第9章:政策展開の指針

Updated: Jan 10




 本調査報告にて語られた調査参加者は,インターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ成人・子どもの限られた人数の人々であることを再度強調しておくのは重要だろう。本調査の参加者は,まず自分の体の状態について知っていて,医療的なフォローアップを受けている人々,そして/あるいは,患者仲間とのコンタクトを模索した人々,かつ,本調査に参加する意思を持った(あるいは注目した)人々である。したがって,この小規模の調査から得られる結論は,フランドルのインターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ人々の対象集団全体に一般化することはできず,政策推奨を判断する際には,このことを念頭に置いておかねばならない。本調査報告の著者は,それぞれ個人個人のそれぞれの状況と意見を尊重したいと望んでいて,この対象集団の今以上の単純化,ステレオタイプ化を望むところではない。したがって,政策推奨は広範囲のものとし,社会的困難や医療的な困難に肯定的に反応できるように,個人/家族の特有の立場とニーズを考慮して,社会的・健康的文脈において様々な有り様を満たすようにした。


 関連する領域では,このグループの独自性による解放とエンパワメントを進めていくための次の推奨政策では,政策関係者や政府,(患者)団体と調査研究者の役割も示した。 


特に上げる点は以下の通りである。


  • 多分野連携の医学的・心理的ケアとサポートへのアクセスを高める。

  • ケアの方向性と治療方針決定,登録義務の透明性を高める。

  • 多分野ケアの保険適用

  • 患者仲間とのコンタクトに対する社会的・資金的支援を進める。

  • それぞれの体の状態に応じて,QOLとケアに関する教育提供を進める。

  • 医療提供者,政府・社会は,治療や専門用語,分類方に対して,さらに繊細な心がけに務めること。

  • メディアや,生物学の講義,調査研究での,肯定的なイメージの創出。

  • インターセックスの体の状態/性分化疾患を持つ子どもたちが,治療方針決定のイニシアティヴを持てるようにする。










 体験専門者や親御さんたちの中には,診断が明らかになるプロセスについて,最初に訪れる病院に対する懸念を表し,専門職による専門的な態度が重要だとした人もいた。診断に至るには長い時間を待たねばならない場合(あるいは最初のところで誤診断を受ける場合)があり,また,「特殊なケース」というところが強調され,たとえば医療看護スタッフからセンセーショナルな反応を受けたというだけでなく,性器の検査でたとえば研修医たちから侵襲的とも考えられる態度を取られたという青年期の患者のケースもあった。医療提供者に対するインターセックスの体の状態/性分化疾患についてのトレーニングと教育は,この話のセンシティヴさの熟知と,患者家族とのコミュニケーションを改善していくのに重要な役割を果たすであろう。さらに,親御さんたちや体験専門者たちは,性分化疾患/インターセックスの体の状態が疑われる場合は,オランダと同じように,家族や患者は専門のセンターにすぐにリファーすることが重要であると示唆し,シカゴ・コンセンサス・ステイトメント(Hughes et al, 2006)のような,患者家族の利益を強調した臨床ガイドラインを支持した。専門のセンターはノウハウを熟知しており,たとえば遺伝子検査のような更なる検査も可能である。遺伝子検査は専門ではない病院が外注すると時間がかかる場合が多く,(内性器の構造などを調べる)イメージング検査も,解釈が難しい場合もある。このような検査の技術的な側面について経験豊富な専門病院であれば,患者家族の検査結果の受け取りや心理的ガイダンスにさらに時間を掛けることも可能である。


➢ 診断体制を提供できる専門家たちによる多職種協働センターへのケアの集約化だけでなく,家族/思春期・青年期の患者の心理的ケアにも目を向けること。


 どう考えていくかまだ問題はあるが,専門のセンターでは検査・診断だけでなく,外科的手術も取り扱えるようにするべきだろう。(特にインフォームドコンセントを受けられない子どもに対する)外科的介入の禁止については,国際的な交渉の遡上にあり,利害団体・人権団体の利害の中心点であるが,外科用メスとの争いだけがポイントではない(Davis. 2015)ということも分かっている。性分化疾患/インターセックスの体の状態を持つ人々が体験する社会的問題のすべてが,外科手術によって低減されるわけではない。手術を受けなかった人々も,同じようなセクシュアリティの問題,情緒的な問題を体験しているのである。


