第7章:社会的サポートの体験




A.心理的ケア


成人当事者


 10人の体験専門者の内8人が,診断や不妊の状態を知らされる時,あるいは手術や他の治療法についての話し合いの時の心理的ケアについて話した。現時点では圧倒的大多数の体験専門者が,そういう専門的なガイダンスを肯定的なものとは語らなかった。その理由としては,その病院に性分化疾患を専門とする心理師がいなかったことや,心理師が妊娠していたために,子どもが欲しいという望みを話すのが難しかったことなどがあったが,専門とする心理師側のこのテーマ特有の知識が欠如していたこと(トランスジェンダーや性的指向と関連させるなどの誤った理解)や,成人当事者自身が抵抗して深い話にはならなかったということなどがあった。


「仕事の心配事とか日常のこととか…。話しやすい人だったのは本当確かです。でも,恥辱を乗り越えてまで核心の話をしようとは思えませんでした。[…]それで,いつの間にかやめちゃって…。毎週行くというのもお金も大変でしたし。便利だったとは思います。ただ…」(CAISを持つ女性:34歳)。


 心理的ケアが肯定的なものとみなされなかったことについては,それが「義務」(たとえば性器治療の一連の流れに組み込まれていること)のようであったということや,心理ケアの時間が不十分であったという理由を強調する人もいた。


「私にはこの話というのはとてもつらくて,本当にすごくセンシティヴなことでしたから,誰かその人の前で泣ける時間,じっと耳を傾けてくれる時間,そういう時間を提供してくれる人というのは本当に必要だったんです。安心させてくれる誰かが。でもあの時心理師さんはそういう十分な時間がありませんでした。彼女はすごく忙しくて,いつも途中で誰かから用事が入ってきたり,電話するようなこともありましたから。いつも30分の約束だったと思います。いつも長く待たなきゃいけなかった。そういう状況では,事前に話したいことがあっても,基本的に一緒に必要な話のところまで行くということは現実的にありませんでした」(CAISを持つ女性:25歳)。


 2名の調査協力者には,心理的ケアは提供されることがなかった。他にも,年齢の高い調査協力者は恐らくそういう機会は全くなかったようである。またそういう人々は自分から専門の心理的カウンセリングを探すこともなかった。この調査に参加した体験専門者は全員現在のところ,心理的ガイダンスやセクシャリティに関するガイダンスは受けていないが,この体の状態に関する情緒的苦痛は診断(あるいは治療)後,数年は続き,様々な時様々な状況で惹起しうることが研究では示されている(Callens et al. ., 2014; Liao, Conway, Ismail-Pratt, Bikoo, & Creighton, 2011)。

 心理的ケアにはネガティヴな体験を持ったことがあった人でも,体験専門者たちは,望まない不妊状況に対する想いを取り扱うなど様々な面について,心理的ケア,心理的支援について更に重きが置かれるべきだと,その重要性を強調した。


「こういうことを扱うのって,特に不妊のこととか,ある一定のレベル持ってる人って,お医者さんよりも心理師さんの方がずっと多いはずですよね。偶然…,そう,ガンになって卵巣やそういうものを失ったというのと同じなんですから,あとは,死にたいと思うようになるか,精神的につらい,とにかくつらく感じていくというようになるんです。私の意見ですが,心理的なケアや社会的ケア,支援ネットワークに,もっとケアの重点を置かれるべきだと思います」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:24歳)。


 心理社会的なヘルスケア提供者は,診断などのコミュニケーションの範疇でも重要な(再)役割を果たせるはずだと示唆した人もいた。心理師などは,直接治療に参加しなくても,そういう領域では,医師よりもずっと勉強しており,特定のトレーニングも受けているからだ。


「診断を受ける時,お医者さんから情報や意見を全部伝えられるよりも,ソーシャルワーカーや心理師さんから伝えられるというのも,ありだと思います。たとえば,『見てください。こういう治療選択肢があります。もしよければ,この病院の医師でもいいですし,他にもこういうところやこういう人も…』みたいに。お医者さんは診断を伝えることの専門ではないですよね。その診断についての質問には答えられますが,診断を伝えるというのはまた別のことです。それに…。まあいいか。あまりうまくないと思います。だったら,メッセージを伝えたり,治療選択肢を説明したりすること専門の人にやってもらう方が絶対いいと思います。それにまだできることが。ソーシャルワーカーや心理師さんってお医者さんの利益とは関係ないですよね。お医者さんっていつも『私についてくればいい。アレンジは私がするから』って言いますから。でも違うんです。患者の利益を考えるべきなんです」(CAISを持つ女性:25歳)。


