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「歩き続けるだけ」クラインフェルター症候群のあるジョシュの物語




 ジョシュは父親になろうとしたときにXXYの診断を受けました。最初はショックでした。でも、ジョシュは自分を最高の状態に保つために努力しました。現在、彼は妻のローレンさんと新生児の娘さんマヤ・フローレンスちゃんと一緒に暮らしています。


執筆者: キャリー・ハウスケンズ



育った環境


 XXYのことを知らずに育ったジョシュは、いくつかの兆候には気づいていましたが、当時はそれを結びつけるものがありませんでした。子ども時代、ジョシュはなんの変わりもない普通の子どものように感じていました。学校を楽しみ、素晴らしい友達ができ、学生としてもまずまずでした。体重を増やすのに苦労し、背が高くて痩せていましたが、それが彼の生活に影響を与えることはありませんでした。彼は読字障害や書字障害に悩まされていましたが、友達に追いつくために努力しました。読むことが得意ではなかったのですが、自分でうまくやる方法も見つけました。テストを受ける際には、問題を読むのに苦労したこともありましたが、成績も悪くなく、子ども時代を思う存分楽しんでいました。


 ジョシュは早い段階で仲間に溶け込む方法を学びました。運動選手であったことも助けとなり、努力家でもあったので、そのエネルギーをうまく活用しました。若い頃から努力を惜しまず、成長してもその姿勢は続きました。彼の向上心は、彼の人生に良い影響を与え続けているのです。



人間関係


 年を重ねるにつれ、ジョシュは他の人との間のギャップをより意識するようになりました。思春期を迎えると、そのギャップはさらに明確になりました。そして18歳の時に母親が亡くなり、彼の感情は抑え込まれるようになりました。不安やうつが彼の生活に入り込んできました。しかし、ジョシュはその内なる苦しみを外に出さず、外向的で社交的な自分を演じ続けました。まるで矛盾しているかのように。彼はコミュニケーションが上手で、注目の的でありながら、苦しい感情を隠していました。パニック発作を起こすタイプだとは誰も思わなかったのです。自分の感情を誰にも話さなかったため、ジョシュはその感情を無視することができたのです。


 常に「オン」でいなければならないと感じていたジョシュは、大人になるにつれて生活の一部を乗り切るのに苦労しました。不安を感じることが増え、そのたびに逃げることが多くなりました。彼は「楽しい男」であり続けたかったのです。困難なことが起こると、ジョシュはその状況から逃げる方法を見つけ、直接向き合うことを避けました。彼のこの反応は、年を重ねるにつれて問題となっていきました。


 でも、ジョシュが妻のローレンに出会ったとき、状況が変わり始めました。彼は自分の感情を隠すことができなくなりました。ローレンは本当の彼を知りたがり、ジョシュもついに自分をさらけ出す心の準備ができましたが、どうやってそれをすればいいのかわからなかったのです。


 「もし部屋にいて電気を消したとしたら、30分後くらいだったら手探りして電気をつけることができるよね。でも、電気を消してから15年後に戻ってきて、それをつけようとしたら…どこにスイッチがあるのかわからなくなるんだ」。ジョシュにとって、感情を避け続けるのをやめ、愛する人々を受け入れるための作業を始める時が来たのです。


 ジョシュは、悲しいことを見ても悲しみを感じるべきだとわかっていましたが、実際には何も感じませんでした。彼は泣くこともなく、何も感じなくなっていやのです。出来事を理解し、認識することはできました。でも、感情的なつながりを感じることができなくなっていたのです。ジョシュは、自分の感情のそんな処理の仕方では結婚生活が成り立たないと気づき、カウンセリングを受け始め、感情を開放し、対処する方法を学びました。



クラインフェルター症候群の診断



結婚後、ジョシュとローレンは家族を作ろうと始めました。3年が過ぎ、あらゆる自然療法を試した後、不妊治療の専門医に相談することを決めました。ローレンには不妊と関連のある橋本病があり、それが原因だと考えていました。でも、ローレンの検査結果は全て良好で、前向きな気持ちでいました。ですが、ジョシュの検査結果の電話がかかってきた時、彼には活動的な精子が一つもないことが判明したのです。


 クリニックから再度の検査を勧められ、ジョシュは自分には異常はないと思い、それを確かめようと同意しました。でも、2回目の検査でも同じ結果が出ました。どこに行くべきか悩んだジョシュは、地域で一番良い泌尿器科医を探し始めました。


 その後、追加の検査を受けましたが、泌尿器には何の異常も見つかりませんでした。ただ、結果に空白の部分がありましたが、それは気にせず、泌尿器科医との診察に臨みました。診察室で医師は結果を確認し、すべてが正常であることを告げました。ですが、一つだけ例外があったのです。


