雲の上に浮いているような数日間でした。:部分型のアンドロゲン不応症(AIS)女性の娘さんと家族の物語
更新日:3 日前

御覧の皆様へ
私たちは「性のグラデーション」でも「男女の境界の無さ」でもありません。むしろそのようなご意見は、私たちの女性・男性としての尊厳を深く傷つけるものです。
アンドロゲン不応症をはじめとするDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「女性にもいろいろな体がある、男性にもいろいろな体がある」ということです。
どうか、お間違いのないようにお願い致します。
詳しくは「DSDsとは何ですか?」のページをご覧ください。
DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつで、出生時に性別がすぐにはわかりにくい「女性の部分型アンドロゲン不応症(PAIS)」を持って生まれた娘・ミラちゃん(5歳)を育てる夫婦の体験談です。
さまざまな検査によって「女の子」と判定されたミラちゃん。出生直後の混迷や性別がすぐには分からないという手探りのプロセスを経ながらも、夫婦は「どんな姿であっても大切な我が子」という強い思いで我が子を抱きしめてきました。
トランスジェンダーの人々との混同などの周囲の視線や、自分自身の固定観念に揺れることもありつつ、成長に合わせて真実をどう伝えていくか、将来の選択肢をどう残してあげられるかを真摯に模索する姿が描かれています。
人それぞれの体の違いをそのまま受け止め、娘さんが自分らしい歩みを選べるよう温かく寄り添い続ける家族の愛情が詰まった体験談です。
マリーンさん(35歳)とロベルトさん(36歳)は、外性器の形に特徴を持って生まれたミラちゃん(5歳)の両親です。出生から2年を経て、最終的に「部分型アンドロゲン不応症(PAIS)」という診断が決定しました。
1. 突然の戸惑いと名前への願い

体の状態にはいつ頃気づいたのですか?
母(マリーン): 20週目のエコー検査の際、「女の子ですね」と言われていました。ただ、上のお兄ちゃんが生まれた時にとても大きかった(約4,250g)ため、30週目の時点で成長具合を確認する検査を勧められました。その際、クリトリス(陰核)が少し大きめであることが確認され、性別の判断に迷いが生じました。
「大きめのクリトリスを持つ女の子」かもしれないし、「尿道下裂のある男の子」かもしれないと言われました。大学病院へ紹介され、胎児の染色体がXXなのかXYなのか調べる血液検査を提案されました。でも、感染症や早産のリスクがあること、そして私たち自身が生まれる前に性別を特定することを望んでいなかったため、検査は受けないことにしました。男の子でも女の子でも、どちらでも大切な我が子であることに変わりはなかったからです。
出産の時はどのような様子でしたか?
母: 地元の病院での出産はとてもスムーズに進みました。でも、無事に生まれた後、スタッフの方々からの言葉は「おめでとうございます」だけで、「元気な男の子(女の子)ですよ」という言葉はありませんでした。
自分たちの目で見た印象からは女の子だと思っていたのですが、立ち会った小児科医から「膣の開口部が閉じており、男の子か女の子かはここではすぐに判定することはできません」と説明を受けました。尿路の形成に問題がある可能性があったため、至急、大学病院へ搬送されることになりました。ちょうど五旬節の連休が始まるタイミングでした。
到着後、我が子はすぐに様々な医療器具に繋がれました。なぜそのような処置がされているのか、その場では十分な説明がありませんでした。衣服も着せてもらえず、ミルクも飲めず、ずっと泣いている姿を見るのは本当に辛かったです。まるで「医療の観察対象」として扱われているように感じてしまいました。
後から分かったことですが、これは「先天性副腎皮質過形成(CAH)」などによる重度の塩分喪失といった、生命に関わる緊急事態が起きていないかを大至急確認するための検査だったのです。ただ、当時の私たちには知る由もありませんでした。
2時間ほど経って命に別状がないことが分かり一安心しましたが、「子宮、卵管、精巣は確認できず、現時点では男の子か女の子か判断できない」と告げられました。詳しい専門医との話し合いは数日後になるため、それまでは性別が分からない状態のまま過ごすことになりました。それでも名前を呼んであげたかったので、私たちはこの子を「ミラ」と名付けることに決めました。
2. 女の子の判定と周囲への姿勢