 インターセックス/性分化疾患の体の状態に対する繊細な心理的ケアには,他にも,適切な治療や,子どもに対する分かりやすい説明の仕方,大人や関係者に対して共感的・支持的に接する方法などもあるだろう。医療チームの専門家全員の方向性(アプローチ)を適切にコーディネートするということも重要な役割である。しかし,専門センターでの心理的ケアについての大きな課題は,そのアクセシビリティの問題である。宿泊が必要となるほどの病院までの距離,病院組織のアカデミックな体質,リファーの問題といったことが障害になっている。ヨーロッパで性分化疾患を専門に扱う複数のセンターへの調査では,その4分の1が専門の心理師を置いているが,ほとんどのセンターでは予算の制限で心理師が置けない状態である(Kyriakou et al., 2016)。一般的には,心理師によるアシスタントは,予防よりも危機に至った段階で初めて行われるというケースが多い(Hollenbach, Eckstrand, & Dreger, 2014)。ベルギーでは,心理師へのアクセシビリティは保険の問題と切り離せない。専門的な心理的ケアあるいはセクソロジー的なケアに対する保険適応(あるいはそれ自体が保険対象にならないこともある)が障害となっている。したがって,専門的な性心理的ケアへのアクセスを保証するためには,性分化疾患専門のセンターが,心理的ケアおよびセクソロジー的ケア提供者のネットワークと,高度な知識を有し選び抜かれたケア提供者の組織を作る,あるいは促進することが理想であろう。より効果的なリファーや,トレーニング/教育,相補的な知識と技術の活用を通して,適切なチーム医療が築ければ,心理的なケアへのアクセシビリティも良くなるであろう。



親御さん


 病院での診断時やその後の長期にわたるものだけでなく,たとえば性器の手術後のアフターケアや,投薬に関する実践的なヒントといった面に関する,心理的サポートや専門看護師による医療補助的サポートが,重要なはずなのに受けることができなかったものとして,すべての親御さんたちに支持された。


 少なくとも60%の親御さんたちが,多くの場合大きな病院の多職種チームにいる心理師にコンタクトを取っていた。時期を逸したというケースもあったが,心理師へのコンタクト(ほとんどの場合が限られた時間・回数のものだった)によって,このような体の状態をどのように考えればいいのかというフレームワークを作っていったり,関連する困難群に対処するのに役立ったとする親御さんたちもいた。


「心理師さんは理想的な相手だと思いました。話したいことがたくさんあって溢れそうでも,こういう話をするのはいつも簡単というわけじゃありませんから。なので,相談では,全部絞り出してきました。いつも簡単にというわけじゃなかったですが。ただ,最初からそういう機会が与えられていれば…とも思ってます」(MRKHを持つ女性の母親)。心理師と会うのは主に,「良い親であるためにはどうすればいいか,一緒に戦うにはどうすればいいか訊く必要があったからです」(混合性性腺異形成を持つ子どもの母親)という親御さんもいた。


 あるひとりの親御さんは,他の親御さんたちとは異なる必要性でサポートを求めていた。それは,ある種の性分化疾患の副症状としても認識されている,脆弱性にまつわる困難に関するものだ。ある種の性分化疾患を持つ子どもたちの中には,たとえば自閉症や会話・書字障害,視覚認知的問題があって支援教育が必要となる場合(訳者注:XXY等のXY染色体異数の場合)や,低身長のため成長ホルモン療法が必要となる場合(訳者注:ターナー症候群の場合)もあり,性分化疾患/インターセックスの体の状態それ自体以上に,親御さんには実際的日常的な困難となるものなのだ。


 子どもの心理的なカウンセリングについて,肯定的に話す親御さんたちもいた(その親御さんたちによれば,子ども自身もそう感じているとのことだった)。たとえば,生物学的な不妊状態について話をする場所として,あるいはたとえば低身長に対しての友達の反応にどう対応するか相談する場所としてである。子どもが他の誰かに体の状態について話ができることは重要だと思っていることを強調した親御さんもいた。「あなたのような方であれば多分娘も話がしやすいと思うからです。私に話すのは難しいでしょうから…。第三者の人の方が話しやすいと思うんです。母親が一緒だとちょっとセンシティブにもなって,私を傷つけるかもしれないことは私の前では言えないでしょうから」(CAHを持つ10代の女の子の母親)。また,次のように語った親御さんもいた。「私たち(親)は心理師じゃありません。間違ったことを言ってしまうこともあるでしょうから…」(ロキタンスキー症候群を持つ女性の母親)。


 心理師によるガイダンスを,子ども自身(特に思春期)が肯定的なものとは思わなかったことを示唆した親御さんもいた。心理師との信頼関係が(まだ)築けなかったからだ。


「『なぜ私があの人のところに行って話をしなくちゃいけないの?』って…(娘が言った)」(CAHを持つ10代の女の子の母親)


