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成長する子どもが自分の「物語」を理解するためのヒント:性分化疾患による外性器の違いのある男の子と家族の物語

  • 8月1日
  • 読了時間: 10分





御覧の皆様へ


 尿道下裂とは男の子・男性のDSDsであらわれる外性器の状態で、生まれた時、尿道口の位置が陰茎の先端ではなく、陰茎の下側、陰茎の途中から陰嚢にかけてのどこかに開いた状態です。日本では男の子の1,300人に1人の割合で起きると言われています。そのほとんどが尿道口が陰茎の先端から少しずれた「軽度尿道下裂」ですが、陰嚢に近いところに尿道口が開いている「高度尿道下裂」の場合は、ペニスが小さく、外性器の見た目だけでは性別がすぐには分からない状態であり、然るべき検査が必要になり、その多くが陰茎が弯曲した状態です。


 そしてこれは時代によってもかなり異なりますが、他の男の子と自分との違いや、自分の男性性・男らしさを損なわれるのではないかという恐れから、不安や,自信喪失、友人関係・恋愛関係から遠ざかってしまう人もいます。ですが、昔の時代を生きてきた男性たちはかなり辛い思いをしながら生きてこられていましたが、欧米の最近の世代の男性たちは、医療での支援やサポートグループが整備されたことから、これも一つのちょっとした違いに過ぎないと思える人も多くなってきています。


 ここでは外性器の違いをもって生まれた男の子の親御さんの体験談をお送りします。小学校入学を迎える息子さんが、自身の体の違いを受け入れ自信を持って過ごせるよう、お母さんは専門家とともに、息子さんの学校での周囲との「違い」に対する不安やトイレの問題に向き合っていきます。家庭と医療の連携によって子どものレジリエンス(折れない心)を育んだ、スコットランドのお母さんによる心温まる実践の手記です。


 性分化疾患についてどのように話せば良いのか,どのようなサポートが必要なのか,同じ立場にある親御さんの皆さんにも参考になる体験談です。


 外性器の違いのある男の子・男性をはじめとするDSDsは,「性のグラデーション」でも「男女の境界の無さ」でもありません。むしろそのようなご意見は、私たちの女性・男性としての尊厳を深く傷つけるものです。


​ 外性器の違いのある男の子も男の子に変わりなく、DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「生物学的にも、女性にもいろいろな体がある、男性にもいろいろな体がある」ということです。


  どうか、お間違いのないようにお願い致します。


 詳しくは「DSDsとは何ですか?」のページをご覧ください。







成長する子どもが自分の「物語」を理解するためのヒント:そして、手術などの介入や選択にかかわらず、DSDsを持つ子どもとその保護者に対する継続的支援において、小児心理サービスの利用がなぜ不可欠であるかについて。



(1)息子が自分を理解するために⋯


 息子が小学校に入学するにあたり、彼が自分の生まれたときの物語や、自分の体がどのように成長してきたのかを理解し始める重要な時期だと考えました。


 家庭でもそれについて話したことはありました(お風呂で幼い弟の体が自分と明らかに違うのを見て息子が理由を尋ねてきたときや、尿漏れを防ぐために最後まできちんとおしっこを出す時間を長く取ることがなぜ大切なのかを説明するときなど)。


 でも、小学校に通うということは、男の子とは何か、女の子とは何かについて、非常に単純で不十分な知識しか持たない大勢の集団に晒されるという、全く異なる次元の環境に飛び込むことなのだと気づいたのです。


 私は息子のことが心配で、彼が自信と回復力:レジリエンス(訳者注:困難やストレスをしなやかに乗り越え、回復する力)を持てるよう、先回りしてサポートしたいと考えました。そこで病院に連絡したところ、ありがたいことに心理士さんを紹介してもらうことができました。




(2)私たちは彼の物語の本を作ることにしました。




 小児心理士と、身体的な違いを持つ子どもを専門とする小児看護師の協力のもと、私たちは一緒に協力して、息子自身の言葉で彼の物語を伝える本を作ることにしました。


 2ヶ月間にわたり、隔週で1回1時間のセッションを行いました。時間の多くは、息子が安心して質問できる静かで心地よい空間を作ることに費やされました。


 息子は最初は参加をためらい、聞く側に回りたがったため、まずは私が息子の誕生やその後の手術について話すことから始めました。


 でも、物語が幼児期を過ぎて現在へと進むにつれ、彼はクライミングが大好きであることや、今では水中に潜れるようになったことなど、自分のアイデンティティを形作る大切な情報も入れ込みたいと言い始めたのです。


 身体の発達やその後の手術の物語を伝えつつ、彼の幼い人生における他の重要な成長の節目や瞬間も織り込むことで、彼の体は「自分自身を形作るもののほんの一部に過ぎない」のだと理解できるようになります。



(3)自分を知り愛してくれる人たち



 私たちは息子の誕生時や手術時の写真、家族や温かく見守ってくれる親戚・友人の写真を探して印刷することにしました。それらの写真を本に入れることで、自分を知り愛してくれる人が人生の中にたくさんいるのだと彼に思い出させることができます。


 これも彼の「宿題」であり、どの写真を入れるのが重要か、誰について触れる必要があるかを彼自身が選択しました。また、彼が描きたい場所には自分自身でイラストを描くよう促しました。


 息子の場合、自分の名前を3Dの巨大なブロック文字で書き、そこからページ全体に向かってあらゆる方向に水流を射出させる作業に1時間近く没頭していました!