性別の届け出について選択を求められたのですか?
母: オランダでは出生届の際に性別を登録する必要があります。通常は生後3日以内ですが、私たちの場合は2日間の猶予が与えられました。(訳者注:日本では出生届は14日以内とされています)。私たちは元々女の子を迎える準備をしていて、ベビーシャワーでもピンク色のギフトをたくさん頂いていました。そのことが多少意識に影響したかもしれませんが、それが理由で女の子を選んだわけではありません。
病院からの「部分的アンドロゲン不感症(PAIS)の可能性がある」という見解と、さまざまな検査の結果、女の子であれば将来の性別違和の可能性は非常に少ない、女の子と判定できますというアドバイスを参考にしながら、インフォームドチョイスとしての最終的な判断を私たちに委ねられたため、女の子に届けることに決めました。
周囲の方々に性別がまだわからないことを伝えるのはどうでしたか?
母: 私たちはとてもオープンに、ありのままを話しました。上のお兄ちゃんに続いて、また一人元気な赤ちゃんを迎えることができたという喜びが何より大きかったからです。でも、世の中が「ピンク(女の子)か水色(男の子)か」という二者択一で成り立っていることを改めて実感させられる機会でもありました。
私たちは出産のお祝いの飾り付けに「バートとアーニー(セサミストリートのキャラクター)」を選びました。お兄ちゃんのためにも賑やかにお祝いしたかったからです。親族は私たちの受け止め方を温かく見守ってくれました。周囲のほうが私たち以上に困惑していたかもしれません。
2回目のエコー検査の時点で、性別の判断が難しいことは分かっていたのですか?
母: 当時は「尿道下裂のある男の子か、大きめのクリトリスを持つ女の子の可能性がある」という話で、生まれた時に確認すれば分かるだろうと言われていました。性別の判定自体がこれほど難しくなるとは思っていませんでした。
当時は不安や心配がありましたか?
母: 赤ちゃんの体に危険がないかどうか、健康面だけが心配でした。男の子か女の子かという点については、どちらであっても愛おしい存在であることに変わりはないので気になりませんでした。結果として命に関わる状態ではないと分かり安堵しました。
出生後の詳しい検査ではどのようなことが分かりましたか?
母: 生後数日が経ち、大学病院で改めて精密検査を受けました。染色体検査の結果は「46,XY」でした。胎児期における発達の歩みが個性的であったため、子宮や卵管は形成されず、膣の深さが浅めで、クリトリスが大きめという特徴を持っていることが判明しました。連休中の不安な時期に、状況を丁寧に解説し、寄り添ってくれる専門スタッフがいてくれたらもっと心強かったと感じています。
精巣は見つからなかったのですか?
母: その時点では確認できませんでした。でも、2歳頃に鼠径(そけい)ヘルニアの観察腹腔鏡手術を行った際、下腹部の深い位置に性腺(精巣)が存在していることが確認されました。本人に痛みが観察されたわけではありませんでした。
3. 親としての葛藤と成長を見守る日々

