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試験当日
第5章
資料集

 この章では、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)を持つお子さんの親として、皆さんに役立つ資料をお送りします。お子さんのDSDのことや、ご家族皆さんの経験を他の人に話す時、この章をコピーして病院やお子さんの学校、ご親戚などに話す時などにご利用いただければと思います。

ここでご紹介しているハンドブックはアメリカで作成されたものです。欧米と日本とでは文化差や、子どもの発達・成熟には大きな違いがあります。また、性分化疾患は、同じ診断のつく体の状態でも個々に状態像は異なり、全てに当てはまる100%の方法というものはありません。ですので、ここに書いてあることが必ずしも正解ということにはなりません。欧米でも指摘されていますが、最も大切なのはお子さん個々の理解力の発達やご家族の状況です。話すか話さないかということも含めて、その答えはそれぞれのご家庭によって異なります。お子さんの体の状態・発達や、精神的な成長について、担当のお医者さんや児童精神科医、臨床心理士などとよく話し合った上で、ご家族それぞれの方針を立てて行っていただければと思います。

Classmates
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)について

DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とは何ですか?

 

 私たちが人の「性別」について話す時、通常私たちは生物学的(身体的)観点からその人が男性か女性かということを話しています。皆さんの「性別」を構成するものには、「X・Y染色体(性染色体)」(詳しくは少し後でお話します)、「X・Y染色体」以外の染色体上のいくつかの遺伝子。それに卵巣もしくは精巣などの性腺。女性の膣や子宮などの内性器。クリトリスやペニス、尿道など外性器など、性に関わる体の器官などがあります。性ホルモンも皆さんの性別を形作るもうひとつの要素です。性ホルモンは皆さんの体の血液の中を流れる科学物質でできたメッセンジャーです。(代表的な性ホルモンにはテストステロンやエストロゲンがあります)。性ホルモンは皆さんのからだが性的に成長するのに役立ちます。たとえば、皆さんが生まれる前、性ホルモンは皆さんの性器が発達するのに関わりますし、思春期には子どもの体から大人の男性もしくは女性の体に変化していくのに関わってくるのです。

 

 私たちが母親のお腹の中に宿る時から死ぬ時まで、私たちの体の性は発達の多くのステップを踏んでいくことになります。たとえば思春期、皆さんは性的に成熟し、子どもの体から、性的に成熟した男性もしくは女性の体へと発達していきます。しかし、思春期は、更年期と同じように、明らかな体の性の発達の段階のひとつに過ぎません。通常ははっきりと見た目にはわかりませんが、実は思春期以外にも、もっと多くの発達段階があるのです。体の性の発達は、まさに受胎の時からはじまり、子宮の中にいる時にもそれは続き、早期幼児期、青年期、成人期、老年期にも性発達の段階は続くのです。

 

 「性分化」とは、男の子や女の子、男性や女性が、男・女それぞれ異なる体の性の発達をしていくことを言います。たとえば受胎後数週間の間に、子宮の中では胎芽(訳者注:精子と卵子が受精して赤ちゃんになっていく最初の段階)が「性腺原基(原性腺)」を形成していきます。更に数週間後、この性腺原基(原性腺)は、一般的には精巣もしくは卵巣のどちらかひとつになっていきます。ですのでこれも体の発達のひとつの段階、つまり生まれるずっと前、性腺原基(原性腺)が卵巣か精巣に分化していく段階なのです。

 

 外性器(ペニスやクリトリス、陰嚢や陰唇など)は、人生の様々な段階で分化していきます。DSDを持つ女の子や男の子は、通常とは少し違った見た目の外性器を持っていることもあります。ただし、DSDsを持つ子どもたち全員が、通常とは違った見た目の外性器を持っているわけではありませんし、平均とは違った見た目の外性器を持っている人が皆、DSDsを持っているというわけではありません。(「標準」「平均」とは、統計上の真ん中でしかありません)。

 

 性分化の最初の段階は、まさに受精の時に起きていると言えます。卵子と精子はそれぞれ23本の染色体(遺伝子を入れた、たいへん小さな物質)を持っています。遺伝子とは、人間の体を作り上げる設計図のようなものです。他の染色体と同じく、通常は母親の卵子がX染色体をひとつ提供し、父親の精子がX染色体もしくはY染色体をひとつ提供します。ですので、性分化は受精段階から始まっていると言えるのです。もし胎芽がXXの組み合わせとなるなら、胎芽は女の子に成長していきますし、XYの組み合わせとなるなら、一般的には男の子に成長していきます。 体の発達は人生の中で大変多くの段階を踏んでいきます。ですので、ある男の子や女の子が一般的な男の子や女の子の平均とは違った発達をしていく機会は多くあるということになります。

 

 体の性の発達が通常とは少し違った経路を取った場合、その状態が「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)」と呼ばれることがあるのです。つまりDSDsとは、女の子や男の子の体の性の発達の様々なバリエーションについての名前なのです。簡単に言えば、「女性にも男性にもさまざまな体の状態がある」ということでしょう。

DSDsはどれくらいの頻度で起こるのですか?

