきになることもあると思います。これは多くの親御さんも感じてこられたことです。ある時には、ふと自分が心細くなっていることにお気づきになることもあるでしょう。こういう心強さと心細さを繰り返し経験していくのは当然のことです。DSDを持つ子どもの親であるということは、そういうことでもあり、それは十分理解できることですし、あたりまえのことでもあるのです。

 

 時間はかかったけど、いつの間にか自分の状況が受け止められて、対処できるようになっていった。DSDを持つ子どもの、本当に多くの親御さんが私たちにそうおっしゃってきました。この子と人生を共に歩むことで、少し特別な愛情と喜びを見つけることができた、と。と言っても、何も一日で、こういうふうになるわけではありません。それは他の親御さんも同じことです。子どもを持つことで起きる気持ちに、単純な解決法はありません。それは、DSDを持つ子どもを持つ場合でも同じなのです。ここではとにかく、イライラしたり混乱したり悲しくなったり怒りがわいてきたりする日々があるのと同じように、大きな喜びと平穏で素晴らしい日々もあるのだということを、知っておいていただきたいと思います。

サポートグループミーティング
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自分自身を支えることが、お子さんを支えることになります。

 皆さんは、自分の子どもを守りたいと思ってらっしゃるのではないでしょうか?もしそうじゃないのなら、このハンドブックは読んでらっしゃらないでしょうね。お子さんがDSDに直面するとき、多くの親御さんは、子どもを守りたい!ととても強く思われるものです。どうすれば助けられるのか?と。

 

 この章で皆さんにお伝えしたいことのひとつは、(このハンドブックではずっとそのメッセージをお伝えしています)、子どもを守るには、まず、皆さんご自身が、DSDを持つ子どもを持ったということによって、気持ちが揺れ動いているということに気づくことが大切だ、ということです。こういう時に自分の気持ちや、自分が必要とすることを考えるなんて、自己中心的なんじゃないか、わがままなんじゃないかと、もしかしたら感じられるかもしれません。でも、自分自身のことを考えることで、皆さんがお子さんを支える力にもなっていくのです。

 

 自分自身の気持ちや体験について考えることには、もうひとつ大事な理由があります。もし皆さんが自分自身の必要とすることについて考えないと、子どもが必要とすることでなく、親御さんが必要とすることを基準に、子どものことを決めてしまうという間違いを犯す可能性があるからです。たとえば、子どもを守りたいという思いの中で、皆さんは、元に戻すことができない、大きな医学的決断をしなければならないとお考えになるかもしれません。DSDを持っているということでいじめられるかもしれないという可能性から、お子さんを守るために、と。でも、落ち着いてゆっくり考えてみれば、お子さんの本当の望みを知る前に、お子さんのためにと、今すぐそんな大きな決断をして、もしかしたら将来、息子さんや娘さんがそのことを非難するかもしれない、そういう可能性があるということにお気づきになるでしょう。たとえば、落ち着いて考えるなら、自分は本当はできるだけDSDを追い払ってしまいたいのだと、お気づきになるかもしれません。皆さんはDSDによって、重圧を受け、お子さんのことが心配になっているのですから。でも、医学が勧めてくるいろいろな処置を、性急に行わずに待ってみる、その方がお子さんにとってはベストであるということもあるのです。皆さんが待つことで、お子さんには自分で決断する機会が与えられます。待つということは、皆さんとお子さんが、勧められる治療がいかに良い効果があるのか、もっと情報を得られるということも意味します。そして、待つということで、皆さんは子どもをありのままに受け止めているし、自分の身体のことを自分で決めていく子どもの決断力を自分たちは尊重しているのだという、お子さんへのメッセージにもなるのです。

 

 でも、まずは何よりも、お父さん、お母さんがご自身のことをいたわるのが先決でしょう。お子さんを支えていくには、強力なサポートシステムが鍵になります。DSDを持つ子どもの親御さんたちは、同じような体験をしている他の親御さんと繋がれたことがとても支えになったとおっしゃっています。ちゃんとしたサポートシステムがあれば、いろいろとたくさん知ることができますし、気分も楽になるでしょう。お子さんが成長していけば、息子さんや娘さんの支えにもなっていくはずです。

 