最終的に家族が性別を決定するということに葛藤はありましたか?
母: はい。さまざまな検査から、医療チームからは女の子と判定はいただきましたが、最終的には私たちが決定をしなくてはいけません。自分たちの決断を受け入れるのにも時間がかかりました。
最初は周囲に「まだ分からない」と伝え、その後「女の子」と報告したのですが、その選択には大きな責任を感じました。最初の3年間は髪の毛が少なく、ピンク色の服を着せていても「可愛らしい男の子ですね」とお声をかけられることが度々ありました。そのたびに心が揺れ、「これで良かったのだろうか」と悩み、最初はドレスを着せるのにも躊躇がありました。
男の子向け・女の子向けといった固定観念に縛られず育てたい思いがありつつも、「女の子らしくいることを押し付けてしまっていないか」と自問自答することもありました。私たちは最初から、「女の子ではあるけど、将来ミラ自身がどのように自分を感じ、歩んでいきたいかを大切にし、全力でサポートしていく」と決めています。
ミラちゃんはどのようなお子さんですか?
母: いわゆる「典型的な女の子らしさ」にこだわるタイプではありません。ドレスに夢中になる時期もありましたが、妹のように人形遊びばかりをするわけでもありません。
私自身もボーイッシュな服装が好きで、子どもたちにも動きやすい服を着せています。我が家で一番アクティブなのは私かもしれません(笑)。だから遊びの好みと性自認は直接関係ないと思っています。
ミラは自分らしく活き活きと毎日を楽しんでいます。もし将来、別の生き方を選びたいと言い出したとしても、他のお兄ちゃんや妹と同じように、彼女の意志を尊重し全力で応援します。
周囲や近所の方々にはどのように説明していますか?
母: ミラが生まれた当時、私たちは噂が広まりやすい小さな村に住んでいました。家族や身近な友人にはオープンに話していましたが、村全体に知らせる必要はないと考えました。保育園でも特別な配慮が必要な場面がなかったため、伏せていました。
ミラが自分自身のタイミングで周囲に伝えられるよう、守ってあげたかったからです。現在、小学校に通い始めてからは、定期検診で通院する必要があるため、担任の先生には事実をお伝えしています。
周囲の反応で戸惑うことはありますか?
母: 疑問に思われるのは理解できますが、「間違った身体に生まれてきた(トランスジェンダー)」と混同されると少し困惑してしまいます。テレビでトランスジェンダーの番組が放送されると、「こんな番組があったよ」と親心で教えてくる方もいます。
毎回細かく訂正することはせず、「教えてくれてありがとうございます」と感謝を伝えるにとどめています。オープンに話す機会が増えるにつれて、私たち自身の気持ちもより自然体になってきました。
ミラちゃん自身から質問してくることはありますか?
母: 5歳になり、少しずつ新しい段階に入ってきました。病院へ行く際、以前は何も疑問を持たずについてきてくれましたが、最近は「どうして病院に行くの?病気じゃないのに」と尋ねるようになりました。以前は「お腹の傷跡を診てもらいに行こうね」と説明していましたが、だんだんと言葉を選ぶ必要があります。
まだ複雑な仕組みを理解できる年齢ではありません。「昔は男の子で、途中から女の子になった」といった誤解をしてお友達に話してしまうと、いじめに繋がる恐れもあるため守ってあげたいと考えています。でも同時に、「隠し事をしなければならない」という負担を背負わせたくもありません。「大切なプライベートのことだから、誰にでも話す必要はないんだよ」と優しく伝えています。
体の状態について、どのように伝えていますか?
母: 家庭内での性教育についてはとてもオープンに話しています。動物園や牧場に行った際にも生命の仕組みについて話し、お父さんとお母さんから命が生まれるプロセスを自然な言葉で説明しています。病院からも「早い段階から基本の体の仕組みを伝えることで、自分の特徴も肯定的に受け入れやすくなる」とアドバイスを受けました。妹とお風呂に入っている際も、「ミラは緑色の目、妹は青色の目」「ミラのクリトリスは大きめ、妹は小さめ」というように、お互いの個性・違いとして楽しく話しています。
4. 未来へつなぐ選択肢