 しかし,このタイプの外科手術をどのように規定するかという(国際的)国内的な範囲での明確な枠組みの必要性,また,他の様々な治療選択肢や,現在行われている様々な介入法の中での外科医学的必要性についての透明性確保,さらに,子どもや青年期の患者,親御さんへのインフォームド・コンセントをどのように行っていくかという枠組みの必要性はある。


 本調査の体験専門者たちは,非外科的な他の治療選択肢(たとえば,自分で行う膣拡張など)について,医師から言われなかった,医師自身が経験がなかったということから,その存在自体を知らなかった。医学的に必要という言葉で表現されていること(たとえば尿漏や飛び散りが激しいといった,明らかな泌尿器の問題)は,実は(男子として立っておしっこできるようにとか,外性器の見た目はこのようでなければならないなどといった)社会的な理由で描写されているという点も重要だ。最近の調査では,医療提供者の100%が,そういった外性器の状態を,見た目として「異常な」性器と描写しているのに対して,親御さんがそのようにラベリングしているのは半分だったことが示されている(Nokoff et al,2017)。同じ調査の著者たちは,親御さんの大多数が,外科的介入後の外性器の美容的側面については満足を示していたということに特に満足していたが,まずは,このようなバリエーションを「矯正する」という扱いの偏りについては,真正面の疑問を投げかけることは可能だろう。少し逆説的ではあるが,自然に起きる性器のバリエーションの広範囲さを医師たちが見ることはよくあることだからだ。いくつかのバリエーションはホルモンのアンバランスを反映したものではあるが,このようなバリエーションを持った人々の大多数は健康なのである。体験専門者たちは,医療従事者や訓練中の医師でのこのようなバリエーションに対する意識の必要性と,「正常性」と健康の違いを強調していた。


 しかしながら,調査参加者の中には,もはや最適とは考えられていない術式や治療を受けてきた人もいて,現在では十分同じような転帰をもたらすことのできるオペ以外の他の治療法(自己ダイレーションなど)もあり,患者もどのような治療法にするか選択できるようになっているということを強調しておくのは重要だ。専門センターの任務は,できるだけ新しい研究調査からの情報によるアップデートを続けること(調査には積極的に参加すること),そしてエヴィデンスベースドなアプローチを旨とすることである。成人の体験専門者が特に強調しているのは,そういう調査の中では,治療選択が本当に選択になっていなければならないこと,また,選択の際の方向付け(たとえば,「こういうことはできます。私たちはそれについては多くの実績があります。何もしないということもできますが,私たちにはそういう経験は少ない/全く無いです」)の影響は大きいということであった。本調査でも,「理想的な」ケアの流れと決定についての親御さんと成人当事者の見方には,重なりがほとんどないこともあり,治療のリスクや,子どもと親には治療を行わない権利もあるということをはっきりと伝えるべきであることを示した。このような伝え方についてある程度の透明性を高めるには,専門センターがこの領域でのインフォームドコンセントのプロセスをマッピングする必要性があるだろう。


子どもや青年期の患者へのインフォームドコンセントの基準は,(これも今でも明確なものではないが)親御さんへのインフォームドコンセントの基準よりも厳密に適用されていないということをケアは考慮するべきであることを前提に,子どもや青年期の患者へのインフォームドコンセントの実証的な基準をさらに具体化していくことは可能だろう(Carmichael & Anderson, 2004)。


