私の名前はマイアです。26歳。大学で生物学と女性学を学びました。今は医学部にいます。
アンドロゲン不応症(AIS)を持つマイアさんを紹介しましょう。彼女はインタヴューで、自分の体の状態、彼女にとって性別の意味するもの、そしてなぜ小麦粉を使わないチョコレートケーキの方が好きなのか答えてくれています。
あなたは誰ですか?
私の名前はマイアです。26歳。大学で生物学と女性学を学びました。今は医学部にいます。
あなたが診断された体の状態はどういうものなんですか?
私はアンドロゲン不応症という体の状態を持ってます。遺伝子から関わるもので、染色体としては私はX染色体とY染色体の両方を持ってるんです。でも私の体は胎児期からテストステロン(男性ホルモンとも呼ばれています)にまったく反応しないタイプのAISで、それで私は男の子にはならなかったんです。
こういう体の状態は、「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)」と呼ばれていますが、私は「私の体の状態(my condition)」や「私のAIS」と呼んでます。
私は女の子に生まれましたし、いつだって常に女の子です。
そういう体の状態があなたに意味するものは?
私の体の状態はつまり、私は女の子(female)なんだということを意味します。私は女の子(female)に生まれましたし、いつだって常に女の子(female)です。私は他の女の子とは違う道を通って女の子になったんです。
私には子宮はありませんが、膣がある状態で生まれました。私の性腺は卵巣ではありませんが、卵巣があるのと同じ位置にあります。
ですが,私の性腺は最終的にエストロゲン(女性ホルモン)を作り出すことになるんです。ちょっと面白いでしょ?
ただ,私の性腺は配偶子は作り出しませんので、私には自分自身の赤ちゃんを授かる方法がありません。(なので私は、然るべき時が来たら、養子縁組などで家族を作りたいと思ってます)。
私には生理がありません。なので痛みもない。生理が起きるホルモンがないんです。アンダーヘアもあまりない。実は体臭もないんです。これってすごくないですか? 私は手術しなければホルモンを服用する必要もないんですから。(訳者注:AISを持つ女性の体は、テストステロンにまったく,もしくは一部しか反応しませんが、テストステロンが脂肪内で転換されたエストロゲン(女性ホルモンとも呼ばれる)には完全に反応します)。
私には大きな支えがあって幸運だったと思います。最新の文献にアクセスできたのも良かった。自分の体についても、ちゃんと説明を受けた上で自分で治療をどうするか決めることもできました。他の女の子たちにもちゃんとこういう機会が与えられるようになってもらいたいです。
アンドロゲンにまったく反応しないタイプのAISについては、性腺をそのままにしておくというのも選択肢のひとつだと思います。もちろん性腺摘出が必要な体の状態もあります(訳者注:一部反応するタイプのAIS女性の場合は,性腺の位置が原因でがん化の可能性があるなど,性腺の摘出が必要になります)。
他のタイプのDSDsを持つ人々の中には、外科手術を受けてホルモンを服用することを選ぶ人もいますが、それがそれなりに辛いということもあります。
それで分かったんです。私には子宮がないことが。
自分の体が分かった時というのはどんなでしたか?
それが実はちょっと面白いんです。3歳かその辺、まだ小さい時、はじめて母親の生理を見たんです。大きくなったら私にも来るのよとその時教えてもらいました。私はずっと耳にピアスを入れたがってたので、生理が始まったらピアスを入れてもいいよと母は言ってたんです。
ですが、15、16歳になっても生理が来なくて、私は不安になりました。母と病院に行ったんですが、そこでは理由は分かりませんでした。いくつか検査をして、エコーもとりました。それで分かったんです。私には子宮がないことが。私には決して生理がないことも。
それを知らされて、私は両親の方を向いて、「じゃあもう今日からピアスを入れていいよね!」って私は言ったんです。それですぐに予約を入れて、ピアスを入れてもらって(笑)。その時はそれがどういうことなのか、自分でもよく分かってなかったんです。
それを知らされて、私は両親の方を向いて、「じゃあもう今日からピアスを入れていいよね!」って私は言ったんです。それですぐに予約を入れて、ピアスを入れてもらって(笑)。その時はそれがどういうことなのか、自分でもよく分かってなかったんです。
自分が何者であるか、自分がどうなっていきたいかということも、診断されてからも全然変わりません。
知り合いにはどう説明してますか?
