中絶といのち(1)ジェンさんの物語

Updated: Nov 23

編集部注:この記事はLiving With XXYによる「中絶といのち」というシリーズの第1回目です。この物語は,妊娠前に胎児が47, XXYと診断され,中絶することを勧められたり,選択肢を提示されたりした親御さんたちが,なぜ妊娠を継続することを選んだのか,そして家族がどのようにXXYとともに生きているのかという話を物語っていきます。


 ジェン・ビーストマンさんは,オレゴン州で家族と暮らす母親です。彼女の家族の近くに住むためにアメリカ北西部に引っ越してきたジェンさんは,保険業界でのキャリアを捨て,旅行やサーフィンを楽しみながら,息子のコア君と一緒に暮らしています。現在生後19カ月のコア君は,47,XXY(クラインフェルター症候群)を持ちながらも,活発で健康的で,元気な男の子です。ジェンさんに,コア君の診断結果を知ったときの心境や,医師からの中絶の勧めにどのように対処したか,そして現在の子どもたちの様子について語っていただきました。



診断  ジェンさんと夫のグレッグさんが家族をつくろうと決心してからというもの,特に妊娠検査で陽性反応が出るのを待つ必要もなく,すぐにおめでたの日が来ました。すべて順調に進んでいました。ですが,34歳だったこともあり,友人たちはジェンさんにNIPT検査(出生前胎児検査)を受けるように勧めました。ですが,検査後,時間が経つにつれ,ジェンさんは何かが間違っているのではないかと心配になってきました。検査結果が出るのに時間がかかっていたのです。産婦人科医に電話をすると,次の予約の時に検査結果を伝えると言われました。ジェンさんは,もですがたあら何かあるのかと思いながらも,あまり心配しないようにしていました。

 ジェンさんとグレッグさんは,次の予約日をワクワクしながら待っていました。次の予約の日は超音波検査をする予定で,赤ちゃんの画像を見るのを楽しみにしていたのでした。ですが,その喜びも束の間,主治医が部屋に入ってきて,何の前触れもなくNIPTの診断結果を伝え始めたのです。  朦朧とした意識の中で,ジェンさんは,生まれてくる子どもが心臓に問題を抱えているかもしれないということだけは理解しました。彼女は医師を呼び止め,「どういうことなんですか?」と尋ねました。医師がNIPTの結果を書いた紙を手渡しました。ジェンさんは赤ちゃんの性別が「男性」となっていることに気づきました。ですが医師は続けて,「XXYと呼ばれるものです」と言いました。そして,この診断名の子どもを持つことで起こりうる否定的な面を両親に伝えました。  ジェンさんは医師に,クラインフェルター症候群について何か知っていることはないかと尋ねたのですが,医師は「あまり知らないんです」と答えるだけでした。そして彼女はジェンさんに,「中絶するかどうか決める」ために,羊水検査を受けるよう勧めたのです。彼女は,両親が妊娠を継続しないことを決めても「気にはしません」と言いました。ジェンさんはこの時の出来事を「超現実的な体験でした」と言っています。

診断結果を受け止める

 医師が部屋を出て数分後,ジェンさんと夫は携帯電話を取り出し,謎の診断名をグーグルで調べ始めました。ですが,不安は解消されず,多くの疑問を抱えたまま診察室を後にすることになりました。その後,家に帰ってからも調べ続けました。情報収集に時間をかけた結果,最初に考えていたほど悪い状態ではないのだとわかりました。ふたりは,羊水検査を見送り,中絶しないことにしました。彼らは,息子はXXYであることを想定した上で,「大したことじゃない」と考えることにしたのです。