 お子さん自身も、皆さんと同じように、自分がDSDを持っているということに、深い悲しみを感じるということがあるかもしれません。まだ幼い間の子どもは、悲しくて苦痛を感じると、日常のいつもの行動で気を紛らわすことが多いようです。子どもの深い悲しみはそれほど長くは続かないかもしれませんが、とても激しいものになりえます。子どもは遊びを通して自分の悲しみをあらわします。たとえば、病院に行かなきゃならないことが不安になると、就学前の子どもなら、とても激しくクレヨンで殴り書きをしたりするかもしれません。不安になれば、6歳ぐらいでも、また指しゃぶりがはじまることもあります。子どもは常に自分が取り扱える分の悲しみしか処理できませんし、自分の悲しい気持ちを間接的な方法で伝えるということもあります。また、悲しさを感じても大丈夫になるまで、その気持ちを自分から切り離しておくこともあるでしょう。

 

 皆さん自身がご自分の気持ちを乗り越えていけば、お子さんは皆さんの姿を見て、皆さんから学んでいくことでしょう。子どもは皆さんからその方法を身につけていくのです。子どものそのときの感情は皆さんのそれと同じものである時もあれば、違う時もあるでしょう。大事なのは、皆さんが愛情を持って、子どもの体験を尊重し、理解し、受け止めていくことなのです。親もひとりの人間であり、自分もまたひとりの人間なのだと子どもたちが理解するのは大事なことです。お子さんたちは、皆さん以上に、思うままに感じたり動いたりできるとは限りません。でも、子どもの声に耳を傾け、子どもに寄り添って、子どもの感情を受け止めることで、皆さんはお子さんに理解と愛情を教えていけるのです。

 

 皆さんは、息子さんや娘さんとお話をすることや、安心して自分の気持ちを感じることができる親子関係を作り上げることで、お子さんが自分の悲しみを少しずつ乗り越えていく手助けをすることができます。お子さんが嫌な思いをするのは、皆さんには忍びないことでもあるでしょう。でも、お子さんの気持ちから逃げたり、お子さんの気持ちを別のところにそらせたり、ただ単に「大丈夫!大丈夫!」と言うことで、子どもの気持ちを消し去ってしまおうとするのは間違いです。それがどのようなものであれ、息子さんや娘さんが自分の気持ちをありのままに感じてもらうようにすること、どんな気持ちでも話したり表現したりしてもらうようにすることは、本当に大事なことなのです。お子さんには、皆さんのじっと待つ時間、配慮、サポート、正直さ、何でも表現できる開かれた態度、そして気持ちの受け止めが必要です。お子さんは自分自身の気持ちを乗り越えていく必要があるのです。

 

隠し事は打ち明けにくさにつながり、正直さは受容につながります。

 このような状況の中で育ってきた人たちに、どうすればこの状況を乗り越えていけるのか、その秘訣を聞いてみたいと思いませんか?それはこうです。「お子さんのために皆さんができる最善のこと、それは息子さんや娘さんのDSDについて、彼らに対して開かれた正直な態度でいること」です。皆さんが隠し事のない態度でいれば、お子さんは自分のことを恥ずかしがることはないのだと分かるようになりますし、お子さんが自分自身で生きていく中で、親はちゃんと真実を伝えてくれる、信頼できる人なのだということを分かってもらえるようにもなるのです。

 

 悲しいことに、多くの人々がこの教訓を学ぶにはたいへんな苦労がありました。最近まで医師やDSDを持つ子どもの親御さんたちは、子どもが大人になっても、本当のことは隠し通して誤魔化した情報しか与えないようにするというのが普通だったのです。ご両親や医師たちは、何も子どもを傷つけようとしてそうしたのではありません。むしろ逆に彼らは、子どもを守ろうと嘘をつき続けたのです。でもこれは思わぬ害を生み出してしまいました。そのような状況の中で育った子どもたちは、後に、親や医師に裏切られたと感じたり、自分のことを嫌なものだと感じる気持ちに圧倒されたり、医療ケアや家族の愛情を、それが必要なときでさえ求めることを恐れるようになることが多かったのです。

 

 DSDについて本当のことを話すという課題は、養子縁組をした子どもに本当のことを話すということと同じ面があるでしょう。昔は養子縁組をした子どもには、そのことは秘密にしておくというのが一般的でした。しかし、20世紀の終わりまでには、自分自身のルーツや自分個人の物語を知っておいたほうが、実際には子どもにはずっと健全だと多くの人が思うようになってきました。それと同じように、つい最近まで、DSDを持って生まれた赤ちゃんのご両親には、本当のことを秘密にしておくようにと言われることがありました。しかし今では、養子のことと同じように、DSDを持つ子ども(大人)も自分個人の物語を知り、自分自身は唯一無二なのだということを理解する方が良いと思われるようになってきています。

