
第4章
よくある質問
この章でご紹介するのは、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)を持つ子どもの親御さんからよくお聞きする質問と、それに対する返事です。ここでまとめた以外の疑問については、ハンドブックの他の章で触れているかもしれませんので、そのよう場合は各章を調べてみてください。
ここでご紹介しているハンドブックはアメリカで作成されたものです。欧米と日本とでは文化差や、子どもの発達・成熟には大きな違いがあります。また、性分化疾患は、同じ診断のつく体の状態でも個々に状態像は異なり、全てに当てはまる100%の方法というものはありません。ですので、ここに書いてあることが必ずしも正解ということにはなりません。欧米でも指摘されていますが、最も大切なのはお子さん個々の理解力の発達やご家族の状況です。話すか話さないかということも含めて、その答えはそれぞれのご家庭によって異なります。お子さんの体の状態・発達や、精神的な成長について、担当のお医者さんや児童精神科医、臨床心理士などとよく話し合った上で、ご家族それぞれの方針を立てて行っていただければと思います。

子どもの性の発達についての質問
Q:私の娘にはピンクの服を着せるべきですか? 私の息子には青い服を着せるべきですか?
A: 親御さんの多くがそうしているように思われるかもしれませんが、無理をしてまで、娘さんにピンクの服を着せたり、息子さんに青い服を着せたりすることは全く必要ありません。それに、女の子にはピンク、男の子には青といったことに、わざわざ無理に反抗する必要もありません。子どもに何を着せるか、人形を渡すのかトラックのおもちゃを渡すのかは、娘さん・息子さんの性別とは関係ありません。ですので、皆さんがお子さんに似合うと思う服を着せてあげればいいのです。
DSDを持つ子どもの親御さんのなかには、お子さんの性自認が生まれた時に判定されたの性別と違うことにならないようにと、娘さんが青い服を好んだり、男の子向きの番組を見たりすると(もしくは息子さんがピンクの服を好んだり、女の子向きの番組を見たりすると)、それを止めたくなる方もいらっしゃいます。そういう不安は理解ができるものですが、お子さんが好むことや、皆さんが与える服やおもちゃは、お子さんの生まれた時に判定された性別とはあまり関係しないか、もしくは全く関係しません。
基本的には、皆さんが他の男の子や女の子に接するのと同じように、自分のお子さんに接するべきです。お子さんが食べたいと思うものをあげたり、興味を持つことをサポートしてあげてください。DSDとは関係なく、女の子がトラックのおもちゃで遊びたがったり、男の子が人形で遊びたがったりするということは普通にあります。お子さんが過去に生まれた時の性別には合わないようなことに夢中になっていたからといって、判定された性別をお子さんが拒否することになるとは限らないのです。(性別に合わない行動をしたからといって、皆さんやお子さんが病気だったり変になったりするわけではありませんよね)。
お子さんが、生まれた時の性別は正しくないと思うようになることが(そういうことは稀なのですが)あるかもしれません。DSDsを持つ人々(そしてそうでない人々も)の中には、自分の性別を変えたいと思う人もいますし、更に、自分の身体の性別を手術やホルモン療法で変えたいと思う人もいます。でも、DSDsを持つ人々の大多数は生まれた時の性別に合ったまま生きて生活していらっしゃいます。
お子さんの性別を保証する責任を、皆さんひとりで背負わないでください。お子さんが特定の性別にフィットするよう「無理に努力する」ことが、みなさんのやるべきことではありません。お子さんは、自分自身にとって正しいことを表現していかれるのですから。
Q:「男らしさ・女らしさ」と体の性の発達はどのように違うのですか? トランスジェンダーの人々の「性自認」とDSDsのはどのように異なるのですか?
A: 第2章の「お子さんの成長と、子どもにどのように話をしていくか」の最初のほうをご覧ください。これらの用語の説明をしています。中には、DSDsの「体の性の発達」と、トランスジェンダーの皆さんの「性自認の不一致」を混同している人もいますが、DSDsとトランスジェンダーの皆さんとは全く異なるものです。
Q:私の子どもは同性愛者になるのでしょうか?