コア

 50時間の陣痛の後,42週目に緊急帝王切開でコア君を出産。彼が生まれた後,二人はコロラド小児病院の「eXtraordinarY Babies 研究会」に参加しました(訳者注:欧米ではX・Y染色体バリエーションを持つ子どもたち・人々をX・Yをもじって「eXtraordinarYエクストラオーディナリー(類まれな)」と呼んでいます)。デンバーのクリニックのスタッフと話をして,ジェンさんは安心しました。  診断結果を理解し始めた頃のことを振り返ると,ジェンさんは泣きたくなります。彼女はコアくんを「パーフェクトな子ども」と言います。彼には違いがありますが,ジェンさんはその違いを彼のスーパーパワーと呼んでいます。ジェンさんは,多くの親が「子宮の中からパーフェクトな人生を約束されたパーフェクトな子ども」を期待するものですが,そのようにはいかないと考えています。ネット上では,この症候群のネガティブな症状ばかりクローズアップされていますが,ジェンさんは,コアくんが障害を持っているとはまったく考えていません。



コアを知る

 ジェンさんとグレッグさんは,成長し続けるコアくんを知ることを楽しんでいます。一家は,デンバーのクリニックで行われているeXtraordinarY Babiesの研究に参加していますが,早期のテストステロン補充療法は行わないことにしました。ジェンさんは,コアくんがクラインフェルター症候群と診断されても,他の子どもたちが診断されるのと変わりはないと言います。糖尿病に例えて「ちゃんと見ていかなくてはならないことはありますが,難しいことではないと思っています」と言っていました。  寝返りが少し遅かったものの,その他の節目はすべて順調でした。そこで,コアくんが必要とするサービスを知るために,オレゴン州が実施する発達の早期介入検査を受けることにしました。その結果,コアくんのマイルストーンは一般よりも早く進んでいただけでなく,むしろあまりにも順調だったため,実際にはプログラムを受ける資格がないことがわかりました。

 ですが,KSはこのプログラムで認められている診断名に該当するので,必要なサービスを受けることができました。這い這いをサポートする理学療法を受けた後,コアくんはすくすく動き出すようになりました。ジェンさんによると,コアくんは「止めることができない」そうで,今では両親と一緒に世界を冒険しています。スケートボードも教え始め,いろいろな動きを試せるようにしているそうです。コアくんは食べるのが上手で,言葉も順調に育っています。それにとても観察力のある子どもで,"バラの香りを楽しむ時間"が好きです。家族としては,"一日一日を大切にする"ことを心がけてらっしゃいます。

コミュニティを見つける

 ジェンさんとグレッグさんは両親として,コアくんの擁護者になろうと思ってらっしゃいます。最初ふたりは息子さんに診断名を伝えることに抵抗を感じていました。ライアンと出会った二人は,彼と話しているうちに,診断結果を自分たちや親しい家族だけのものにしておきたいと思うようになりました。ライアンは,ふたりがコアくんの擁護者となり,彼の診断結果を他の人に伝えることを勧めました。夫婦はそれに同意し,Living With XXYのInstagramアカウントでコアくんがスケートボードをしている動画を公開するなど,診断結果をオープンにしています。診断結果を自分たちだけのものにするのではなく,幸せで健康で,誰にも好かれる赤ちゃんを祝福することにしました。彼らが伝えた友人や家族の誰もが,コアくんと彼の状態を信じて応援してくれています。

他の人に知っておいてほしいこと

出生前にKSの診断を受けたことについて,他の親御さんにどのように伝えるかという質問に対して,ジェンさんは次のように答えています。「みなさん,どうか,本当の問題はどこにあるのかを考えてみてください。出産を中止するという考えはどこから来ているのか?パーフェクトな子どもを望んでいたのに,もうそうではないという考えなのでしょうか?」。また,ジェンさんは,親が何かを決断する前に,時間をかけて「正しい知識」を得て,サポートしてくれるコミュニティを見つけるべきだと強調しました。Googleの検索結果の1ページ目は無視して,自分の体験を理解してくれる人とのつながりを大切にすることを勧めています。そして,最も重要なことは,X染色体が1本多いだけで,中絶をするほどのことではないということを認識することです。