サラ・ウィナーさんは妊娠中に、お腹の中の男の子がクラインフェルター症候群と診断されました。ヨガ・インストラクターのサラさんは、夫と12歳の娘のライランちゃん、それに生後22ヶ月の息子のジュリアンくんとフロリダ州ネープルズで暮らしています。サラさんは、47,XXYと出生前診断のことを皆さんに知っていただくために、ご家族のストーリーを公開することに賛成してくれました。
診断:「……お腹の中の息子さんはクラインフェルター症候群を持っているかもしれません」
サラさんは38歳のときに息子のジュリアンくんを妊娠しました。38歳と言えば、たいていの医師が“高リスクの妊娠”に分類する年齢です。それでサラさんも、担当医から遺伝子検査を受けるように勧められました。それは多くの女性が比較的普通に受けている検査です。ところが結果は予想もしないものでした。ある日、サラさんが車を運転してヨガ教室に向かっていると、産科医から電話がかかってきて、「お腹の中の息子さんはクラインフェルター症候群を持っているかもしれません」と告げられたのです。
残念ながら産科医はクラインフェルター症候群のことをあまりよく知りませんでした。そこで、あらかじめグーグルで手短に検索しておいて、クラインフェルター症候群のネガティブな面を強調した時代遅れの情報を、ひとしきりサラさんに伝えました。サラさんとご家族がこれからどうするべきかは何も指示しないまま、電話での会話は終わりました。そんな知らせを突然聞かされたサラさんは困惑してしまいました。自分がパニックを起こしていると気づき、急いで路肩に車を止めて、お母さんに電話をかけました。サラさんのお母さんは特別支援学級の教師をしていて、アメリカ手話(ASL)にも堪能です。
話を聞いたお母さんはサラさんをしっかり励ましながら、ジュリアンくんがどんな困難に直面しても、あなたたち家族なら乗り越えられるときっぱり言いました。サラさんには医療従事者の叔母さんもいます。叔母さんは、クラインフェルター症候群はスペクトラム障害だということを教えてくれました。それは人によって症状の出方に違いがあり、どの程度の影響があるかもさまざまだということです。叔母さんは、見込みにすぎない診断を医師が唐突に伝えてきたことが間違っていると言いました。それから、医師が予想したような問題をジュリアンくんが持っているとは限らないと言って、サラさんを安心させました。
サラさんは気を落ち着かせてから、そのときドイツにいた夫に電話しました。彼もやはり話を聞いて混乱し、不安になりました。サラさんの夫はドイツ人です。染色体バリエーションや遺伝子疾患の治療について、彼が理解していることと、サラさんやご家族が知っていることには違いがありました。例えば、早期治療や早期介入が今のように広く行われていることを、サラさんの夫は知りませんでした。サラさんはインターネットを調べるうちに、ライアンさんと「Living With XXY」を見つけます。ライアンさんと知り合ってからのことを、サラさんはこんな風に言いました。「彼は私たちを救ってくれました。もしライアンさんと出会えなかったら、私はぼろぼろになっていたでしょう」。サラさんと夫は、すぐに羊水穿刺を受けて、息子さんの診断を確認することにしました。息子さんが生まれたあとに血液検査で確認する方法もありますが、そこまで待つことはしませんでした。
サラさんが妊娠5ヶ月目で、イスタンブールに旅行に出かけているとき、お腹の子が正式にクラインフェルター症候群と診断されたことを知らされました。産科医が電話でその結果を伝えてくるまでに、サラさんは心の準備ができていたそうです。サラさんは、この先、息子さんとご家族にどんな困難が待ち受けていようと、息子さんを愛する気持ちに変わりはないとわかっていました。ところが、息子さんにはクラインフェルター症候群の診断のほかに、脆弱X症候群という、もうひとつの診断もついていました。悲しいことに、医師は今回も不正確な情報を伝え、その症候群についてもっと正確な情報を探す作業は、サラさんにまかせてしまいました。サラさんが調べたところ、サラさん自身も脆弱X症候群を持っていることがわかりました。ただ、サラさんもジュリアンくんも「中間対立遺伝子」という状態で、この診断の影響が現れることはありません。
診断を伝える:「あなたなら、こういうことに誰よりしっかり対処できる」
こうしたことを知ってから、サラさんはショックを受け、怖くなることもありましたが、やがて気を取り直して妊娠のことに専念しつつ、間もなくひとり増える家族の世話を続けました。診断のことを伝えるのは、何人かの近しい友人と兄、それに数人の家族だけにしておきました。こんなサポート体制ができても、サラさんは自分が子供たちの世話を主に担いながら、家計も管理することを重荷に感じていました。ただ、ジュリアンくんが色々な困難に直面するかもしれないとわかっていましたから、彼をできるだけサポートして、愛情を注いであげることを望んでいました。サラさんが怯えた様子をしていたとき、親友がこう言って元気づけてくれました。「あなたなら、こういうことに誰よりしっかり対処できる」。サラさんはその通りだと思いました。もし神様が授けてくださった息子が、人より多くの困難を抱えて生きるなら、自分はその子のために最善を尽くすのみだと信じていたからです。
娘のライランちゃんは、もうすぐ生まれてくる弟の一番のサポーターのひとりでした。ライランちゃんは診断のことを知ると、サラさんの手をとって、そんなに大したことじゃないから「ママならきっと大丈夫」と言いました。それから、ジュリアンくんには特別な手助けが必要かもしれないけれど、「私は算数が得意だから、算数なら教えてあげられる!」と優しい言葉を添えました。