 インターセックスの体の状態/性分化疾患に関する話では,子どもが自分で決められる年齢になるまで,あるいは長期間での調査によって非介入の場合の転帰が明らかになるまでの,性器手術の猶予(Diamond & Garland, 2014)や,専門センターでの外科手術の集約化の義務化が指摘されているが,性器手術の最適下限の(最適とはされていない次善的な)治療法によって起こり得る転帰や,明確な医学的示唆なしに外科手術が行われた場合の転帰に対する,体験専門者や親御さんの合理的な懸念に答えられるだけの十分な調査というのは未だなされていないのだ。「最善の」機能・美容的転帰を得るには,手術を行う外科医の経験が一番に重要となる。1年に50回,同じような介入を行っていることという閾値はよく言及されているが(Cools, 2017, personal communication),ケアがあちこちでバラバラに行われており,法的なリファー義務もないという現状では,性分化疾患のような稀少疾患では,ベルギーのような小さな国では,この閾値は難しくなる。


 政府公認で著名な(手術についての知識と手術なしの治療の経験もある)専門センターへのケアの集約化によって,(手術ではない方法の「信頼性」も高まるだろうが)関係者の治療選択肢が増え,より良いものになるに違いない。そういう場では,関係者全員が起こり得る困難に対応していく自信も持てるだろう。


➢ 政府によって権限を与えられた専門センターは,患者の権利についての情報,および手術なしの(信頼するに値する)ケアプログラムも提供するべきであるが,医学的に必要な場合や,情報を提供された人が望む場合は,外科的な治療も行えるようにする。


 体験専門者や親御さんたちによれば,ケアセンターに専門家を集約化することで,他に,体の状態のケアについてすべての発達ステージでのフォローアップ治療(小児科医から成人患者のケアまで)も促進されることになる。さらに,種々の治療の連動や,治療の継続性を確保するための情報伝達だけでなく,ケア提供者との信頼関係の構築にも役立つ。現段階では,ケアは主に子どもや若い人々が中心になっており,成人患者に対するケアに力を配分することも重要だろう。


➢ 専門家の協働によるセンター化は,患者の完全な診断と,(子どもから成人へと至る)ライフサイクル全体の治療プロセスを俯瞰することを可能にする。


 専門センターはハイレベルの専門家が揃い,体験専門者へのコンサルテーションも可能になるため,緊急の疑問や危機的状況に支援を提供し,特定の重要な時期(たとえば学校入学,思春期,妊孕性の望みなど)での患者と家族のニーズを(再)評価することができる。また専門センターは,患者家族が家の近くで施設外の専門家(心理師など)とのコンタクトによるフォローアップの可能性,必要な際の他の医療従事者(心理療法家)や,他の患者とのコンタクトの可能性にもフレキシブルに対応する役割も持つ。


➢ 専門センターは,患者家族に対して,社会的サポートや情報を共有できる場として,他の患者とのコンタクトを提供するべきである。


 調査されたベルギー大学医療センターの医療従事者たちも,他の稀少疾患の状況と同じく,ベルギーにおける性分化疾患/インターセックスの体の状態を対象とした専門センターの役割を支持した。専門の医療従事者たちは,診断(疑い)後の特定のケアとガイダンスの必要性は認識していたが,そういうセンターの数や地域配分,センター同士の協働,あるいは,リファーと適格性についてセンターが満たすべき基準など,すべてを支持しているわけではない(Callens, Longman & Motmans, 2016)。


➢ 専門センターの政府による公認には,ヨーロッパ稀少疾患専門家委員会(EUCERD)といった専門組織によって裏打ちされ,かつ実行可能な基準が必要である。連邦政府(の健康政策)は,性分化疾患/インターセックスの体の状態に関するベルギーの状況に対してどのような基準が適用されるべきか,さらなる調査をするべきである。











 フランドル/ベルギーにおける性分化疾患/インターセックスの体の状態に対するケアポリシーの構築は,疫学的なデータの不足,患者についての長期間のデータの不足,関係するケア組織によるフォローアップの概観の不足によって,全く進んでいない。現在のところベルギーには,性分化疾患/インターセックスの体の状態とその治療に関する義務的な登録制度はない。そのためこの集団の正確な人口と治療の頻度についての知見もないのだ。