 生まれた時に女の子か男の子かの性別判定にしかるべき検査が必要になる外性器の発達の赤ちゃんは、約5,000人に1人の割合で生まれると言われています(日本では合計で約24,000人の女性・男性。年間で約200人の赤ちゃんが性別判定検査を受けています)。「男でも女でもない赤ちゃんが生まれる」という誤解・偏見、差別がありますが、しかるべき検査の上で女の子か男の子かの判定が可能です。

 ですがDSDsが判明するのは思春期前後が最も多いとされています。そのほとんどは初潮が訪れない原発性無月経の女の子たちです。また、男性の不妊検査でも明らかになるということがあります。

 DSDsにはいくつかの体の状態がありますが、オランダやベルギーの国家機関の調査では、全体で約0.5%(200人に1人)の女性・男性になんらかのDSDがあるとされています。

DSDsには、たとえばどのようなものがありますか?

  • アンドロゲン不応症女性

  • スワイヤー症候群女性

  • リポイド過形成女性

  • SF1症女性

  • 部分型アンドロゲン不応症男性

  • 尿道下裂男性

  • デニス・ドラッシュ症候群男性

  • 5α還元酵素欠損症男性

  • XX男性

  • X・Y染色体モザイク女性・男性

  • 性腺形成不全女性・男性

  • XX染色体女性の先天性副腎皮質過形成(CAH)

  • ロキタンスキー症候群(MRKH)女性

  • クラインフェルター症候群(XXY)男性

  • XYY男性

  • XXYY男性

  • ターナー症候群(45,X)女性

  • XXX女性

 

これらは代表的なものであり、現在ではDSDsとされるものは約30種類ほどとされています。

 

DSDsのある人は同性愛者なのですか?

 

 いいえ、違います。DSDsを持っているということと性的指向は全く違うものです。もちろんDSDsを持って生まれた女性・男性にも同じ性別の人を愛する人もいれば、異性の人を愛する人もいれば、どちらも愛する人もいます。DSDを持って生まれた女性・男性の性的指向(訳者注:その人が、異性の人を愛するか、同性の人を愛するか、どちらの人も愛するかということ)は、DSDsを持って生まれなかった人々の性的指向と同じなのです。誰かの染色体や遺伝子、性器、あるいは体の性の変異から、その人の性的指向を予測したり決定したりすることはできません。人間というものはそういうものよりもずっと複雑な存在なのです!

DSDsのある人はトランスジェンダーや性同一性障害なのですか?

 いいえ、違います。DSDsを持っているということと、トランスジェンダーや性同一性障害の人々の「生まれの性別と性自認の不一致」とは全く違うものです。現実にDSDsを持つ女性・男性でトランスジェンダーや性同一性障害を抱える人はまれで,トランスジェンダーや性同一性障害を抱える人でなんらかのDSDsを抱える人もまれです。

 また、DSDsは「性自認」「性同一性」の話ではなく、あくまで「体の性の発達」の話です。DSDsを持つ女性・男性に「性自認は女性(男性)なんですね」と言ってしまう人もいますが、これは「DSDsの人は(十分な)男でも女でもない体の人なので性自認が一致していない」という差別的な誤解や偏見からくるものです。たとえば、がんで子宮を失った女性に「性自認は女性ですよ」と言うことは、「あなたは子宮を失ってもう女性とは言えないけれども自分を女性だと思っているから女性だと認めます」と言っていることと同じだとお考えください。

 

 トランスジェンダーのみなさんにとって「性自認」「性同一性」という概念は大切なものですが、DSDsを持つ女性・男性に「性自認」「性同一性」という概念を安易に当てはめることは、当事者や家族のみなさんの心を深く傷つけるのです。

DSDsを持つ人々とLGBTQなど性的マイノリティの人々との関係

 

どうすれば支援ができますか?

