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3歳のエブリンが『リメンバー・ミー』のサウンドトラックを大声で歌っているとき、彼女の副腎が自力で必要なホルモンを作れないなんて、まったく想像がつきません。

  • 執筆者の写真: nexdsdJAPAN
    nexdsdJAPAN
  • 3 日前
  • 読了時間: 4分



エブリン


 「彼女は普通の子どもみたいに走ったり遊んだりしています。歌うのが大好きなんです」と母親のオフェリアさんは笑いながら話します。「あまり上手じゃないけど、一生懸命がんばってますよ」。


 幸いなことに、エブリンの他の健康状態や将来の見通しは良好です。彼女の先天性副腎皮質過形成(CAH)は、現在では薬でうまく管理されているからです。



先天性副腎皮質過形成の影響


 CAHは遺伝性で、生涯にわたる疾患です。副腎(腎臓の上にある円錐形の臓器)がコルチゾールを作れず、場合によってはアルドステロンも作れないことがあります。


コルチゾール:エネルギー、血圧、血糖の調節に不可欠で、急な病気やケガからの回復にも役立ちます。


アルドステロン:体内の塩分と水分のバランスを保ちます。


 エブリンは生後2週間でCAHと診断されました。新生児スクリーニングによって21水酸化酵素欠損症(21OHD)が疑われ、追加の血液検査で確定されました。彼女はフィラデルフィア小児病院に2週間入院し、ホルモンの安定化と、健康を維持するためのおくすり、ヒドロコルチゾンとフルドロコルチゾンの適切な投与量が決定されました。


「この病気について、医師に言われるまで全く知りませんでした」と父親のマリオさんは言います。



稀少で劣性遺伝の病気


 それもそのはず、CAHは珍しく、約1万人に1人の割合で発症します。常染色体劣性遺伝で遺伝し、マリオさんとオフェリアさんはCYP21A2遺伝子の変異型を1つずつ持っていました。上の2人の娘(アンジェリン6歳、エメリ4歳)は影響を受けていません。妊娠ごとに子どもがCAHになる確率は4分の1です。


「最初はリスクのこともあって悲しい知らせでした。彼女をどうやって健康に保つか、たくさん学ばなければなりませんでした」とマリオさんは語ります。



最大のリスクは「病気やケガ」



 CAHの人が病気になったりケガをすると危険です。通常は、発熱や胃腸炎などが起こると、副腎が自動的にコルチゾールを増やして対抗します。でも、CAHの子どもはこの反応がありません。そのため、親が「ストレス用の薬」を追加で与える必要があります。


 追加の投与がないと、副腎クリーゼ(副腎ショック)という命にかかわる緊急事態になる可能性があります。



病院の専門的な支援


 フィラデルフィア小児病院の副腎・思春期センターでは、マリア・ヴォギアッツィ医師と看護師のミシェル・マクロクリンが、CAHの子どもと家族にストレス用投与のタイミングやケアの方法を教えています。


 「たとえば、吐いたり熱が出たりしたらすぐに追加の薬を与えなければなりません」とオフェリアさん。「錠剤か注射で対応します。改善しなければすぐに救急外来に連れていきます」。


 エブリンは最初の18ヶ月間に救急外来を3回受診しましたが、それ以降はありません。


 「赤ちゃんのときは大変でしたが、今は年齢とともにずっと楽になってきました」とオフェリアさんは話します。



定期的なフォローアップと専門チーム


 エブリンのような患者は、3ヶ月ごとに血液検査を受けます。ヴォギアッツィ医師とマクロクリン看護師が結果を確認し、薬の調整を行います。フィラデルフィア小児病院ではCAH患者を120人以上フォローしており、地域で最も多くの患者を診ています。



アンドロゲン過剰も問題に


 エブリンは古典型のCAHを持つ女性で、副腎がアンドロゲン(男性ホルモン)を過剰に産生しています。アンドロゲンは一般に男性ホルモンとされますが、女性にも少量存在します。


 一部の子どもは、生殖器の異常や生殖能力に問題が出ることがあります。エブリンは手術を受けましたが、生殖機能は正常です。


 「神様のおかげで、彼女にはすべて揃っています」とマリオさん。「医師からは、将来子どもを産める可能性があると言われました。薬をきちんと飲み続ける必要はありますが」。



CAH治療の難しさ


 CAHの治療で難しいのはバランスの維持です。エブリンの健康を保つために使うステロイドは、思春期の早期化や成長の遅れ、肥満のリスクを伴います。


「最近の診察では、ちょっと体重が増えすぎていると言われました」とオフェリアさん。


「今は栄養士の指導を受けて、成長をコントロールしています。食べてはいけないものはないけれど、量を少なくしています」。


 3歳の誕生日には、友だちと一緒にケーキを楽しみました。「でも一切れだけね」とオフェリアさん。



未来に限界はない



 エブリンはこの秋に幼稚園に入園予定です。両親はすでに彼女の可能性を感じています。


「とても賢い子だと思います。やろうと決めたことはなんでもできる子です」とオフェリアさん。


 マリオさんも同意します。「健康でいてくれれば、彼女は自分がなりたい人になれると信じています」。

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海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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