 これは,(ジェンダー:性別に対する疑いといった)特定のテーマが,子どものためではない形で話をされたからだ。


「最初は娘も心理師のところに行ったんですが,娘が魚釣りの遊びをして,娘が自分を男の子と感じているか女の子と感じているかと心理師が訊いたと思うんです。戻ってから娘が,『お母さん,お願いしたらダメ? でも,お願い。次もまたここに来なくちゃいけないの? 私もう行きたくない。私は女の子なのに…。ねえ,そうだよね?』って娘が言って…」(卵精巣性DSDを持つ10代の女の子の母親)。



B. 患者仲間同士


成人当事者


 10人中4人の調査参加者が,これまで他の(成人の)患者仲間にコンタクトを取ったことがなかった。その内2人は積極的に成人の患者仲間を探してきたが,同じ体の状態でも,会えたのはまだ子ども,あるいはその親御さんだけで,更に孤独を深めることにもなっていた。残り2人は探しはしなかったが,同じ体の状態の人に会いたいという想いは持っていて,しかしどこで探せばいいか分からない状態だった。6人の調査参加者は既に患者仲間とコンタクトを持っており(海外の人とのコンタクトも含む),とりわけ雑誌などのメディア記事や,特に患者仲間グループのインターネット上のウェブサイトが,こういったコンタクトで役割を果たしていた。大多数の人にとって,患者仲間とのコンタクトは,自分はひとりじゃないという想い,所属感,自己認知に肯定的な影響を与えていた。また,同じ体の状態の中での多様性(性別の違いを含む)にも寛容になるということもあった。


「(男性の場合で)この体の状態がどういうことかってことは知ってたんですが,女性の場合はどういうことになるのかってことは知らなかったんです」(PAISを持つ男性:19歳)。


 患者仲間とのコンタクトは,自分の体の状態の他の人へのオープンネスに関しての鏡ともなる可能性があった。


「サポートグループで,たくさんの若い女の子が勇気を持って自分の体のことオープンに話していて。それは本当に,『こんなことあり得るんだ』という体験でした」(CAISを持つ女性:34歳)。


 それまでのケア体験やセクシャリティーについて,偏りのない雰囲気の中で話せるという効果もあった。


「堅くならず,この場だけの話なんだからって,訊きたいことがあれば何でも訊いてって。本当に親密な雰囲気で」(ロキタンスキー症候群を持つ女性:36歳)。


 こうして最終的には,これからの将来のこと,ウェルビーイングが肯定的なものになっていく。


「グループでは本当いろいろな女性がいて本当に驚きました。体の大きさも肌の色も香りも,本当全部いろいろで。こういうものだろうという経歴を決めつけることはできませんでした。それに,ボーイフレンドがいて彼らにもう話をしている若い女の子がたくさんいて,とっても素晴らしくて。子どもは授かれないけど犬を飼ってるとか,もう全部ポジティブな話で」(CAISを持つ女性:25歳)。


 中には,患者仲間へのコンタクトは1人か2人に限られてる人もいた。


「そういうところに入って長い時間そういうことに専念する」(CAISを持つ女性:34歳),そういう必要性はあまりないと感じるからだ。何年も患者会に積極的に参加している人たち,若い当事者の人々や親御さんたちとのコンタクトをオーガナイズする人たち,こういうミーティングで交友を続けている人たちもいた。


 目下のところ,フランドルには,それぞれの体の状態に応じた患者会がいくつかあるが,さまざまな体の状態すべてが出そろっているわけではない(たとえば,46,XY DSDに対応する患者会はフランドルの人主催ではない)し,子ども・成人といったすべての年代に対応した患者会もそろっていない。また,インターセックスの体の状態/性分化疾患全体を包括したコンタクトに対応したところもない。全体を包括した組織がどの程度必要なものなのかは明らかではない。性分化疾患と呼ばれる体の状態には様々なものがあり,体の状態によって状況は(「深刻度」も)異なり,全体でひとつの集団であるという認識は実は無いからだ。


「ロキタンスキー症候群を持つ女性のグループはありますが,そこではAISの女性は歓迎されないと思います。染色体が全然違うということになりますから。私自身は染色体には本当に問題を感じていないですが,やはり染色体の違いということで,ロキタンスキー症候群の女性のグループにコンタクトを取ったことはありません。実は部分型アンドロゲン不応症よりも,体験が近いということはあってもです。私にとってはほんの一歩違いですが…。もし深刻さで順番を付けるなら,ロキタンスキー症候群はたぶんCAISより深刻じゃなくて,その次がPAISということになると思います。ただ…,こういうこと私が思うのって,何とか自分の心を立たせるために,自分が他の人より少しましとか悪くないみたいに思いたいからなんでしょうね…」(CAISを持つ女性:44歳)。