 

 DSDsを持つ女性・男性に対して、人々が否定的な反応をすることもあるでしょうし、逆に妙に興味を持って接しようとする人もいます。そういう反応が起こるのは、DSDsのことをちゃんと正確に理解していなかったり、DSDsのことが自分の考えを揺るがす(もしくは、他の人の考えを揺るがすことができる)と思われるからでしょう。皆さんができることは、その人がDSDを持っているからといって、その人(彼、もしくは彼女の家族)を、他の人と違った人として見ないことです。つまり、その人のことを体のことだけで見ないことです。金銭面での支援をお望みなら、DSDsを持つ人々とその家族を支援する団体にお願いします。

お父さんと娘
子育てで気をつけること

 まず、親御さん自身が無理はしないでください。飛行機のフライトアテンダントが「緊急時には、子どもよりも前にまず親御さんが酸素マスクを装着してください」と言うのと同じです。まずは親御さんご自身のこころの状態を気遣ってください。臨床心理士を探すのもいいですし、患者会などのピアサポートにつながるのもいいでしょう。自分自身のことを考える時間を数時間取るために、友達や親戚の方にお子さんを少し預けるだけというのでもいいです。お子さんと同じように、皆さんも自身のことも気遣っていっていいのです。

 

 

  • 息子さんや娘さんのDSDについてのお子さんの疑問には、すべて答えるようにしてください。正直に簡単に答えてあげてください。もし分からないことがあれば、担当のお医者さんに質問してください。

  • お子さんや、近い親戚の方、信頼できるご友人には正直に話をするようにしてください。本当のことや皆さんのお気持ちを閉じたところに閉じ込めておいても良いことはありません。それと同時にお子さん自身のプライバシーを尊重することも重要です。

 

  • 息子さんや娘さんが「今は言わないで」「あの人には言わないで」と頼むことがあれば、それを大切に尊重してください。

 

  • お子さんに、お子さんのDSDのことを話すのは、息子さんや娘さんの希望に応じてにしてください。嫌がっているところを無理やり話す必要はありません。

  • お子さんのDSDのことを、お子さんと自由に話せる時間を作るようにしてください。もし可能なら、お子さんがDSDのことを熟知し、経験のあるメンタルヘルスの専門家(臨床心理士や精神科医など)と話ができる機会を時々作ってあげてください。

  • DSDを持った他の子どもたち・成人のみなさんと出会える機会を作ってあげてください。サポートグループは、日本でもいくつか体の状態ごとに活動されているグループがあります。

  • 息子さんや娘さんのDSDの医療履歴については、どんなことも誤魔化したり嘘をつかないようにしてください。

  • お子さんの性別とは逆の行動や振る舞いがあっても(女の子がサッカーをしたり、男の子が人形遊びをしたりなど)、それを注意したり止めたりしないでください。逆に混乱の原因になります。

 

  • もし息子さんや娘さんが誰かに嫌なことを言われたりされたりすることがあるようなら、必ず皆さんに相談するよう伝えておいてあげてください。

  • お子さんの外性器や他の体の状態に対して「異常」という言葉は使わないでください。

  • お子さんに無理やり頻繁にDSDの話を強要することはしないでください。この問題について話せる安全な時間・空間(病院や患者会など)が与えられている時でもです。お子さんが話をしたくないと思う時にもずっとこの話ばかり取り上げるのは、逆に問題をこじれさせます。

 

  • お子さんの成長に応じて、息子さんや娘さんの持っているDSDについて、学んでいけるよう励ましてあげてください。

  

ドクターハイファイブ
病院に行く前の準備

 第3章「周りの人にはどう話すか?」では、お子さんの医療担当者とどのように話をするか詳しくお伝えしました。ここでは病院に行く前の準備を短くまとめます。

 

  1. お子さんには事前に病院のことを話して、こころの準備をしてもらうようにしましょう。息子さんや娘さんに、病院でどのようなことをするのか、なぜお医者さんに息子さんや娘さんのことを話すのか教えてあげてください。病院に行くことについて、息子さんや娘さんに何か疑問があるかどうか訊ねてあげてください。

  2. お医者さんに話したいこと・訊いてみたいことを事前にリストアップしておきましょう。リストアップする時は部屋に置き忘れることなどもあるかもしれませんので、メモなどの紙ではなく専用のノートを作ってください。

 

 次に、担当のお医者さんに訊く質問リストを短くまとめたものです。事前の質問リストにいくつか加えてみてください。

 

  1. この子の正確な診断名を知りたいんです。できれば書いていただいて、もっと勉強できる本や情報源があれば教えてほしんです。もしまだ分からないなら、どういう診断名だと今お考えか教えていただけますか?

  2. この子の医療記録と検査の結果のコピーを全部いただきたいのですが、お願いできますか?