A: なぜある人が同性の人を好きになり、ある人は異性の人を好きになり、ある人は両方を好きになるのか、その理由は分かりません。けれども、誰も自分の性的指向を変えられないということだけは分かっています。そして、性的指向にかかわらず、誰もが幸せで充実した人生を送れるということも。皆さんのお子さんは、いつまでもあなたのお子さんですし、私たちは、皆さんがいつもお子さんを愛し、支えていかれることを望んでいます。もし息子さんや娘さんが同じ性別の人を好きだということが分かった場合、私たちが生きる社会に存在する偏見に対して、皆さんの愛情と理解、支えがより一層重要になってきます。
お子さんがDSDを持っているからといって、すぐさま、息子さんや娘さんが同じ性別の人を好きになるというわけではありません。研究者の中には、DSDsのあるタイプでは、同性の人を好きになる傾向があると考えている人もいますが、現実的には、どんな子どもであれ、その子の性的指向をはっきりと予想することはできないのです。
同性の人を好きになる人々の大多数は、かなり初期から、自分は同性の人が好きだということに気がついていたということを知っておくのは役に立つでしょう。そういう人のほとんどは、自分の親(あるいは別の大人)が、自分を同性が好きに「なるようにしたのだ」なんて考えません。親が仕向けていけば、子どもは特定の性的指向を持つようになるなんて思っている人もいますが、私たちは、男の子に人形を与えれば同性の人を好きに「なるように」できるとか、ましてや、男の子に無理やりフットボールをさせれば、そのまま異性の人を好きに「なるように」できるとは思えません。
事実、たいへん多くの科学的研究が、同性を好きになる人と異性を好きになる人の間に、なにか育て方の違いを見つけようとしましたが、何も見つからないままに終わっています。そして、とても重要なことなのですが、たとえ、その人が宗教的理由や家族から受け入れられないという理由から、自分の愛情が向かう方向を「変えたい」と思ったとしても、どんな治療も、どんな無理強いも、性的指向を変えることはできないということが、研究で示唆されています。私たちは、性的指向を変える目的で行われた治療によって心を損なわれた人々を知っています。彼らは、自分が同性の人を好きになるということで家族から受け入れられないという思いに一番傷ついているのです。
更に、同性の人を好きになる人々には、自分の愛情に正直であることで家族から非難されて、傷つき、家族から遠ざけられたように感じた人もいるということを、私たちは知っています。こうなると、子どもにも親子関係にもたくさんの問題を抱えることになります。自分の親に満たされないものを感じる幼い子どもや十代の子どもは、その満たされなさを「埋めあわせする」ために自分自身を傷つけるようなことをすることがありますし、後に親に怒りを持つようになるかもしれません。同性の人を好きになる人々は、家族からの拒絶を恐れていたり、恥ずかしくて家族に打ち明けられない人が多いということも私たちは知っています。そういう人達は、家族からも自分自身からも遠ざかってしまうか、家族から、自分の大事な愛情を持った関係を隠すことになるかもしれません。(もし皆さんが、10代や若者の時、自分のボーイフレンドやガールフレンドのことや、付き合っていく喜びや問題、婚約・結婚のことを、両親や家族、友達に何も話せないとしたら、どう思われますか?)