 物語のアウトライン(骨組み)はすぐに出来上がりました。基本的なテキストは2週目の終わりまでにほぼ完成していました。


 その後は、セッションの冒頭でそれを声に出して読み上げ、「ここはなんて言ったらいいと思う?」「本当は入れておくべきなのに抜けていることはないかな?」と息子に尋ねることから始めました。


 この方法によって、セッションの始めに物語を読み返すたび、より詳しいディテールが浮き彫りになっていきました。このように繰り返すことで、彼は自分の物語に主体性を持てるだけでなく、質問を続け、自分に何が起きたのかをより深く理解できるようになりました。



(3)専門の小児看護師の先生と⋯




 物語の執筆と並行して、体の違いを専門とする小児看護師が、息子が学校に通っている間に家庭訪問をしてくれ、私が息子をサポートする方法についてコーチングしてくれました。


 彼女のおかげで、息子は自分の「違い」に名前をつけてオープンに語ることが、その問題を和らげ、偏見をなくす(脱スティグマ化する)ために重要であると気づかされました。


 私は息子に対して次のように言えるようになる必要があったのです。


 「うん、確かにあなたの大切な場所(プライベートゾーン)は他の子と見た目が違うけれど、それでいいんだよ。もし学校のトイレや着替えの場所で、誰かが偶然あなたの見た目の違いに気づいて何か言ってきたとしても大丈夫。あなたを嫌な気持ちにさせる言葉を言ったからといって、その子が必ずしも意悪だったり、いじめをしようとしているわけじゃないの。本当のところ、子どもはみんな、自分と違う見た目のものに対して自然と好奇心を持つものだからね。そう言われたときに恥ずかしがったり情けなく思ったりしないように、なんて言い返せばいいか練習しておくだけでいいんだよ」


 彼女はこのような状況を想定したロールプレイ(劇の練習)を提案し、息子に次の2つのフレーズとそのバリエーションを練習させました。


 「僕はただ、こういう風に生まれてきただけだよ」そして「赤ちゃんのときにペニス(陰茎)の手術をしたけれど、お医者さんはもう大丈夫だって言っているよ」と。この年齢の子どもたちは権威のある存在を尊重するため、「お医者さん」というフレーズを使うことで、それ以上の会話に発展するのを防げる可能性が高くなると考えたからです。



(4)私たちが理解してなかったこと⋯



 息子とこのロールプレイを試みようとしたとき、彼は非常に嫌がり、「学校ではトイレに行かないし、もし行くとしても個室を使うから、誰にも気づかれるわけがない」と言いました。


 私は以前から、彼の水筒が学校から満タンのまま戻ってくることに気づいていました。水分補給と排尿の大切さを考えると、この問題の原因を突き止める必要があると分かっていました。


 ロールプレイを行ったことで、ようやくすべてが繋がりました。息子は、たとえプライベートな部位であっても、自分に身体的な違いがあることを見られるのを非常に恐れていたのです。


 小学校の年齢の子どもたちが「周囲と一緒でありたい、馴染みたい」とどれほど強く感じているかを、私はそれまで理解できていませんでした。


 でも、ロールプレイを通じて「見た目に何か違いがあっても何も悪いことはない」と彼を安心させ、彼の根本的な不安に直接向き合うことができたのです。この取り組みを始める前には、私が完全には理解しきれていなかった不安でした。




(5)みんなの「違い」を知る



 私達は毎日、身の回りの人々に見られる大小さまざまな「違い」を指摘し合うようになりました。違いに気づくことは、それが良いか悪いか、優れているか劣っているかを判断することではないのだと話し合いました。私達の違いこそが、人生をユニークで面白いものにしてくれるのだと。


 私は息子に、自分の違いを受け入れて心地よく過ごしてほしいと思っています。プライバシーを守るための当然の配慮を超えて、自分を隠さなければならない理由などどこにもありません。もし好奇心旺盛な友達に何か聞かれても「なんて答えればいいか知っている」という自信を備えていれば、公共の場所でトイレを使ったり着替えたりすることに対しても、もっとリラックスして過度に緊張せずにいられるはずです。