私は小麦粉(グルテン)を使わないチョコレートケーキみたいなもの。私には小麦粉がなかった。でもだから、チョコ味の濃いチョコケーキみたいになったんです。
私は、ここでは話したほうがいいだろうという場面では話してます。でも完全にというわけじゃない。それがどういうことなのか全部話す必要はないですから。誰に話すかということで決めてます。
単純に「生理がない」って言ってるかな。それは話の一部だけですけど、だって他にもたくさんの女性がいろいろな理由で生理が来ないっていうこともあるから。ホルモンを飲んでる女性もいれば、家族計画で調整してる人もいる。いろいろな体の状態があるし、アスリート選手とかだったら、たくさん走って生理が来ないってこともありますから。
事細かに話す必要はないと思ってます。誰かが無理やり訊いてきても、「生理がないけど、お医者さんもそれでいいって言ってるから」ってしか言わないこともできるから。
自分が安全安心と感じられる範囲を超えてまで話そうとは思いません。大丈夫だ、大丈夫な人だと思えた時なら、子どもが授かれないとまで言うかもしれない。でも全員がそれを知る必要はないと思ってます。そういう考えは、自分の体の状態を知った16歳よりも前からずっと同じです。自分が何者であるか、自分がどうなっていきたいかということも、診断されてからも全然変わりません。
DSDsというのは、「私はレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー」みたいなアイデンティティカテゴリーとは全く違うんです。
自分の体のことを話すとき、なぜ仮名を使いたいと思ったんですか?
「マイア」と言う名前を使う一番の理由は、自分のことを知ってもらう人は一部だけにしておきたいと思ってるからです。ですが、DSDs:体の性の様々な発達(「インターセックス」って呼ぶ人もいますが,私は使いません)がどういうものなのか知ってもらえるよう、啓発ができるよう下地を作っていきたいと思ってるので、こういうふうに仮名でお話してます。
親戚も全員が私の体のことを知ってるわけではありません。別に隠してるわけじゃないけど、こういう体の状態が私の女性としての存在を変えるわけじゃないんです。AISは単純にただの体の状態でしかなく、どう家族を作っていくかその方法を考えていく始まりでしかないんです。自分の存在の重要な部分でさえない。
私が「カミングアウト」するとしたら、私は料理が好きで、歌うのが好きで、ハイキングや薬学、学校、それに温かい抱擁が好きってことで、体の状態は私の成長のバックグラウンドでしかないんです。
大学の生物学の講義は大好きでした。ただ、少し問題もありました。テキストの中には、私の体のようなDSDsについての話は一部だけに限られていたからです。テキストを読んでいて、もっと自分のような体についての話を読みたいと思いました。DSDsについて本に書いてあることは限られていて、書いてあっても,「両性具有(半陰陽)」「異常」など,その記述の仕方には不満でした。
だから、私のような体の状態や他のDSDsを持っているということがどういうことなのか、多くの人が実はよく分かってないというのも理解はできます。DSDsというのは、「私はレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クィア(LGBTQ)」みたいな政治的アイデンティティカテゴリーとは全く違うんです。 そういう文化的・政治運動的なものとは本当に違う。そういう誤解が多いので、DSDsをどう説明していくか、本当難しくなるんです。
たとえば糖尿病のある人は「糖尿病」を自分のアイデンティティにはしないですよね。「私は糖尿病です(I am diabetes.)」とは言いません。「私は糖尿病を持っている(I have diabetes.)」と言いますよね。DSDsもそれと同じで,性別のアイデンティティでも政治的アイデンティティでもなく,ただ「持っている(I have)」だけのものなんです。
それに最近は,AISの女性も「あなたはお母さんのお腹の中で女性(female)に育ったのです」と医学分野でも書かれるようになっています。それはすごい進歩だと思っています。
「体の性の発達」と「ジェンダー」との混同が偏見を生んでいる。
「体の性の構造」と「ジェンダー」との違いについては?
それは実際とても重要なポイントです。世間の人達はその違いがよく分かってないので、多くの偏見・スティグマ,LGBTQの人々との混同が起きてくるんです。
「体の性(sex)」はあくまで女性(female)・男性(male)の体の構造のこと。出生前、出生後、体がどのように発生・発達するか、遺伝子の情報に自分の体がどのように反応して、内性器や性管が発生していくかという話なんです。そして女性(female)に生まれるルートにも,男性(male)に生まれるルートにもいろいろなルートがあるんです。
私は個人的には、あなた(女性インタヴュアー)がX染色体とY染色体を持っていても全然問題ないと思ってます。それはトランスジェンダーの人々の性自認の話ではありません。だって,染色体がXYでも,体も心も女性に生まれ育つということは私のように現実にあることなんですから。DSDsで大切なのは自分の体がどのように発生・発達したか?ということなんです。
一方、ジェンダーというのは、自分が何者であるかという理解に関わることで、女性・男性の「体の性の構造(sex)」と、「ジェンダー」や「アイデンティティ」「性的指向」とはぜんぜん違うことなんです。
自分をまるごと愛してほしい。
あなたと同じような体の状態や、他のDSDを持つ若い人たちに言いたいことは?
