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このことで息子という人間の全てが決まるわけではありません。:NIPTでクラインフェルター症候群が判明して。

  • 執筆者の写真: nexdsdJAPAN
    nexdsdJAPAN
  • 2024年12月27日
  • 読了時間: 7分




愛情いっぱいのお母様がクラインフェルター症候群の息子さんのストーリーを書いてくれました。



 結婚から2年が経ち、夫と私は子作りにチャレンジするようになりました。妊娠するまでには時間がかかることもあると知っていましたから、辛抱強く待ちました。ですが1年経っても授からず、私たちは不妊症の専門病院を訪ねました。


 夫のライアンと私は、妊娠できない原因を探るために、それぞれいろいろな検査を受けました。どの検査も結果は同じで、「正常」です。悪いところは見つかりませんでした。医師は、私たちが原因不明の不妊だと判断して、顕微受精を試してみてはと勧めました。私たちが自然に妊娠する確率は2%しかないとのこと。でも顕微受精には最高2万ドルもかかるそうです──それは、うまくいくかどうかわからないことに、私たちが払える金額ではありませんでした。


 そこで私たちは養子縁組を考えるようになり、まずは資金集めに取りかかりました──Tシャツを売ったり、ゴルフスクランブルに出たり、クラウドファンディングのページを立ち上げたりしました。そして少し見通しが立ってきた頃、お察しの通り、妊娠したことに気づいたのです。


 人生であれほど嬉しかったことも驚いたこともありませんでした。


 妊娠8週目に、初めての超音波検査で赤ちゃんを見ることができました。その日を待つ時間は永遠のように長く思えたものです。そして、ついに赤ちゃんの心音を聴きました。私たちは本当に赤ちゃんを授かったのです! ちょうど妊娠10週目のとき、医師から遺伝子検査を勧められました。その検査では性別もわかるそうです。とてもわくわくしました! 男の子か女の子かを聞くのが待ち遠しくてなりませんでした。私たちは、そのほかのことは、まったく気にかけていませんでした。もし赤ちゃんに何か深刻な問題があっても、妊娠は続けようと心に決めていましたから。採血されて2週間後、ようやく担当の医師が電話で結果を伝えてくれました。彼女は、まず性別をお知りになりたいですかと言いました。そして、ああ神様、男の子ですって!


 私たちは、いつもチェイスという名前の男の子が生まれてくる話しをしていましたから、ふたりとも有頂天になりました! ですが医師は、もうひとつお知らせしなければならないことがありますと言いました。


 彼女は、息子さんはX染色体をひとつ多く持っていますと言いました。私たちには、その言葉の意味も、赤ちゃんが大丈夫なのかも、まったくわかりませんでした。わたしはその場で泣き出し、怖くて震えてしまいました。

 妊娠するまでにこんなに長く頑張ったのに、赤ちゃんに何か問題があると知らされるなんて──。医師は、赤ちゃんはクラインフェルター症候群を持っていると言いました。それから、いくつかの症状を説明してくれました。筋緊張が低いこと、学習に遅れが出ること、社交不安があること、思春期が遅れたりこなかったりすること、身長が高いこと、そして不妊症であることなどです。私は少し緊張が解けました──そういうことなら、なんとかなると思えたからです。私の赤ちゃんが、学校で少し特別な手助けを必要としたり、ボディビルダーになれるほどには成長できないからと言って、その子がパーフェクトでないというわけではありません! でも、ちょっと待って──医師は不妊症と言いました。夫と私は考え込みました……私たちは(ふたりとも健康な若い成人ですが)妊娠するまでに2年かかりました。ライアンは体毛がほとんどありませんし、身長が190 cmです。その上、たぶん私に触れてほしくないと思っている症状がいくつかあります。


 ライアンがクラインフェルター症候群を持っていて、それがチェイスに遺伝したのでしょうか? ふたりで調べてみましたが、クラインフェルター症候群は遺伝しないことがわかりました。私たちはこんな具合で、クラインフェルター症候群のことなどほとんど知らなかったのです。医師は私たちに、確認のための羊水穿刺を希望されますかと言いました。私たちは受けないことにしました。結果がどうであれ、何も変わらないと思ったからです。


