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「いつか、娘に伝える日まで」:アンドロゲン不応症のある少女と家族の歩み

  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

更新日:1 日前






御覧の皆様へ


 ここでご紹介するのは、まだ小さい頃に、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)の一つであるアンドロゲン不応症(AIS)が見つかった娘さんのお母さんのお話です。


 DSDsを持って生まれたお子さんを持つご家族の皆さんには、読むのが辛いところもあるかと思いますが、どのようにお子さんに話をしていくのか様々なヒントが隠されていると思います。また、「話すこと」にまつわる様々な思いも繊細に細やかに伝えられていて、お子さんを想うお母さんの気持も伝わってきます。このような思いをしているのは自分だけではないのだということを感じていただければと思います。


 DSDsを持つ子どもの親御さんたちには大きな責務が課せられることになります。自分のお子さんに、DSDについて話をするかどうか、話をするにしてもどのように話していくのかを決めていかねばなりません。それは時に命がけの決断にもなり得ます。


 私たちはそれぞれのご家族の様々な判断を尊重したいと思います。どのような決断にしても、それぞれご家族の大きな想いが込められていると思うからです。(ただし、非常に残念なことですが、親御さんの元々の罪悪感、受け止められなさ、話すということの重責感から、お子さんが親御さんから何のサポートも得られないというケースもあります。私たちはお子さんの幼少期からのご家族への心理的医療サポートが必要であると考えています)。

 

 様々な方が、このサイトをご覧頂いていると思います。DSDを持って生まれたお子さんのご両親、現に大人になった方、医療に関わる皆さん、何らかの支援ができないかとお考えの皆さん、様々なお立場の方がいらっしゃると思います。それぞれに様々な思いを抱かれることかもしれません。


 時に、DSDを持つ子どもの親御さんたちは、ただでさえ様々な思いを抱かれているところを、「勝手に性別を決めている」「本当は中性なのに」などという無理解から、不当な非難に曝され、更に追い詰められていくということがありました。


 確認しておきたいのですが、DSDを持つ子どもたちは、然るべき検査を受ければ女の子か男の子かが判明するようになっています。彼ら彼女らは、みなと変わらぬただの女性・男性です。トランスジェンダーのみなさんの性自認(性同一性)の話でさえないのです。またDSDを持つ人々の様々なサポートグループでも、「然るべき検査の上で必ず男性か女性かを判定してください」と主張されています。DSDをジェンダーの問題だけで見ようとする視点は、大変偏った視点(偏見)で、多くのご家族を更に苦しい立場に立たせることになります。


 私たちが大事だと思うのは、とにかく、ご家族・ご本人そのままの想いを、そのままに、ありのままに、受け止めていくことだと思っています。どうか、無理解や偏見・色眼鏡から、人としての想いを忘れることがないようお願いしたいと思います。


 私たちは「性のグラデーション」でも「男女の境界の無さ」でもありません。むしろそのようなご意見は、私たちの女性・男性としての尊厳を深く傷つけるものです。


 アンドロゲン不応症をはじめとするDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「女性にもいろいろな体がある、男性にもいろいろな体がある」ということです。


 どうか、お間違いのないようにお願い致します。


 詳しくは「DSDsとは何ですか?」のページをご覧ください。




 




 レナーテさんとご主人の間には5人のお子さんがいます。一番上の長女ララちゃん(9歳)には「完全型アンドロゲン不応症(CAIS)」があります。生後数ヶ月の時に判明しました。




1.娘のCAISが分かったきっかけ



 娘は間違いなく女の子です。でも、XY染色体(一般的には男性型とされる染色体構成)を持ち、テストステロン(男性ホルモン)に身体がまったく反応しないため、子宮は作られませんでした。


 私たちが「AIS」という存在を最初に知ったのは、私の妹を通じてでした。


 妹が18歳になった時、まだ一度も生理が来なかったため受診しました。多くの検査を受け、ホルモン剤で出血を促す試みなどを重ねた長い待機期間を経て、妹には完全型アンドロゲン不応症(CAIS)があることが分かりました。


 当初、私たちはそれが具体的にどういうことなのか理解していませんでした。「子宮がない」ということは分かっていても、家族の中で深く話題にすることはありませんでした。詳しい内容も知らないままでした。