 現在ベルギーに存在する登録機関は,2008年に設立されたベルギー小児内分泌学・糖尿病学会(BESPEED)のBellux DSDレジストリで,主に遺伝子および内分泌学的パラメータに関する基礎科学的な研究を目的とするもので,QOLや心理に関するパラメータは含まれていない。性分化疾患を持つ患者が全員登録されているわけではないのは,ひとつは患者自身が拒否できるため(調査に参加したセンターの倫理委員会には同意・拒否の選択肢はない)だが,医師全員が登録に参加しているわけではないなど,いくつかの理由がある。


  • 登録は強制ではなく,登録業務の管理者も賃金が支払われているわけではない。一方BESPEEDレジストリは,系列センターからの入力を元にした登録で即座にアップデート可能な「研究看護師(study nurse)」に賃金が支払われている。医師も登録についてアピールしておらず,これにはある種の思惑が絡んでいることを示唆している可能性がある。患者の数に基づいて,その医師が性分化疾患の専門知識を持っているかどうか(そして十分な数の患者を見ているか)を明確にすることができるので,患者数の透明性を高めることは医師同士の競争を促すことになる。


  • レジストリ(登録簿)にアクセスできるのは,BESPEEDとつながっている小児内分泌科だけという場合が多い。小児内分泌科医は,家族との最初のコンタクト先になることが多いが,常にそうとは限らない(たとえばCAISやMRKHの女性は婦人科医で,尿道下裂の男児の場合は泌尿器科医で留まる場合が多い)。同じ病院内での異なる診察科同士の協議は現実には円滑に行われているとは限らず,(多くの病院がそうなのだが)多分野協働のインフラがない場合は更にそうである。この結果,内分泌科医が見ない特定のタイプの体の状態は,レジストリに現れないことになるのだ。


➢ 体の状態と治療法の登録義務だけでなく,心理的パラメータやウェルビーイングのパラメータの登録義務も加えることで,ヘルスケアや心理社会的サポートのプランニングも進めることができる。


 「I-DSDレジストリ」と呼ばれる,ヨーロッパ全体のDSD登録簿もある。これは国際的な性格(と言っても主にヨーロッパで取り入れられているものだが)を持つ大規模な調査登録機関で,登録患者数も大規模なため,大規模で価値のある科学的成果が得られている。このレジスターは主に内分泌学的パラメータと遺伝子学的パラメータが中心ではあるが,2017年より心理的パラメータ(QOLや性別同一性,出生後の親御さんへのカウンセリング,子どもに診断を伝えた年齢など)も加えられる予定である。ベルギーの患者もこのレジストリに加わることを選択することもできる。しかしここでも同意制度が適用されるため,この登録ではベルギーに何人の患者がいるのかは分からず,やはりベルギー独自の登録制度の必要性が強調される。作業の重複を避けるには,国際的な専門家への関連や,公的機関によって集約されたデータの補完の意味でも,I-DSDレジスターと同じような登録がもっとも論理的であろう。患者家族会や利害団体の協力も,性分化疾患/インターセックスの政策を更に発展させていくには必要であると思われる。


➢ 専門センターは確実に登録を行えるようにしなければならない。


 登録制度の例としては,小児がんレジスターなどがあり,これらは現実に機能している。理由としては,


  • (ベルギーのがん計画を通して)構造的に資金が提供されている。


  • 小児がん科医は,子どもの民主教育学者や泌尿器科医よりも,様々な述語の分野を通して資金提供を受けているため,遂行能力に対する障害はわずかで,質の高いプロジェクトに投資することができるから。


  • さらに,多職種協働コンサルテーションに対する補償(MOCコンサルテーション)もあるから。そのため,こういうコンサルテーションサービスは,看護師研修生に対して給与を支払うことができ,義務的な登録(MOC)を行い続けることができる。