 妊娠期間中ずっと、私たちはクラインフェルター症候群のことを調べ続けました。同じような内容を繰り返し読んだりもしましたが、実のところ、それほど心配していたわけではありませんでした。ふたりの赤ちゃんが生まれてくることは、ただそれだけで、かけがえのないことだとわかっていたからです。


 2018年5月11日、体重4000 g、身長60 cmの赤ちゃんが帝王切開で生まれました。こんなに美しい子を、私は見たことがありませんでした──つやつやした肌、頭にはふさふさの髪の毛、それにふっくらした可愛いほっぺ。息子は完璧でした。医師は、この子がクラインフェルター症候群を持っていることを確かめるために、へその緒の血液(臍帯血)を少し検査に出すと言いました。なのに、その途中のどこかで、誰かが臍帯血を採るのを忘れたのです。それで翌日、医師たちは生後1日の息子を連れて行き、静脈から血を採りました。そのあと私たちは、看護師さんが、その血液を間違った採血管に入れたことに気づきました。看護師さんたちは血液を採り直そうと、チェイスをまた連れて行きました。そのとき言われたことは、息子から必要なだけ血を採るには、3回も針で突かなければいけないということです。しかもそのうちの1回は頭に刺すと言うのです。私は怒りました!


 クラインフェルター症候群は、こんなことをされるものなのでしょうか? 私の子に何度も痛い思いをさせて? 永遠に検査するのですか?

 3日後、私たちは帰宅して落ち着きました。その翌日、チェイスのかかりつけ医になる小児科医に初めて診てもらいました。その女性医師は、チェイスがクラインフェルター症候群であることを確認しました。そして私たちに、いくつかの早期症状に気をつけているように言ってから、遺伝科の医師と面談するように勧めました。私たちは予約を取ろうと電話しましたが、2019年7月まで予約はいっぱいで、この時点で、私たちにするべきことは何もないと言われました。



 私たちは大切なチェイスを愛し、抱きしめ、歌いかけ、揺りかごであやし、一緒に遊びました。息子は本当に最高の赤ちゃんでした! 私は泣いたり不平を言ったりしたことは一度もありません。息子が生後1ヶ月の頃、私は12時間も眠っていました。この子はいつ見てもなんとお行儀がいいのでしょうと、私たちは何度もほめていただきましたし、これからもそうでしょう。チェイスの健康状態は引き続き小児科医にチェックしてもらいました。


 何もかもが順調に見えました。息子は身長が99パーセンタイルを上回り、体重は96パーセンタイル、頭囲は98パーセンタイルに入っていました。

 すべての検診は上々の結果でしたが、そう思っていられたのは、先日の6ヶ月検診までのことでした。医師から、お子さんは支えなく座っていられますか、両足に力を入れられますかと尋ねられました──これは息子にはできないことでした。彼女が息子の両足の先を強めに押したとき、息子は押し返そうともしませんでした。お子さんは間違いなく筋緊張が低いので、早めに専門医に診てもらってくださいと医師は言いました。


 私たちはチェイスを連れて専門医を訪ねました。そこでは山ほど書類を渡され、息子のことを書かされました。女性医師がその結果を計算して、お子さんには、もっと特別な検査が必要でしょうと言いました。チェイスは間もなく生後8ヶ月になります。次の水曜日に検査を受ける予定です。私たちは医師と計画をたて、まずチェイスの筋緊張から診てもらうことにしています。今のところチェイスは自力で座っていられますし、両足に少しは力を加えられるようになりそうです──それでも、立とうとすることには、まったく興味がないようです。


 私の赤ちゃんはクラインフェルター症候群を持っているかもしれません。ですが、そのことで息子という人間のすべてが決まるわけではありません。クラインフェルター症候群とともに歩む私たちの旅路には、たくさんの障害物があることでしょう。それでも私たちは、チェイスを間違いなく幸福で健康にしてくれることなら、何でもする準備ができています!


(この体験談は有志の方に翻訳していただきました。ありがとうございます!)

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海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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