 「あなたはクラインフェルター症候群であり、この症候群の最大の課題は不妊です」。医師は彼らがすでに知っていると思っていたのです。検査結果にはXXYの診断が記されていましたが、ジョシュに伝えられたときにはその部分が抜けていたのです。そのため、彼とローレンは何も知らずに診察に臨んでいました。ジョシュは、まるで他人の映画を見ているような気分だったと振り返ります。医師の話は聞こえても、何が起こっているのか理解できなかったのです。頭の中で思考が駆け巡り、医師の話が現実に感じられませんでした。



不妊治療の道のり


 泌尿器科医は、親になるための選択肢はあるものの、ジョシュの染色体が引き継がれる可能性は低いと説明しました。最も有望な方法は、Micro-TESE(精巣内精子採取)でした。でもその成功率は5%未満でした。2022年9月にジョシュは手術を受け、驚いたことに約30個の精子が採取されました。ローレンの卵子と結びつけると、14個の受精胚ができました。これに感激したふたりは、体外受精(IVF)移植を進めることにしました。


 最初の移植は失敗しましたが、2回目の移植は成功しました。ジョシュとローレンは、娘さんのマヤ・フローレンスを迎え入れ、彼は今とても幸せを感じています。




テストステロン


 ジョシュは2022年12月から毎日、トピカルジェルでテストステロン補充療法を始めましたが、医師の期待した効果は得られませんでした。そこで泌尿器科医と相談し、毎週の自己注射による補充療法に切り替えました(訳者注:アメリカではテストステロンジェルやテストステロンの自己注射が認められています)。このスケジュールは管理しやすく、持続可能なものとなりました。ジョシュは、テストステロンのおかげで心身ともに改善を感じています。特に、思考が明晰になり、疲労感との長い戦いがなくなったと述べています。「平等な立場で生活できるようになったと感じています」。



他の人に伝えたいこと



 ジョシュの左前腕には「歩き続けるだけ」というタトゥーがあります。これは彼にとって日々の大切な教訓を思い出させるものです。「何かに直面すると、僕たちは立ち止まって隠れたくなるものです。でも、いつかはまた馬に乗らなければならない。ある日は10歩進むかもしれないし、別の日は1歩しか進まないかもしれない。でも、どんなに小さくても一歩一歩が勝利への一歩です。XXYの診断を受けた時、そのトンネルは暗いものでした。でも、自分と周りの大切な人たちのために、僕には前に歩み続ける義務があるんです」。そう。ただ歩き続けるのです。


 ジョシュは、他の人たちも同じ道を歩んでいることを思い出してほしいと言います。中には進んでいる人もいれば、まだその道に入ったばかりの人もいます。話せる人を見つけ、何を経験しているかを共有し、お互いから学ぼう。ジョシュは「Living With XXY」というコミュニティを通じて、将来について理解を深め、視野を広げてくれる人々に出会いました。ジョシュは、自分の感情を理解してくれる存在が診断当初にとっていかに重要であるかを強調しています。


 ジョシュが幼い頃には、XXYの兆候はほとんどありませんでした。何も異常はなかったのです。このことを踏まえて、ジョシュはXXYの子どもを持つ親に安心感を与えたいと考えています。「たくさんの悪い情報を耳にし、圧倒されることもあるかもしれない。いつも特別な配慮が必要だと思うかもしれない。でも、僕の父は何か問題があるとは全く感じなかったと言っていました」。


 娘が生まれた時、ジョシュはそのニュースをSNSで共有しました。誰も彼が他の父親と違うとは気づきませんでした。彼は自分の診断を親しい友人にしか打ち明けませんでしたが、自分が他の父親と大して変わらないことに誇りを持っています。「人々は僕をそのままに見てくれます。僕が自分の経験を話さない限り、誰も僕が余分な染色体を持っていることには気づかないでしょう」。



 ジョシュは、自分の話を共有することは他人に強制されるべきではないと強調します。「自分をさらけ出し、本当の自分を受け入れる準備ができている人が、コミュニティのために活動を始めることができるのです。でも、それは義務ではありません」。何も話したくないという気持ちは普通のことです。もしそれが自分に合わないなら、無理に話す必要はありません。「自分に合った方法で、じっくりと処理する時間を自分に与えればいい。そうすれば、心の準備もできて、自信を持って話すことができるるようになります」。


 ジョシュが最初に診断を受けた時、それは人生で最もつらい瞬間でした。誰にも話したくありませんでした。彼はまだ自分の物語を共有する心の準備ができていなかったのです。でも、時間をかけて、余分な染色体を持つことが何を意味するのかを学び、ジョシュはXXYについてオープンに話すようになりました。彼は共感してくれる親しい友人たちにこのことを打ち明けました。彼らはジョシュの経験を完全には理解していないかもしれませんが、それでも支えてくれました。


 ジョシュの人生における忍耐力は、疑いようがありません。ローレンの支えは彼にとってすべてであり、娘の愛は彼の人生を完璧にしています。ジョシュは、自分に価値を与えてくれる人々に囲まれています。そして、彼自身が他者に価値を与えていることも明らかなのです。

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