 (たとえば,同じミーティングで,同じ体の状態であっても,男性と女性での)「集団間の境界」の保持や,(CAISでのホルモン代替療法などの)治療法の違いなど,様々なテーマでの重要な違いはいくつかあるが,患者仲間とのコンタクトは,体験を語り合い,他の人と一体感を感じ,自分は普通なんだという感じを持てるという点で,実際価値があった,あるいはあるだろうと,成人当事者の人々は感じていた。



親御さん


 診断時,医師が同じ状況にある人たちとのコンタクトを勧めてこなかったことを,残念に思っている親御さんもいた。


「家族の中でも,自分の望みどおりのことをいつも言ってくれるわけじゃないですが,それは専門家でも同じですよね。決していじわるで言わなかったわけじゃないことは分かってます。[…]でも,同じような状況にある患者家族仲間で,『大丈夫!あなたはちゃんとやってるから!』って背中を叩いてくれるような人がいてくれてたら…って」(高度尿道下裂で生まれた10代の男の子の母親)


 また新たに子どもの性分化疾患が判明した親御さんも同じような状況を体験することになるし,耳を傾ける必要性があるからということで,数名の親御さんが,他の当事者家族の人と会った詳細を医師に伝えてもいたが,それで医師の方でそういうコンタクトが勧められるようになったということはなかった。医師の診察で最初の結果が出た後,他国の患者仲間のグループにコンタクトし,自信と肯定感を得た親御さんもいた。


「他の患者家族の方と会えるかどうかは何年も前に話をしてました。フェイスブックもユーチューブもまだない時代でしたから…。はい,それで,彼女(コンタクトした相手)も,ずっと後になって体の状態が判明した女の子に会っていたんですが,彼女も本当私たちに自信と安心を与えてくれて…。言ってくれたんです。『早めに分かったのは良かったですよ!いろいろ惑う必要もなかったんですから』って。それはつまり,たとえば『身長はもっと高くなるのかどうか?』とか『胸は育つのかどうか?』とか『こういう女性は完全に女の子っぽいのか?』とか,そういういろいろなことに惑う必要が無くて済んだってことです。そういうつらい疑問をいろいろ持つものなんです。どんな体の状態か現実の人に会って訊かないと,どんな可能性があるかわからない沼の中を泳ぎ続けるようなものですから…」(スワイヤー症候群を持つ女の子の親御さん)。


 これらの親御さんたちが語るように,他の患者家族の人とのコンタクトやさらなる情報を探すのにインターネットが益々その役割を果たしてきているが,患者家族会内では他の親御さんとの話には,匿名性のある電話を主に使うという親御さんもいた。


 本調査の参加時では,70%の親御さんたちが,同じ体の状態の家族仲間とのコンタクトを取っていたが,そのコンタクトのとり方には極めて多種多様な方法があった。同じ体の状態の成人当事者や他の家族の人とのコンタクトは,完全に1対1の匿名で行っているという親御さんたちもいれば,(病院が設定した)情報網や,(他国の)患者家族会を通じて直接コンタクトを取った親御さんたちもいた。一般的には親御さんたちは,それほど積極的なコンタクトはなく,最初のコンタクトがあっても先に続かなかったと語っている。(個人的なコンタクトがなくとも)医師や患者家族会のウェブサイトから十分に(あるいは更なる)情報を得ているからだ。他には,最善のアプローチについての考えが違うからという理由もあった。


「ああいう考えは私たち家族はしません。あれはまた,『子どもに話すな,黙っておけ』というのとは別のジャンルの話だと感じてます。『子どもに話そう。問題はない。オープンにしてあげて』って,私たち家族は実際そうしてましたから。『子どもは手術されたと知らされることを許されなかった』と言われても,実際は,こういう話はそういう人たちにわざわざする話でもないですし…」(CAHを持つ女の子の母親)。


 自分自身は親として必要性は感じなくとも,子どものために,子どもが将来持つだろう疑問や子ども自身がコンタクトするかもしれないと,あらかじめとして患者家族会にコンタクトしたと強調された親御さんたちもいた。


「娘の人生のある時点で,そういう機会が役に立つこともあるかもしれないと,そうだったら先に関係を築いておかなきゃいけないですよね? どうなるか分かりませんが…。あの夜にお会いしたお母さんも自分の話として,子どもは自分で分かっていたと言ってましたから。他のお子さんたちも…。あのお母さんのお子さんも…。皆何かしら持ってるものです。『私だけ』というわけでもありませんから」(CAHを持つ女の子の母親)。


 しかし,これは複雑な想いでもある。成長した子どもを持つ親御さんたちは,子どもはそういうものを必要としないということを示唆された。


「直面させられるような感じに思ってるからだと思います。娘は『ふつう』でいたいと思ってますから…。娘はみんなと一緒でいたいんです。みんなと紛れていたいと思ってて…」(卵精巣性DSDを持つ10代の女の子の母親)。


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