(6)自分が書いた物語に任せる



 全体として、このプロセスに取り組めたことに心から感謝し、満足しています。担当してくれた小児看護師から電話番号をもらい、公式には支援が「終了(退院)」したものの、もし難しい問題が生じてどう対応すべきか分からなくなったときはいつでも電話してほしいと言ってもらえました。専門家からこのようなサポート感を得られることは、とてつもなく心強いことです。


 DSDsを持つ子どもを育てる中で直面する困難で特殊な状況について、理解し話ができる相手が誰にもいないと感じている保護者はとても多くいます。NHS(国民保健サービス)を通じてこのような支援を受けられたことに、深い感謝の念を抱いています。


 写真が貼り付けられ、マーカーによるイラストが随所に散りばめられた本が完成した今、セラピストと看護師からは「次の最善のステップは、少し引き下がって、書かれた物語に任せることだ」とアドバイスされています。


 語られるべきことは語られました。でも、息子に「自分は身体的な違いだけで定義されている」と感じてほしくはありません。ここからは日常のルーティンに戻り、読書の宿題をし、友達と遊ぶ時間です。


 彼の手元には、いつでも手にとって振り返ることができる「自分自身の形ある本」があります。もし今後新たな問題や感情が湧き上がってきたとしても、私との対話の窓口が開かれていることを彼は知っていますし、何より、彼自身が自分のことについて語る方法を知っているのです。


(スコットランド在住・「母I」著)










 現在欧米では、尿道下裂の状態で生まれた男の子・男性たちが辛い思いをしないよう、医療での支援体制や、サポートグループが整備されています。辛い思いも嫌な思いもみんなで共有して、活き活きと人生を生きていらっしゃいます。



尿道下裂の状態で生まれた男の子と家族のサポートグループ
尿道下裂の状態で生まれた男の子と家族のサポートグループ

 DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)は、「男か女か曖昧な人」「両方合わせ持った人」「男でも女でもない性」「第三の性別」などを差す概念ではありません。また、体の性の発達状態は、性同一性・性的指向とも関係はありません。外性器の違いのある男の子も他の男の子と変わりありません。









 イギリスのDSDs:体の性のさまざまな発達(性分化疾患)のある人々・子どもたちと家族のみなさんのサポートグループ「dsdファミリーズ」の協力のもとで作成された,尿道下裂や低陰嚢形成など外性器の違いがある男の子が保育園に入る時期に,安心して保育園を選び,園と良い関係を築くための実践的なガイドです。


 保育士さんへの伝え方やプライバシーの配慮,トイレやおむつケアの具体的な相談,手術後の登園など,気になる疑問にQ&A形式で丁寧に応えています。


 園への相談方法や伝え方の工夫は、外性器の違いがある女の子の親御さんにとっても大変参考になる内容です!(画像をクリックしてください!)


コメント


海外国家機関DSDs調査報告書

ベルギー国家機関性分化疾患/インターセックス調査報告書
オランダ社会文化計画局「インターセックスの状態・性分化疾患と共に生きる」表紙

 近年、教育現場や地方・国レベルで、LGBTQ等性的マイノリティの人々についての啓発が行われるようになっています。その中で,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)が取り上げられるようになっていますが、昔の「男でも女でもない」という偏見誤解DSDについての知識が不十分なまま進められている現状があります。

 そんな中,人権施策や性教育先進国のオランダとベルギーの国家機関が,DSDsを持つ人々とご家族の皆さんの実態調査を行い報告書を出版しました。

 どちらもDSDsを持つ人々への綿密なインタビューや、世界中の患者団体、多くの調査研究からの情報などを総合し、誤解や偏見・無理解の多いDSDsについて、極めて客観的で当事者中心となった報告書になっています。世界でもこのような調査を行った国はこの2カ国だけで,どちらの報告とも,DSDsを持つ人々に対する「男でも女でもない」というイメージこそが偏見であることを指摘しています。

 ネクスDSDジャパンでは,この両報告書の日本語翻訳を行いました。

DSDs総合論考

 大変残念ながら,大学の先生方でもDSDsに対する「男でも女でもない」「グラデーション」などの誤解や偏見が大きい状況です。

 

 ですが,とてもありがたいことに,ジェンダー法学会の先生方にお声がけをいただき,『ジェンダー法研究7号』にDSDsについての論考を寄稿させていただきました(ヨヘイル著「DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患/インターセックス) 排除と見世物小屋の分裂」)。

 今回,信山社様と編集委員の先生方のご許可をいただき,この拙論をブログにアップさせていただきました。

 DSDsの医学的知見は大きく進展し,当事者の人々の実態も明らかになってきています。ぜひ大学の先生方も,DSDsと当事者の人々に対する知見のアップデートをお願いいたします。

 

 (当事者・家族の皆さんにはつらい記述があります)。

ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
ジェンダー法研究:性分化疾患/インターセックス総合論考
性分化疾患YouTubeサイト(インターセックス)
ネクスDSDジャパン:日本性分化疾患患者家族会連絡会
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