 でも2003年のクリスマス、妹が家族を集め、医療ドキュメンタリー番組の録画を見せてくれたのです。


 「これ、私の体のことなの」


 妹はそう言いました。


 番組で完全型アンドロゲン不応症(CAIS)が丁寧に特集されていたことで、それ以降、私たちは隠し立てすることなくオープンに話し合えるようになり、ごく自然な事実として受け止めることができました。




2.娘の出生と、CAISへの気づき



 私がこの状態を自分自身も遺伝的に保持(キャリア)しているかもしれないと考え始めたのは、一人目の子どもを妊娠した時でした。確率(キャリアの可能性)は50%あり、事実を確かめたいと思ったからです。


 妹と私の精密検査には数ヶ月を要しました。その検査期間中に長女のララが出生したのですが、乳幼児健診(保健所)で「両側に鼠径ヘルニア(付け根の腫れ)がありますね」と指摘されました。


 私は事前に知識を得ていたため、「これはただのヘルニアではないかもしれない」とすぐに察しました。CAISの身体的兆候である可能性があったからです。


 それは非常に感情が揺さぶられる時期でした。出産したばかりの段階で「両側の鼠径ヘルニア」と告げられたからです。


 でも同時に、目の前には愛おしい赤ちゃんがいて、毎日私たちを心から幸せにしてくれていました。


 結果として、ララに完全型アンドロゲン不応症(CAIS)があることが早期に判明しました。


 赤ちゃんの時期を過ぎて以降、定期的な病院通いはしていません。緊急の治療が必要な状態ではないからです。2年に一度、体調確認の電話連絡を取り合う程度で十分足りています。




3.私にとって、CAISは娘の体の状態の一つに過ぎません。



 私にとって、完全型アンドロゲン不応症(CAIS)は純粋に体の「生物学的な状態」の一つに過ぎません。


 ララ自身、自分の性自認に何の迷いも混乱もありません。彼女は心も身体も完全に女の子です。

 

 XY染色体を持っていますが、彼女は女の子に生まれましたし、どこからどう見ても女の子なのです。




4.医療者の理解不足に戸惑ったこと




 一般の医療従事者や、自称「支援者」の不理解に戸惑わされたこともありました。


 悪気はないものの、かかりつけ医などで知識不足が見受けられました。乳幼児健診の現場でも、無茶な決めつけをされることがありました。


 「将来は女の子を好きになるかもしれないから覚悟しておいた方がいい」


 「男の子向けのおもちゃ(ミニカーなど)で遊びたがるかもしれない」


 「この子は今、男の子なのですか? それとも女の子なのですか?」


 と質問されたことさえあります。


 知識がないにもかかわらず、先回りしてアドバイスしようとする姿勢に、私は「お願いだから、一度しっかり勉強してきて!」と感じざるを得ませんでした。


 オムツを替える時に何か変わった外見が見えるのではないかと勝手に身構える人さえいました。


 そのため、私は娘の体の状態について丁寧に説明した手紙を書き、資料として提出しました。その手紙は今も娘のカルテの最後に保管されています。


「私にとって完全型アンドロゲン不応症(CAIS)は自然な体の状態の一つです。ララ自身、自分の性自認に何の迷いもありません。彼女は性自認の話ではなく、女の子に生まれましたし、心も体も間違いなく女の子です」