医療の現場では「障害」ではなく「体のバリエーション」と表現されるようになってきていますが、どう感じますか?
母: 医療的な視点からは平均的な発達と異なるため「違い」と表現されますが、人間誰しも何かしらの個性を抱えていると思っています。目が悪い人もいれば、耳が聞こえにくい人もいます。平均値と比較すれば「人とは違う部分」かもしれませんが、私たちは「みんなそれぞれ違って当たり前」という価値観で育てたいです。
「失読症がある」「ADHDの傾向がある」のと同じように、「私にはアンドロゲンに対する感受性の状態がある」と、ありのままの自分を受け入れて成長してほしいと願っています。
おもちゃの選び方などで気にしていることはありますか?
母: 幼い頃は少し意識してしまうこともありました。人形遊びをしている姿を見ると、「将来自分で子どもを妊娠することは難しいのかもしれない」と胸がキュッとなることもありました。でも、本人が好きでお人形あそびを楽しんでいるのを見ると「女の子の判定で良かった」とほっとすることもありました。
本来、男の子が人形であそんでも、女の子がミニカーであそんでも自由です。大きくなった今の活き活きとした姿を見ていると、そうした心配も自然と消えていきました。
患者家族会にはまだ参加していませんが、ミラが将来疑問を持った時にしっかり答えてあげられるよう、今後は情報収集を進めていきたいと考えています。SNSなどではネガティブな体験談が目につくこともあるため、過度に振り回されないよう注意しています。将来的に同じような特徴を持つ仲間(当事者グループ)と交流できる機会を作ってあげたいと思っており、それをどう活かすかはミラ自身の選択に委ねたいです。
その後の検査で新しく分かったことはありますか?
母: 確定診断(部分的アンドロゲン不感症)に至るまで2年という歳月がかかりました。海外の医療機関の協力も得て遺伝子解析を進めました。その過程で、嚢胞性繊維症(CF)のキャリア遺伝子の組み合わせから「CFを発症する可能性がある」と言われ、一時的に大きなショックを受けました。
でも、数ヶ月前の再検査で「CFの発症可能性はない」と判明し、心から安堵しました。原因を追及する研究は続いていますが、これ以上の過度な遺伝子検査は希望していません。将来の病気のリスクを知りすぎることで、保険の加入や住宅ローンの組やすさなど、将来の選択肢を親が狭めてしまう恐れがあるからです。本人の知る権利と意思を尊重したいと考えています。
将来に向けた重要な選択(性腺の処置)について
母: お腹の中に残っている性腺(精巣)の処置について考えています。最初は「悪性腫瘍化のリスクを避けるため、4歳までに摘出手術を行う」という方針で病院と一致していました。現在は悪性化のリスク管理と、ミラが今女の子としてとても幸せに過ごしている様子を考慮しながら、医療チームと慎重に話し合いを重ねています。
通院の頻度や普段の生活の様子は?
母: 小児科と小児泌尿器科へ年に1回ずつ通院しています。尿路系の機能や排尿圧を慎重に観察していますが、現時点で日常生活に支障はありません。日中は2〜3歳頃から問題なく過ごせており、夜間の経過を見守っている段階です。お薬の服用もありません。心理的なケアや性自認の発達についても病院から手厚いサポートを受けており、必要な時にいつでも相談できる体制が整っています。
お母様から、将来のミラちゃんへ向けて考えている特別な取り組みがあるそうですね?
母: はい。ミラには子宮や卵巣がないため、将来子どもを望んだ際に自力で妊娠・出産することができません。もし本人が希望した際、選択肢のひとつとして私の卵子を凍結保存しておき、将来代理母出産などを通じて活用してもらえないかと考えています。
法律や倫理面、血縁関係(ミラにとっては弟や妹であり、我が子でもあるという複雑な関係)など考慮すべき課題はたくさんあります。でも、自分と繋がりのある命を感じられる選択肢を遺してあげたいという思いがあり、専門のクリニックで相談を始めています。自分自身が高齢になってから出産することは考えていませんが、卵子という形で選択肢を準備してあげたいです。まずは私たち夫婦がこれ以上子どもを望まないことを確定させた上で、安全に進めていきたいと考えています。
アンドロゲン不応症女性(AIS女性)とは?

アンドロゲン不応症(AIS)とは、女性のDSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)のひとつです。このお父さんの娘さんのAISでは、染色体はXYで性腺も精巣なのですが、男性に多いアンドロゲンホルモンに体の細胞が一部しか反応しない状態(部分型)のために、母親の胎内の段階から、まったくの女性に生まれてきました。ですが、生まれた時に性別判定検査が必要であったり、子宮や膣の一部がなく、生物学的な子どもを持つことができません。
アンドロゲン不応症(AIS)等のXY女性はなぜ女性(female)に生まれ育つのかについては,以下を御覧ください(画像をクリック)。




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