みなさんに読んでもらってうれしいです! 私は、私たちと同じような体の状態を持つ世界中の人達と会ってきて、そういう出会いが大好きです。
こういう体の状態を持つ友達を作るっていうのは、別にずっとDSDsについてばかり話すというんじゃないです。それ以外の話をすることもある。DSDsというのはバックグラウンドでしかなく、わざわざ話すことでもないので。
でも、たとえば生理の腹痛の話に入れなかった時の想いなど、そういう話を私たちは分かってます。こういう体験を話し合う時もあるし、そういう話をわざわざする必要がない時もあります。ジョークを言い合ったり、必要なら愚痴を言ったりしています。
みんなには、自分をまるごと愛してあげてと言いたいです! 私は自分のことはチョコレートケーキのたとえで話すのが好きです。ケーキを作るにも、いろいろな方法がたくさんあるから。チョコケーキをお店で買う時も、それは卵を使ってるのか、水を使うのかバターを使うのかっていろいろある。全部混ぜる時もある。どんな方法でも、オーブンに入れて焼きあげたら、ケーキは出来上がります。
つまり私はちょっと違うチョコケーキなんです。小麦粉を入れないチョコケーキ。私には小麦粉がなかったけど、素敵なケーキを作れないわけじゃない。実は私は、普通のチョコケーキよりも小麦粉を使わないケーキの方が好きで…。これはホントなんです。フランスにいた時にレシピを教えてもらったんです。
小麦粉を使わないチョコケーキが他のケーキよりダメだってことにはならない。私は本物の女性(female)じゃないなんてことはない。私の体は生まれつき少し違う道を通って女性(female)に発達しただけなんです。
なのである意味、私の違いはひとつの特徴でもあります。そういうのってホントすごいことです。違いっていうのはクールなこと。小麦粉を使わないチョコケーキが他のケーキよりダメだってことにはならない。私は本物の女性じゃないなんてことはない。私の体は少し違う道を通って発達しただけなんです。
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)とは何か?
DSDsという包括用語で呼ばれるこのような体の状態について、もう少し説明しましょう。
イギリスでは毎年、約150人の赤ちゃんが、男の子か女の子か分かるのに検査が必要になります。こういう時、医療専門家たちの多職種チーム(ホルモンについて診る内分泌科医や、カウンセラー、泌尿器科医)が、丁寧に赤ちゃんを扱って、内性器(子宮や性腺など)や外性器の発達を見極め、診断するための幅広い検査を行います。
このような体の状態は、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)と呼ばれています。中には「インターセックスの体の状態」と呼ぶ人もいて、そういう人は自分を「インターセックスの体の状態を持つ人」と呼びます。
DSDsには多くの様々な原因があり、それぞれに異なった状態像になります。
その中でも最も多いのは、先天性副腎皮質過形成(CAH)と呼ばれるもので、腎臓の上にある副腎皮質(糖や塩基、そして体の性に関係するホルモンを司っている)が、多量のテストステロンを作り出すことが起きます。この体の状態を持つ女の子は、一般よりも大きめのクリトリスである場合があります。
DSDsを持って生まれた赤ちゃんの約50%は、高度の尿道下裂という一般的な診断がつきます。尿道下裂は男の子のペニスの発達に関わるものですが、実はとても多い状態です。「高度」の場合、一般よりも小さなペニスで、陰嚢がくっつききっておらず、尿道口がペニスの先端ではなく下側のどこかに開いています。
他のDSDsを持つ子どもには、精巣の発達が途中で止まったもの、テストステロンの産生がうまくいかなかったもの、体のテストステロンへの反応の仕方の違いなどもあります。つまり、DSDsの診断は出生時だけでなく、思春期前後にもあるということです。
たとえば、スワイヤー症候群という女性の体の状態では、女性の外性器と子宮はあるけれども卵巣のかわりに分化しきれなかった性腺がある女の子もいます。こういった女の子は、思春期に二次性徴がないことではじめて判明します。
さらに、アンドロゲン不応症(AIS)を持つ女の子は、精巣がテストステロンを作っても、体がそのホルモンのシグナルをまったく、もしくは一部しか反応しません。女性の二次性徴は起きても、生理だけが起きないのです。このような体の状態を持つ人はY染色体を持っていますが、まったくの女の子なのです。
こういう女性は、友人に自分の体の状態を話すことは、やはりとても難しいことになりえます。まずは体の性の発達についての医療用語を脇において、「この体の状態は自分にとってどんな意味があるんだろう?」と考えてみることです。たとえばAISを持つ女の子なら、このような体の状態は、生理がないということが第一の意味かもしれませんし、テストステロンにまったく、もしくは一部しか反応しないためにアンダーヘアや足のヘアもないことを意味するかもしれません。あるいは不妊状態が大きな意味を持っているかもしれません。その場合は家族を作る他の方法をも探していくということが必要になるでしょう。(もちろんそれは、他の不妊に苦しむ女性と全く同じなのです)。
アンドロゲン不応症(AIS)女性とは?
アンドロゲン不応症(AIS)とは、女性のDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつです。マイアさんの場合のAISでは、染色体はXYで性腺も精巣なのですが、男性に多いアンドロゲンホルモンに体の細胞が反応しない状態のために、母親の胎内の段階から、まったくの女性に生まれてきました。ですが、子宮や膣の一部がなく、生物学的な子どもを持つことができません。一般的に女性のこの体の状態が判明するのは思春期前後で、ご本人もご家族も大きなショックを受けられることがほとんどです。
マイアさんは現在、医師としてDSDsを持つ子どもたちの診療にあたってらっしゃいます。
オランダのアンドロゲン不応症の女性たちのドキュメンタリー