5.元気に成長するララと、親としての準備



 ララは毎日を伸び伸びと楽しみ、とても元気に過ごしています。後から生まれた弟や妹たちの面倒をよく見て楽しんでいます。


 現在9歳になった彼女に対し、将来成長するにつれて自分の体に起きる「他の人との違い」について、少しずつ心の準備をさせてあげようと試みています。


 我が家の育児方針として、「人間は誰もがそれぞれ異なっていて、見た目も感じ方も人それぞれなんだよ」ということを普段から強調しています。


 最終的にララ本人へ「あなたの体には具体的にこういう特徴があるんだよ」と打ち明けるための最善の方法を、私たちは今も模索しています。




6.「子どもを持つ」ということをどう伝えるか



 私たちは子どもたち全員に対して、「子どもを授かることは決して当たり前のことではなく、望んでも叶わないこともあるんだよ」と伝えるようにしています。


 これは我が家にとって大切な命の教えであり、将来自分で妊娠することができないララにとっても、大切な心の準備となります。


 もちろん、妊娠・出産ができなくても、将来子どもを迎えて育てる道が閉ざされるわけではありません。




7.「生理」の話から少しずつ伝えていく



 最近では、ララとその妹と一緒に「生理(月経)」についての話をすることもあります。思春期を迎える年頃として自然な会話です。


でも、私は無意識のうちに、ララと妹とで言葉選びを変えている自分に気づきます。


ララに対しては「女の子の体はね、こういう仕組みになっているんだよ」と一般的な表現を使い、妹に対しては「あなたが将来生理になった時はね」と話しかけているのです。


無意識にそうした配慮が身についていました。


こうした日常の何気ない会話はとても良いステップだと感じています。


ここから少しずつ、「すべての人が生理を経験するわけではないし、すべての人が子どもを産んだり子宮を持ったりしているわけではないんだよ」という話へと広げていくことができるからです。


こうしたテーマを切り出すのは、親にとっても時に難しい作業です。




8.「遅すぎず、早すぎず」――伝えるタイミング



打ち明けるのが遅すぎて娘から責められるのは避けたい。でも早すぎて友達に話せず思い悩ませてしまうのも避けたいのです。

 CAISについての詳しい事実を今すぐ直接打ち明けるつもりはありません。


 せっかくの無邪気で幸せな少女時代を、余計な悩みで邪魔したくないからです。


 でも、私の心の中には常に大きな問いが存在しています。


 「いつ、どのようにして彼女に伝えればいいのだろう? そして彼女はどんな反応をするのだろう?」


 そのことばかり考えています。



9.同じ経験を持つ家族とのつながり



 ある時、DSDs患者家族の会を通じて、同じように2人の娘さんを持つお母様とつながる機会を得ました。


 「いつ、どのようなタイミングで具体的な話を伝えたのか」を経験者として尋ねるためです。


 伝えるタイミングが遅すぎるのは避けなければなりません。


 例えば、いつ来るとも知れない生理を娘がずっと待ち続けてしまうような事態は避けたいですし、「どうして今まで教えてくれなかったの?」と親を責めるようなことになってほしくありません。


 でも逆に、伝える時期が早すぎて、同年代のお友達にも相談できずに一人で悩みを抱え込み、傷ついてしまうことも避けたいのです。


 これから先、同じような経験を持つ他の親御さんの方々と「どのように向き合ってきたか」について意見交換ができる場があれば、とても心強いと感じています。


 まさに今、同じ年齢の娘さんを持ち、同じ課題に直面しているご家族と出会えることは大きな支えになります。



10.同じ体の状態を持つ友達との出会い



 いつの日か、ララと一緒に患者家族会の集まりに参加し、彼女と同い年で同じ体の状態を持つ女の子たちに出会わせてあげられたら、どんなに素晴らしいでしょう。


 自分と同じ境遇の友人が存在し、思いを分かち合える相手がいるということは、娘にとって何より大切な支えとなるはずです。



11.親として、答えを探し続ける


 親としてこの問題に向き合っていく過程は、試行錯誤と探求の連続であり、これからもそれは続いていくでしょう。


 「いつ、どこで、どのように、誰と一緒に伝えるべきなのか」。


 私たちは自分たちの手でその答えを見つけ出し、形作っていかなければなりません。


 最終的に、その事実をどのように受け止め、誰に打ち明けていくかを決めるのはララ自身です。


 私たちは今、その探求の道のりのスタート地点に立ったばかりですが、10年後にはきっと、今とは全く違う前向きなストーリーを語っているはずです。







アンドロゲン不応症女性(AIS女性)とは?




 アンドロゲン不応症(AIS)とは、女性のDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつです。このアーリーンさんのふたりの娘さんのAISでは、染色体はXYで性腺も精巣なのですが、男性に多いアンドロゲンホルモンに体の細胞がまったく(完全型)、もしくは一部しか反応しない状態(部分型)のために、母親の胎内の段階から、まったくの女性に生まれてきました。ですが、生まれた時に性別判定検査が必要であったり、子宮や膣の一部がなく、生物学的な子どもを持つことができません。








アンドロゲン不応症(AIS)等のXY女性はなぜ女性(female)に生まれ育つのかについては,以下を御覧ください(画像をクリック)。












コメント


海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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