 

 もし皆さんが、ご自身の息子さんや娘さんに、身体の状態のことを隠しておきたいと思われていらっしゃるなら、それはうまくいかないことが多いということは知っておいてください。たいていの場合、どんな小さな子どもでも、家族の秘密には気がついてしまうものなのです。特にそれが家族の一員の秘密である場合には。また秘密というものは、家族での言い争いや、ちょっと口が滑ったというようなことで、突然明るみに出てしまうということもあります。本当のことがこのような状況で明るみに出てしまうのは、決していいことではないでしょう。こんなふうに明らかにならなくとも、DSDを持つ大人の方で、自分の身体について話をされなかった人たちは、自分のことで話しをされていないことが何かあるのだ、ということは感じていたとおっしゃっています。なぜいつもお医者さんのところに行くのか、なぜそこで自分の性器が検査されるのか?なぜみんな手術跡のことを聞くと、たちまち様子がおかしくなるのか?自分の身体の状態について話をされてこなかった、今は大人になっているDSDを持つ人たちは、このような疑念を持つことで、むしろ、本当のことを知るためにはどんなことでもするというようなことになり、時には、本当のことが分からないことで、実際の事実よりももっと恐ろしいことを想像したということもありました。

 

 秘密にするということがもたらす害は、ひとつには、それほど簡単に秘密のままにはできないということ、そしてもうひとつには、話してはならないような何か悪いこと、脅かされるようなことが存在するのだということを、意図せず逆に伝えてしまうということです。隠したり嘘をついたりすることで、むしろ不安が大きくなり、更に萎縮せざるを得なくていってしまうのです。隠し事があって話がしにくい状況の中で育ったDSDを持つ人たちは、自分には化け物のような何かがあるのだというメッセージを何かの拍子で受け取っていました。このような人たちの多くは、両親からも医師からも嘘をつかれていました。その結果、そういう人たちの中には、両親にも、医者にも、そして人というもの全体に対しても、どんな信頼もすぐにはできなくなってしまったという人もいました。

 

 自分の身体について何も話されてこなかった人たちの多くは、混乱と圧迫、萎縮に加えて、深い孤立を感じ、それは、誰も信頼できないという思いによって、更に強いものとなってしまいました。彼らは、こういう身体を持っているのは世界で自分だけなのだと、孤独を感じていたのです。これが、秘密と打ち明けにくさの「副作用」のひとつです。秘密と打ち明けにくさは、私たちが一人ひとり異なっているのだという理解を妨げ、少しでも違っている人たちを孤立させてしまうのです。

 

 こういう悪循環は断ち切られるべきでしょう。ありがたいことに今では、DSDを持つ人やその家族が、萎縮や混乱、孤独や秘密に流される必要がなくなってきています。サポートグループや患者支援グループ、情報サポートネットワークに、個々の状態に応じた様々な団体がたくさんできてきて、性分化疾患を持つ人がお互いに出会い、ひとりではないのだということを実感する機会ができるようになっていますし、サポートグループによる啓蒙活動によって、多くの人たちが、性分化疾患とその状態を持つ人たちについて理解するようになってきています。

 

 さて、ここでの結論です。皆さんがお子さんに対して、DSDのことについてオープンで正直な態度でいれば、皆さんが、子どもである自分のことを受け入れ、愛し、尊重してくれているのだ、そして自分のことを、自分の親であることを何も恥じていないのだ、そういうメッセージをお子さんに伝えることになります。皆さんの愛情と受け止めが、お子さんに最良のものをもたらしてくれるのです。

パン作り体験
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第1章のまとめ
  • あなたはひとりじゃありません!

 

  • こういう状況では、感情の波が激しくなるのは当然です。

 

  • 自分の気持ちには、自分に対しても他の人に対しても正直でいましょう。

 

  • 信頼できる友達、家族、医療関係者、サポートグループの支援を受けて当然の状況ですし、ぜひそうしましょう。

 

  • 長年にかけて、お子さんは自分の状況について皆さんとは違うように感じていくかもしれません。

 

  • お子さんは、皆さんがお子さんをそのままに受け止めることを必要としています。年齢に応じて、オープンで正直でいることも。このハンドブックは、それをどうしていけばいいのか、皆さんの役に立つように作ってあります。