サラさんにとって、早期に診断を知らされたことは慰めにもなりました。「知れば知るほど、正しいことができる」と気づいたからです。「Living With XXY」と関わり続けたことも救いになりました。サラさん一家とライアンさんとのつながりは、「本当に私たちの暮らしを変えました」
XXYと共に生きる:「息子さんは最高の赤ちゃんになりますよ」
ジュリアンくんは2019年5月に体重4000グラム弱で生まれました。生まれたときに少し黄疸があり、心臓には小さな穴があいていました。穴は自然に塞がりましたが、かすかな心雑音が残っています。一家4人での生活に慣れていくにつれ、サラさんは、ライランちゃんが赤ちゃんだった頃の様子とジュリアンくんの様子には、少し違いがあることに気づきました。ジュリアンくんは生後2ヶ月で夜通し眠るようになりました。とても可愛い、愛すべき男の子です。
サラさんの目には、成長するジュリアンくんの発達にとくに遅れがあるようには見えませんでした。ところが生後11ヶ月のとき、コロラド小児病院で「eXtraordinarY Babies Study」に参加すると、Zoom越しに観察した研究者たちが、ジュリアンくんのいくつかの節目の発達に遅れがあることに気づきました。そこでサラさんは、地元の州政府の資金で行われている介入プログラムでジュリアンくんを診てもらいましたが、ジュリアンくんに遅れはないと言われました。こうしてバラバラの結果が出たあとで、サラさんはジュリアンくんのかかりつけの小児科医に相談しました。この小児科医は、当初からジュリアンくんの状態のことにとても前向きに取り組んでくれていて、このときはジュリアンくんを作業療法と言語療法に参加させるように勧めました。
ジュリアンくんは教育面を重視したデイケアに参加することになりました。そこでは同じ年頃の子供たちとお話ししたり遊んだりすることができます。各種療法を取り入れ、学習を重視した学校のような環境に2020年12月から参加したところ、サラさんには「大きな改善」が感じられました。サラさんとご家族は小児内分泌科医にも相談しています。ジュリアンくんはこの医師に大人になるまで診てもらう予定です。医師はサラさんたちが積極的に取り組んでいることをほめてくれました。
ジュリアンくんはトラックと動物が大好きな男の子です。言葉はまだ少しだけですが、手で何かを示したり、自分の意図をわかってもらおうと意味ありげな声を出したりします。ジュリアンくんはとても社交的で、ひょうきんで、ちょっとお芝居じみた仕草までするのだとサラさんは言いました。いたずら好きで、「絶妙なユーモアのセンス」を持っています。よちよち歩きの子供はみんなそうですが、ジュリアンくんも、探検したり、限界を試したり、何かの反応が返ってくるようなことをするのが好きです。ジュリアンくんは「細心の注意を払うとき、全集中モード」になるそうです。サラさんは、ジュリアンくんが写真式の記憶能力を持っていると言っています。
サラさんは努めて隠しごとをしないようにして、お子さんたちにも、そうすることの大切さを教えています。お子さんたちに自己管理とコミュニケーションを教えることを何より重視しています。この2つのスキルがあれば、ふたりが大きくなっていくときに何か大変なことがあっても、うまくやっていけると信じているからです。サラさんは、ジュリアンくんが将来、苦労したり難題に直面したりするかもしれないと思い悩んでも仕方のないことだとわかっています。そうなるかどうかは知り得ないのですから。
サラさんは、ジュリアンくんが大人になって家庭を持つことを考えるようになる頃には、生殖医療や生殖技術が進歩していることを期待しています。今はただ、ジュリアンくんのありのままの姿を見つめながら、彼に自信を持たせ、個性を伸ばしてあげることに力を注いでいます。
家族の間ではジュリアンくんの状態のことを隠していませんが、とくに知ってもらうべき理由のない人にまで広めようとはしていません。サラさんは、家族の中でジュリアンくんの状態のことを遠慮なく話せるようにしておけば、ジュリアンくんが何か必要なことがあったときに、はっきり言うことができるだろうと思っています。それに、ジュリアンくんを愛する家族が、どうすれば彼をサポートできるかに気づきやすくもなるでしょう。ご一家の地元にはXXYのコミュニティはありませんが、サラさんは「Living With XXY」に参加している他のメンバーたちと交流を続けています。サラさんの見たところ、医療のコミュニティは、患者とうまく接する方法を模索したり、家族同士をつなぐ機会をもっと作ろうと努力はしているものの、そのような人と人との交流は必ずしもうまくは扱えないようです。
もし、息子さんのXXYの診断を知らされたほかのお母様と話す機会があったなら、サラさんは、その方をぎゅっとハグしてから、こんな言葉をかけてあげたいそうです。「息子さんは最高の赤ちゃんになりますよ。今は、ご自身のわからないことを調べたり、身の回りで仲間を探したりしましょう」。サラさんとご家族はジュリアンくんの成長と発達を見守りながら、素晴らしいチームになることを楽しみにしています。
(この体験談の日本語翻訳は,有志の方に翻訳をいただきました。ありがとうございます!)
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