  3. (お子さんを見に来る医療スタッフがたくさんいるようであれば、こう訊ねてください)子どもをちゃんと見る必要のある担当の人は誰ですか? できれば出入りする人は少なくしてもらいたいんです。

  4. 同じような状況の他の親御さんに私の名前と電話番号を伝えてもらえませんか? それで、電話がほしいと言ってたと伝えてほしいんです。同じような体の状態の人で、大人の人や年上の子どもさんの親御さんと話をしてみたいんです。そうすれば、これから大丈夫だ・やっていけるって思えると思うんです。

  5. DSDsについて詳しいカウンセラーさんや精神科医さんを紹介してもらえませんか? すごく混乱していて(怖さや混乱、罪悪感、喜び、どうすればいいのかという思いなどが入り混じった)この気持ちを一緒に整理してくれる人にいてほしいんです。そうすれば、DSDのある子どもが成長していく時に起きるかもしれないことを勉強できますし。

  6. 子どもにはなにか緊急の医学的問題はありますか? もしそうなら、どんなものなのか、どういう治療選択肢があるのでしょうか? 今何もしないとどういう危険がありますか?

  7. この子の性別は(男の子か女の子)どちらですか? 理由も教えていただければありがたいです。

  8. (もしお医者さんがお子さんの性器の見た目を変えるような性器手術を勧めてこられた場合は)、子どもの性器を手術で変える必要があるという理由はどんなものなんですか? 手術をすることで長期的にこの子を支えられるというエヴィデンスはありますか?

  9. 性器の外見を変える手術を受けるかどうか、子ども自身が決められるまで待つことはできますか?

  10. このような手術は先生は今まで何回経験されましたか? 結果として良かったこと悪かったこと、それぞれ何回ほどでしたか? 身体的なことだけでなく、精神的なことでも。

  11. (もしお医者さんが、緊急に必要のないホルモン療法を勧めてこられる場合は)、このホルモン療法は今必要ですか? 自分にとってそれがいい方法なのかどうか子どもが自分で決められるまで待つことはできますか? 今すぐやった方がいいのか、後の方がいいのか、それぞれのリスクや実証された利点はどんなものですか?

  12. この子と似たような状態の人で、先生が勧められる治療を受けてきた人と別の方法を取った人をご紹介いただくことはできませんか?

  13. (もし皆さんが感情に圧倒されていたり、ストレスに苦しまれているようなら)、専門のメンタルヘルスサポートを紹介してもらえませんか? 精神的に参っていて、誰かに支えてもらいたいんです。

  14. (もし皆さんがお気持ち的にも強くなって、お子さんのDSDについて十分に知識を身につけるようになったら、お医者さんに)、先生の患者の親御さんで、誰か同じ状況の人と話をしたいと言う人がいらっしゃるなら、私の名前を伝えてもらえませんか? 同じような状況にある親御さんの支援ができればと思うんです 。

  

グラスオン スパイラルノート
記録管理の仕方

記録管理のしかた

 

 文房具店に行って、ファイルボックスを買ってきましょう。そこに書類を保存しておくのです。次のような資料をもらう度に、ファイリングしておくと後で役に立ちます。

 

  • 医療履歴(検査結果やX線写真のコピーなど)

  • 病院に行った時に付けたメモ

  • お医者さんの名刺

  • お子さんのDSDについて書いた手紙(学校の先生に知ってもらっておきたいことを書いた手紙や、サポートグループで会った人との文通など)

  • お子さんのDSDについて、皆さんが見つけた情報後々お子さんにとって大切だと思った資料なんでも

 

 ファイルボックスには、病気など自分に何かがあった時、お子さんのためにこの資料を残してあるという手紙を置いておいてもいいでしょう。このファイルボックスは、お子さんが成長したら、お子さんにとっても大切なものになるはずです。

日記の付け方

 

 親御さんの多くが、その時その時に思ったこと、感じたことを、日記につけておくのが役立ったとおっしゃっています。 どんなことを書いておけばいいか、ヒントをのせておきます。

 

  • 今日学んだこと

  • それについて感じたこと、思ったこと

  • ずっと頭のなかに残っている疑問

  • 最近自分が感じていること、思っていること

  • 昔書いていたことを読み返して、今あらためて思うこと

  • 心配していること

  • 希望

  • 今日、子どもがしていたこと、話していたこと

  • 他の生活上の出来事

  • 今考える必要があること

 

 日記を付ける上で、無茶な目標は立てないでくださいね。書きたい時、書ける時だけでいいのです。

  

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