DSDを持つ人の中には、自分が同性の人を好きになるからダメなのだという理由だけで、治療(性ホルモン注射や性器の手術)を受けようとされる方が時々いらっしゃいます。似たようやことでは、自分が同性の人を好きになるということを両親に「埋め合わせ」しようと、学校の様々なこと(スポーツや進級など)で一番を取ろうとがんばりすぎるという人もいます。彼らは、そうすることで、自分の両親との関係をいいものにしたいと願っているのです。
もし、お子さんが同じ性別の人が好きだと分かった場合、息子さんや娘さんが同じ性別の人を好きになる理由を探そうとするのではなく、ただそれを受け入れてあげるのが一番大事だと私たちは思います。私たちは、自分が完全に受け入れられないことには、何かの説明を求めがちです。何かの説明を求めるのは、何か、誰かの責任にしたいという思いからであることがよくあります。変えようがないこと、誰も選びようがないことで、皆さんご自身やお子さんを責めることは、ただただ深い傷を与えてしまうだけになってしまいます。
異性の人を愛する人と同じように、同性の人を好きになる人も、健やかで、愛し愛される人になることができます。専門の分野や社会的に成功していくこともできます。親になることも(普通の子育てや養子縁組を通じてそうされることがあるのです)。お子さんが同じ性別の人を好きになろうとなるまいと、息子さんや娘さんは、生涯を共にするあなたのお子さんなのです。子どもの愛情が向かう方向に関係なく、お子さんを受け入れていくことは、親子の愛情関係を傷つけないことを意味します。お子さんが同じ性別の人を好きになることを受け入れるのは、たやすいことではないことがあると、私たちは知っています。でも、もしお子さんが同じ性別の人が好きであっても、皆さんの他のお子さんと同じように、息子さんや娘さんを、受け入れ、愛してあげていただきたいのです。
Q:もし子どもが、判定された性別とは違うと言った場合はどうすればいいのですか?
A: ほとんど全ての子どもは、男の子でも人形遊びをしたり、女の子でもサッカーをしたりなど、昔で言う「男らしさ・女らしさ」とは違うものごとに興味を持つことがあります。DSDを持つ女の子の中には、そのような傾向が平均よりも高い女の子もいます。そしてDSDを持つ子どもの親御さんは、ご自身のお子さんの人とは少し違った体の成長のありようを先に知っているために、そのようなことに気がつきやすくなっているということもあります。
DSDを持つ子どもは、男の子でたとえ女の子っぽく見えるように振舞っていても、女の子で男の子っぽく見えるように振舞っていても、生まれた時に判定された性別のままの方が大多数です。トランスジェンダーの皆さんのような性自認の不一致が起きているわけではありません(「男らしさ・女らしさ」とトランスジェンダーの皆さんの「性自認の不一致」とは全く別の話です)。お子さんがそういう振る舞いをするからと言って、息子さんや娘さんが間違った性別だったということにはならないのです。このことについては、第2章をご覧ください。
稀ではありますが時に、息子さんや娘さんが、生まれた時の性別とは違う性自認を一貫して主張することがあります。もしこのようなことが起きたら、たいていの場合かなりはっきりしたものになるはずです。子どもはかなり強い調子で「僕は男の子なんだよ!」「私は女の子なの!」と言ったりするかもしれませんし、自分が呼ばれたいと思う新しい名前を言ったりしてきます。間違って決められたと感じている子どもは、理解されてないと感じていたり、混乱しているのでしょう。
もしお子さんのが生まれた時の性別と性自認が違うと感じるということがある場合は、担当のお医者さんに、性自認の問題についての子ども支援が専門の児童心理学者や児童精神科医を紹介してもらいましょう。そして皆さんの疑問・関心を専門家と話し合い、どうすればお子さんを支えていけるか考えていってください。子どもはたぶん今判定されている性別じゃないのではとお考えの場合は、たとえ遠方でも、この領域の経験豊富な専門医の元で性別の再決定を行うようにしてください。
そういうお子さんは、やっと自分の感じていることと周りが思っていることとが合致したと感じますので、性別を変えることで安心感を得ることが多いのですが、親御さんはお子さんの性別の変更にストレスに感じられることが多いようです。これは、親御さんのアイデンティティも同時に変化するからです。社会的性別がまだはっきりしなかったり、訂正したりするお子さんを支えていく親御さんは特に、同じ疾患を持つ子どもの親御さんや、そのような方が集まるサポートグループ、メンタルヘルスの専門家にを探して、ご自身の不安を鎮められるようにしていって下さい。大事なことなのでよく覚えておいてください。お子さんと同じように、皆さんもサポートとケアを受けていいのです!
